乙女座②
リシェルの。
指が。
僅かに動く。
「……そう」
一本。
《射恋》を。
指の間に挟む。
「なら」
その目が。
俺の背後へ。
向けられた。
「守ってみなさい」
「…………!」
――ヒュッ!
投げられる。
「させるか!」
前へ。
踏み込む。
《灼獅》を。
振るう。
――キン!
一本。
弾く。
けど。
「!」
弾いた杭が。
空中で。
増える。
二本。
四本。
八本。
「くっ!」
両腕を。
振るう。
――キン!
――キキン!
次々と。
弾き落とす。
でも。
「…………!」
一本。
抜けた。
俺の横を。
通り過ぎる。
後ろには。
ジル。
「させるかぁ!」
身体を。
捻る。
無理やり。
腕を伸ばす。
――ガン!
「ぐっ!」
銀爪で。
叩き落とす。
「…………」
危なかった。
あと少し。
遅れてたら。
「…………っ」
背中に。
冷たい汗が流れる。
「随分と必死ですね」
「当たり前だ!」
「…………」
リシェルが。
また。
《射恋》を構える。
「ジルは関係ないだろ!」
「…………」
「狙うなら俺を狙え!」
「貴方を逃がさないためです」
「だからって!」
――ヒュッ!
「くそっ!」
飛んでくる。
今度は。
二本。
いや。
違う。
一つが。
途中で増えた。
「っ!」
右。
左。
さらに。
上。
――キン!
「!?」
一本が。
天井近くに刺さっていた杭へ。
ぶつかる。
軌道が。
変わった。
「またか!」
弾く。
――キィン!
その杭が。
今度は。
床の杭へ。
「なっ!?」
もう一度。
跳ねる。
「二回!?」
――ザッ!
「ぐっ!」
太腿を。
掠める。
「くそ……!」
リシェルは。
見てない。
杭を。
どこへ刺したか。
確認すら。
していない。
全部。
覚えてる。
しかも。
ただ位置を。
覚えてるだけじゃない。
角度。
距離。
当てれば。
どこへ跳ねるのか。
それまで。
「…………」
頭の中で。
分かってるのか?
「面倒な女だ……」
「失礼ですね」
「褒めている!」
「そうですか」
「…………」
こんな時に。
普通に返すな。
でも。
「…………?」
なんだ。
さっきから。
妙な。
感じがする。
攻撃されてる。
本気で。
殺されかけてる。
なのに。
「…………」
リシェルを。
殴ろうとすると。
身体が。
僅かに。
鈍る。
「…………っ」
なんだ?
怖い?
違う。
こいつは。
強い。
でも。
怖くて。
動けないわけじゃない。
「…………」
むしろ。
逆。
傷つけたくない。
「は?」
何。
考えてるんだ。
俺。
「…………」
リシェルの。
髪が。
揺れる。
綺麗だ。
「…………っ!?」
いや。
待て。
なんで今。
そんなこと。
「どうしました?」
「…………」
声まで。
妙に。
耳に残る。
「疲れたのでしょう?」
「……何?」
「もう、戦わなくてもいいのですよ」
「…………」
戦わなくて。
いい?
「貴方は十分に傷ついています」
「…………」
そうだ。
身体中。
痛い。
ずっと。
戦って。
走って。
ジルを。
探して。
「少し」
リシェルが。
手を伸ばす。
「休みなさい」
「…………」
そう。
だな。
少しくらい。
休んでも――
「ガオン……様……」
「!」
後ろ。
か細い。
声。
「…………!」
侍女。
意識が。
戻ってる。
「ガオン……様……逃げ……」
「…………っ!」
瞬間。
頭が。
冴えた。
「何やってんだ俺!」
拳を。
握る。
目の前には。
リシェル。
後ろには。
ジルと。
動けない侍女。
「…………」
今。
俺。
何しようとした?
戦うのを。
やめようとした?
こいつに。
殺されかけてるのに?
「……リシェル」
「はい?」
「これも」
《灼獅》を。
構え直す。
「乙女座の力か?」
「…………」
リシェルが。
微笑む。
「さあ?」
「…………」
その笑顔を。
見た瞬間。
また。
胸が。
ざわつく。
「くそっ……」
間違いない。
まともに。
やり合ったら。
まずい。
杭だけじゃない。
こいつ。
俺の心にまで。
何かしてる。




