反旗
診療所の扉を。
セブランさんが開ける。
「入ってくれ」
「はい」
中へ。
足を踏み入れる。
「…………!」
思わず。
息を呑んだ。
人。
人。
人。
思っていたより。
ずっと多い。
寝台だけじゃ足りないのか。
床に敷かれた布の上にも。
何人もの人が横になっている。
腕に包帯を巻いた人。
頭から血を流した人。
苦しそうに。
呼吸をしている人。
「…………」
子供まで。
「セブラン先生!」
「!」
一人の女性が。
駆け寄ってくる。
「その方も?」
「あぁ。新しい負傷者だ」
「すぐ場所を!」
「頼む」
俺達が運んできた人を。
空いている場所へ。
ゆっくりと下ろす。
「レテさん」
「はい」
「もう少しだけ手を借りても?」
「もちろんです」
レテが。
セブランさんと一緒に。
負傷者の治療へ向かう。
「私も手伝う!」
フィリアも。
その後を追った。
「フィリア」
「治療はできないけど、包帯くらいなら巻けるよ!」
「……無理はするなよ」
「分かってる!」
「僕も手伝いますよぉ」
ユノも。
周囲を見回す。
「術で回復を早めますよ」
「…………」
俺も。
「俺も――」
「アルト」
「?」
ログに。
肩を掴まれた。
「お前は待て」
「なんで!?」
「お前が近づいたら、契約精霊が怯えるだろ」
「あ……」
そうだった。
「精霊術で治療してる奴がいるなら、邪魔になるかもしれねぇ」
「…………」
何も。
言い返せない。
「……分かった」
「そんな顔すんな」
「してない」
「してる」
「してないって」
「…………」
でも。
悔しい。
目の前に。
こんなに怪我してる人がいるのに。
俺には。
何もできない。
「坊主」
「?」
バルガス隊長。
「できねぇことまでやろうとすんな!」
「…………」
「今はできる奴に任せろ!」
「……はい」
「必要になりゃ嫌でも働かせてやる!」
「それはそれで嫌だな……」
「ダッハハハハ!」
「…………」
少しだけ。
気が楽になった。
「んで……」
ロイド隊長が。
診療所の中を見回す。
「こいつら全員、今回の?」
「…………」
治療を終えた。
セブランさんが。
こちらへ戻ってくる。
「全員ではありません」
「?」
「ここにいるのは、ごく一部です」
「…………」
ごく。
一部?
「他にも診療所が?」
「診療所だけでは足りません」
セブランさんが。
手についた血を。
布で拭う。
「民家や倉庫にも負傷者を集めています」
「…………」
こんなにいるのに。
これで。
一部。
「死者は?」
ロイド隊長が聞く。
「…………」
セブランさんの手が。
止まった。
「います」
「どれくらいだ?」
「正確には分かりません」
「…………」
「王宮周辺には、まだ近づけない場所も多い」
セブランさんが。
静かに答える。
「だから……」
一度。
診療所の中を見る。
「これから増えるでしょう」
「…………」
誰も。
何も言わなかった。
「セブラン」
バルガス隊長が。
腕を組む。
「話せる範囲でいい」
「はい」
「何が起きた?」
「…………」
セブランさんが。
少し考える。
「私が知っていることだけになりますが」
「構わん!」
「…………」
近くの椅子を。
一つ引く。
「数日前です」
「数日前……」
「突然」
セブランさんが。
王宮のある方角を見る。
「王宮から火の手が上がりました」
「…………」
「最初は、私も火事だと思った」
「違った?」
パイルさんが聞く。
「あぁ」
「…………」
「すぐに兵士達が街へ出てきた」
「ルミナス軍か?」
「そうです」
「…………」
「ただ」
セブランさんの表情が。
僅かに曇る。
「様子がおかしかった」
「どういうことだ?」
「彼らは消火にも」
一拍。
「住民の避難にも向かわなかった」
「…………」
「王宮へ続く道を封鎖したんです」
「!」
「王宮を?」
「あぁ」
ロイド隊長の目が。
細くなる。
「誰も近づけないように?」
「そうです」
「…………」
「それだけではありません」
セブランさんが続ける。
「兵士達は、こう言いました」
「…………」
「ガオン王子が」
俺の身体が。
反応する。
「王家に反旗を翻した、と」
「…………え?」
何を。
言ってる?
「ガオンが……?」
「はい」
「そんなわけない!」
思わず。
声が出た。
「アルト」
「だって!」
ガオンが。
王家に?
「ガオンは王子なんだろ!?」
「落ち着け、坊主!」
「でも!」
「アルト君」
「!」
パイルさん。
「セブランさんは、兵士がそう言っていたと教えてくれているだけだよ」
「…………」
「……すみません」
「いや」
セブランさんが。
俺を見る。
「君は、ガオン王子の知り合いなのか?」
「…………」
知り合い。
いや。
「友達です」
「…………」
「ガオンは」
拳を握る。
「俺の友達です」
「……そうか」
セブランさんが。
小さく頷く。
「なら」
「?」
「君が知っている彼を信じるといい」
「…………!」
「少なくとも私は」
診療所の中を見る。
「何が真実なのか、まだ分からない」
「…………」
「だからこそ」
俺達を見る。
「確かめる必要がある」
「……はい!」
「それで?」
ロイド隊長が。
壁にもたれながら聞く。
「兵士共は、ガオン王子が反乱を起こしたって言ってたんだな?」
「はい」
「王様は?」
「…………」
「無事なのか?」
「分かりません」
「他の王族は?」
「それも」
「…………」
ロイド隊長が。
頭を掻く。
「めんどくせぇな……」
でも。
その顔は。
全然。
面倒くさそうには見えなかった。




