セブラン・スコルネ
◇ ◇ ◇
さらに。
王宮へ向かって進む。
「…………」
さっきまでとは。
明らかに景色が違う。
壊れた荷車。
割れた窓。
崩れた壁。
道の端には。
何かを引きずったような跡まで残っている。
「これが……」
ずっと。
見えてなかった?
「…………」
さっきロイド隊長が言った。
見せられていた。
その言葉が。
頭から離れない。
「アルトくん」
「?」
「大丈夫ですか?」
レテが。
俺の顔を覗き込む。
「あ……うん」
「…………」
レテは。
まだ少し心配そうだったけど。
それ以上は何も言わなかった。
「おい」
「!」
ロイド隊長が。
片手を上げる。
「止まって」
一気に。
全員の足が止まった。
「どうした?」
「…………」
ロイド隊長が。
道の先を見る。
「なんか聞こえねぇ?」
「音?」
「いや……」
静かになる。
「…………」
風の音。
木々が揺れる音。
その中に。
「……ぅ……」
「!」
小さな。
声。
「人です!」
レテが。
声のした方を見る。
建物の陰。
「行きます!」
「おい! 一人で行くな!」
「はい!」
みんなで。
建物の裏へ回る。
「…………!」
そこに。
一人の男の人が倒れていた。
服は汚れ。
身体には。
いくつもの傷。
「大丈夫ですか!」
駆け寄ろうとした。
その時。
「待ってくれ!」
「!」
知らない声。
足を止める。
建物の奥から。
一人の男が姿を現した。
「動かさないでくれ」
「え?」
「肋骨を痛めている可能性がある。下手に動かせば危険だ」
「…………」
男は。
ゆっくりと。
両手を上げる。
「敵意はない」
「そこで止まれ!」
バルガス隊長が。
前へ出る。
「何者だ!」
「…………」
男は。
素直に足を止めた。
「セブラン」
一度。
倒れている人を見る。
「セブラン・スコルネだ」
「スコルネ……」
ロイド隊長が。
ぽつりと呟く。
「医者の一族か」
「……よく知ってますね?」
「まぁなぁ……」
「私は医者をしている。彼の治療も私がしていた」
「医者……」
レテが。
倒れている人を見る。
「なら、私も手伝います」
「君は?」
「水の精霊術師です。治癒の術が使えます」
「それは助かる」
セブランさんが。
すぐにその場へしゃがみ込む。
「ただ、私の指示に従ってくれ。まずは呼吸を安定させたい」
「分かりました」
レテも。
隣へ座る。
「…………」
迷いがない。
怪我人の身体へ触れ。
呼吸を確認して。
傷の状態を。
一つずつ見ていく。
「ここへ水を。ゆっくりだ」
「はい」
レテの手から。
水が流れる。
「そう。それでいい」
「…………」
すごい。
手際が。
全然違う。
「……よし」
しばらくして。
セブランさんが。
息を吐いた。
「これなら大丈夫だ」
「本当ですか?」
「あぁ」
「よかった……」
俺も。
思わず息を吐く。
「助かった。君の術がなければ、もう少し時間がかかった」
「いえ。私だけでは何もできませんでした」
「それでもだ。ありがとう」
「はい」
セブランさんが。
立ち上がる。
そして。
俺達の軍服へ目を向けた。
「ところで……」
その視線が。
ロイド隊長で止まる。
「ん?」
「あなた……ガイストの国境警備隊の人ですか?」
「あ?」
ロイド隊長が。
自分の軍服を見る。
「あー……そうだ」
「…………」
次の瞬間。
セブランさんの表情が変わった。
「……あなた達は何をしていたんだ!」
「!」
突然の大声。
「王宮が襲われた! あれだけの火事まで起きたんだぞ!」
「…………」
「国境警備隊なら、ルミナスを監視していたんじゃないのか!」
「……してたよ」
「なら!」
セブランさんが。
焼けた王宮を指差す。
「これほどのことが起きていたのに、何も気づかなかったのか!?」
「…………」
ロイド隊長は。
言い返さなかった。
ただ。
面倒そうに。
頭を掻く。
「……気づいてねぇよ」
「…………何?」
「毎日見てた」
「…………」
「俺だけじゃねぇ。部下全員でだ」
ロイド隊長が。
遠く。
焼けた王宮を見る。
「あれだけの火事だ」
「…………」
「本来なら、国境からでも異変くらい分かったはずだ」
「…………」
「なのに」
長い前髪の奥。
その目が。
僅かに細くなる。
「誰一人、気づかなかった」
「…………」
セブランさんが。
ロイド隊長を見る。
「……誰一人?」
「あぁ」
「王宮の火も?」
「見えてねぇ」
「…………」
僅かな。
沈黙。
「……そう、ですか」
「信じられねぇだろ?」
「…………」
「俺もだよ」
ロイド隊長が。
煙草を一本取り出す。
「だから俺達も、何が起きてんのか調べに来た」
「…………」
セブランさんは。
しばらく。
何も言わなかった。
「……すみません」
「あ?」
「事情も知らず、責め立ててしまった」
「別に」
ロイド隊長が。
煙草を咥える。
「そう思うのが普通だろ」
「…………」
「俺だって」
火をつける。
煙を。
ゆっくり吐き出す。
「自分の目が信じられなくなってるとこなんでねぇ……」
「それで!」
バルガス隊長が。
一歩前へ出る。
「セブランと言ったな!」
「はい」
「俺達はルミナスで起きている事態の調査に来た!」
「…………」
「何か知っていることはないか?」
「あります」
「!」
「私が知っていることでよければ、全て話します」
「そうか!」
「ただ……」
セブランさんが。
周囲を見る。
「ここでは危険です」
「…………」
「まだ、この辺りを兵が巡回しています」
「ルミナス兵か?」
「はい」
セブランさんが。
静かに頷く。
「今は……王宮を襲った側についている兵達です」
「…………」
空気が。
一気に変わる。
「安全な場所があります」
セブランさんが。
倒れている人へ目を向ける。
「この人も、そこへ運びたい」
「よし!」
バルガス隊長が。
俺達を見る。
「手伝うぞ!」
「はい!」
俺達は。
怪我人を運びながら。
セブランさんの案内で。
再び歩き始めた。




