見せられてたのか?
◇ ◇ ◇
星詠国家ルミナス。
国境を越え。
俺達は。
ついにガオンの国へ入った。
「…………」
ここが。
ルミナス。
思わず。
辺りを見回す。
広く伸びた道。
その先には。
小さな集落が見える。
遠くには山々。
そして。
道の脇や建物には。
星を模した装飾が。
いくつも飾られていた。
「すげぇ……」
ここが。
ガオンの生まれた国。
「アルトくん」
「はい?」
「置いていかれますよ」
「あ!」
少し先から。
レテが俺を見ていた。
「待ってください!」
慌てて。
みんなを追いかける。
「ったく」
ログが。
呆れたように俺を見る。
「入って早々、逸れんなよ」
「逸れてないよ!」
「今、逸れかけてただろ」
「ちょっと見てただけだって!」
「さっき言われたばっかりだろうが」
「分かってるよ!」
「あっははは!」
フィリアが。
楽しそうに笑う。
「アルト、絶対迷子になる!」
「ならない!」
「なりそうですねぇ」
「ユノまで!」
「お前ら!」
前を歩いていた。
バルガス隊長が振り返る。
「遊びに来たんじゃねぇぞ!」
「はい!」
「すみません!」
「ダッハハハハ!」
「隊長が一番うるさいですよぉ」
「そうか?」
「そうですよぉ」
「…………」
そんな俺達の。
少し前。
ロイド隊長だけは。
さっきから。
ほとんど喋っていない。
「…………」
歩きながら。
右を見る。
左を見る。
時折。
遠くへ視線を向ける。
「…………?」
さっきまで。
あんなに面倒くさそうにしてたのに。
「ロイド」
「あー……?」
バルガス隊長も。
気づいたみたいだ。
「どうした?」
「…………」
ロイド隊長が。
足を止める。
「いや……」
頭を掻く。
「なんか変なんすよねぇ……」
「変?」
「はい」
「何がだ?」
「…………」
ロイド隊長が。
周囲を見回す。
「それが分かんねぇから、めんどくせぇんすよ……」
「…………」
俺も。
辺りを見る。
道。
家。
畑。
特に。
変なところはない。
「俺、この辺は何度も来てるんすけどねぇ……」
ロイド隊長が。
懐から煙草を取り出す。
「国境の仕事してりゃ、嫌でも覚える」
口に咥える。
でも。
火はつけない。
「人が少ねぇ」
「人?」
「あぁ」
言われてみれば。
確かに。
家はある。
畑もある。
なのに。
人の姿が。
ほとんどない。
「今回の騒ぎで、家に隠れてるんじゃないですか?」
「だったらいいんだけどなぁ……」
ロイド隊長が。
道の脇を見る。
「…………」
そこには。
一台の荷車。
荷物が。
積まれたまま。
放置されていた。
「逃げたにしちゃ……」
その横を通り過ぎる。
「物が残りすぎてる」
「…………」
今度は。
一軒の家。
扉が。
開いたままになっている。
「閉じ籠もってるにしちゃ……」
ロイド隊長が。
目を細める。
「生活の途中すぎる」
「…………」
なんだ?
なんか。
嫌な感じがする。
「ロイド」
バルガス隊長の声も。
少し低くなる。
「どう見る?」
「さぁ……」
「お前なぁ!」
「分かってたら、とっくに報告してますよ……」
「む……それもそうか」
「でしょ?」
ロイド隊長が。
ようやく煙草に火をつける。
「ただ……」
煙を吐く。
「俺達もずっと目ぇ光らせてたんすよ」
「…………」
「ルミナスに出入りする人間も。物資も。兵士の動きも」
歩きながら。
遠くを見る。
「なのに……何も掴めなかった」
「…………」
「こんだけ人が消えるまで、なんもねぇなんて……」
煙草を。
指に挟む。
「やっぱ気持ち悪ぃな」
「…………」
俺達は。
そのまま。
さらに奥へ進む。
そして。
しばらく歩いた頃。
「…………?」
不意に。
変な感覚がした。
「……なんだ?」
何かを。
通り抜けた?
いや。
何もない。
風も。
景色も。
変わってない。
なのに。
一瞬だけ。
目の前が揺らいだような。
「アルトさん?」
「ユノ」
「どうしました?」
「いや……」
振り返る。
何もない。
「なんでもない」
気のせいか?
「…………」
再び。
前を見る。
その時。
「……は?」
ロイド隊長が。
足を止めた。
「どうした?」
「…………」
返事がない。
「ロイド?」
「…………」
ロイド隊長は。
ただ。
遠くを見ていた。
俺も。
その視線を追う。
「…………!」
遠く。
街の向こう。
大きな建物が見える。
「あれって……」
「王宮だ」
バルガス隊長が。
答える。
ルミナスの。
王宮。
でも。
「…………」
おかしい。
その一角が。
黒い。
焼けている。
壁の一部は崩れ。
明らかに。
何かがあった跡。
「……火事?」
フィリアが。
小さく呟く。
「…………」
誰も。
答えない。
「おい……」
ロイド隊長。
さっきまでの。
気怠そうな声じゃない。
「バルガス隊長」
「なんだ」
「あれ……燃えた跡っすよね?」
「あぁ」
「…………」
ロイド隊長が。
煙草を口から外す。
「俺……知らねぇんだけど」
「何?」
「…………」
王宮を。
じっと見る。
「昨日も」
一歩。
前へ出る。
「一昨日も」
「…………」
「その前も……」
長い前髪の奥。
その目が。
王宮を睨んでいる。
「俺達は毎日、ルミナスを見てた」
「…………」
「あれだけ燃えりゃ……」
煙草を持つ手に。
力が入る。
「夜なら嫌でも分かる」
「…………!」
確かに。
あんな大きな建物が。
燃えたなら。
煙だって。
炎だって。
遠くから見えるはず。
「なのに……」
ロイド隊長が。
ゆっくり。
後ろを見る。
俺達が。
今通ってきた道。
「何も見えなかった」
「…………」
風が。
吹き抜ける。
「……なんだよ、これ」
小さく。
ロイド隊長が呟いた。
「ロイド」
「あぁ……」
バルガス隊長を見る。
「こりゃ……思ってたより」
煙草を。
地面へ落とす。
踏み消す。
「めんどくせぇことになってますねぇ……」
「…………」
俺は。
もう一度。
王宮を見る。
焼けた。
ガオンの家。
「…………ガオン」
胸の奥が。
ざわつく。
早く。
早く行かないと。
「アルト」
「!」
ログの声。
「勝手に走るなよ」
「…………」
足を見る。
いつの間にか。
一歩。
前へ出ていた。
「……分かってる」
「ならいい」
「…………」
焦るな。
みんながいる。
一人で。
行くんじゃない。
「進むぞ!」
バルガス隊長の声。
「ここからは警戒を強める! 絶対に逸れるな!」
「はい!」
全員が。
動き出す。
その時。
「…………」
ロイド隊長だけが。
一度。
後ろを振り返った。
俺達が。
通り抜けてきた場所。
「…………」
何もない。
ただの道。
ただの景色。
「……見えなかったんじゃねぇ」
小さな声。
「…………?」
「ロイド隊長?」
「あ?」
「今、何か言いました?」
「いや……」
頭を掻く。
「なんでもねぇよ」
そう言って。
歩き出す。
「…………」
でも。
俺には。
聞こえていた。
「……見せられてたのか?」
その言葉の意味を。
この時の俺は。
まだ。
知らなかった。




