妹を探すので忙しいんだ
◇ ◇ ◇
「はぁ……っ」
走る。
「はぁ……はぁ……!」
身体中が。
痛い。
「くっ……!」
脇腹を押さえる。
手のひらに。
血がつく。
「…………」
まだ。
動ける。
こんなの。
どうってことない
「はぁ……」
一度。
壁に手をつく。
息を。
整える。
「…………」
あれから。
どのくらい。
時間が経った?
遠くを見る。
王宮から上がった。
黒い煙は。
まだ。
空に残っている。
「…………」
あの夜。
文書庫へ向かう途中。
突然。
俺達は襲われた。
飛んできた。
金属の杭。
そして。
俺達を囲んだ。
黒装束の奴ら。
戦った。
姉上と。
セヴェルと。
三人で。
でも。
それだけじゃ。
終わらなかった。
王宮の鐘。
王都の。
あちこちから響いた鐘。
窓の外では。
一つ。
また一つと。
炎が上がっていった。
「…………」
そこからは。
滅茶苦茶だった。
王宮の中へ。
次々と押し寄せる兵士。
逃げ惑う人達。
あちこちで。
始まる戦闘。
炎。
煙。
悲鳴。
誰が。
味方で。
誰が。
敵なのか。
それすら。
分からなくなって。
気づいた時には。
「…………くそっ」
姉上と。
逸れた。
セヴェルとも。
逸れた。
二人が。
今どこにいるのか。
分からない。
無事なのかも。
分からない。
「…………」
探したい。
姉上も。
セヴェルも。
父上も。
みんな。
探さないと。
「…………っ」
いや。
今は。
「ジル……」
ジルが先だ。
あの夜。
俺達が文書庫へ向かう前。
ジルは。
姉上の侍女に預けた。
姉上は。
ジルと約束した。
すぐ戻るって。
小さな指を。
絡ませて。
「…………」
それなのに。
襲撃が始まってから。
ジルの姿を。
一度も見ていない。
預けた侍女も。
見つからない。
「くそっ……!」
嫌なことを。
考えるな。
無事だ。
ジルは。
絶対に。
無事だ。
「……今はジルが先だ!」
壁から。
手を離す。
「っ……!」
身体中が。
悲鳴を上げる。
知るか。
こんな傷。
どうだっていい。
「ジル!!」
走る。
「ジルー!!」
返事は。
ない。
道を曲がる。
「ジル!!」
建物の中を。
覗く。
いない。
「くそっ!」
次だ。
まだ。
探してない場所がある。
「ジルー!!」
走るたび。
傷口から。
血が滲む。
脚が。
重い。
息も。
苦しい。
それでも。
止まれない。
「どこだ!!」
頼む。
返事してくれ。
「ジル!!」
怪我しててもいい。
泣いててもいい。
怒っててもいい。
だから。
「返事しろ!!」
生きて。
いてくれ。
「――いたぞ!」
「!」
声。
足を止める。
振り返る。
「…………」
道の向こうから。
武装した兵士達が。
走ってくる。
「ガオン王子だ!」
「逃がすな!」
「反逆者を捕らえろ!」
「…………」
またか。
「はぁ……」
俺が。
反逆者。
何度聞いても。
意味が分からない。
「囲め!」
「抵抗するなら構わん!」
兵士達が。
一斉に。
武器を構える。
「…………」
こっちは。
身体中。
傷だらけ。
正直。
こんな奴らと。
戦ってる場合じゃない。
「……悪いな」
兵士達を。
睨む。
「俺は今……」
ゆっくりと。
両手を。
ポケットへ突っ込む。
「妹を探すので忙しいんだ」
「?」
指先に。
硬い感触。
それを。
握る。
――カチッ。
「…………!」
小さな。
機械音。
ポケットの中から。
銀色の装甲が。
両手を這い上がる。
ガチャン。
ガコン。
金属が。
折り畳まれ。
組み替わり。
手首を越え。
両腕を覆っていく。
「なっ……!」
ゆっくり。
両手を。
ポケットから引き抜く。
銀色の。
二つの籠手。
指先には。
獣のように。
鋭い爪。
そして。
両方の手のひらには。
ぽっかりと。
穴が開いている。
「魔器……?」
「ガオン王子が……?」
「…………」
ヴォルグで。
奪った魔器。
《灼獅》。
――ガシュン!
両手の爪が。
鋭く伸びる。
「最後に言う」
両腕を。
だらりと下ろす。
「そこを退け」
「怯むな!」
「相手は一人だ!」
「捕らえろ!」
兵士達が。
一斉に。
走り出す。
「…………そうか」
なら。
仕方ない。
「――っ!」
身体に。
力を込める。
熱い。
身体が。
どんどん。
熱くなっていく。
体温を。
上げる。
もっと。
もっと。
肌から。
陽炎が立ち昇る。
「ぐっ……!」
傷口が。
焼けるように痛む。
それでも。
止めない。
さらに。
体温を上げる。
その瞬間。
両手のひらから。
低い音が響いた。
ゴォォォォォッ!
「なっ!?」
身体から。
溢れ出した熱。
それを。
《灼獅》が。
吸い込んでいく。
銀色の籠手が。
少しずつ。
赤く染まる。
「…………」
ジル。
待ってろ。
「すぐ行くからな」
腰を落とす。
両腕を。
構える。
「邪魔を――」
地面を。
蹴る。
「すんなぁぁぁぁ!!」
灼熱を纏った。
二つの銀爪が。
兵士達へ。
襲いかかった。




