颶風③
フィリアの目が大きく見開かれた。
口元から、細い血が流れ落ちる。
「フィリア!」
アルトが立ち上がろうとする。
男は《裂兎》を引き抜き、フィリアの身体を蹴り離した。
鮮血が宙へ散る。
フィリアは力なく地面へ倒れ、《遠音》が手から転がり落ちた。
「フィリア!」
ヒルトが《ツインコード》を撃つ。
二発の弾丸が男へ迫った。
男が《裂兎》を払う。
刀身の溝を翠色の光が走り、巻き起こった風が弾丸の軌道を逸らした。
その隙にヒルトが駆ける。
フィリアのそばへ滑り込み、その身体を抱き起こした。
「フィリア。聞こえる?」
「……ヒル……ト……」
掠れた声が返る。
腹部から流れる血は止まらない。
呼吸も浅く、今にも途切れそうだった。
「喋らなくていい。」
ヒルトは外套を裂き、傷口へ強く押し当てる。
だが、布はすぐに赤く染まっていく。
「まずい……」
ヒルトは顔を上げた。
アルトはすでに立ち上がり、《砕》を握って男を睨んでいる。
「アルト!」
「なんだ!」
「フィリアを連れて、救援を呼んできて!」
アルトが振り返る。
「ヒルトはどうするんだ?」
「僕はここに残る。」
「一人であいつと戦うのか?」
「戦うんじゃない。時間を稼ぐだけ。」
ヒルトはフィリアを抱えたまま立ち上がった。
「君の方が速い。」
「フィリアを抱えていても、僕より早く本部へ着ける。」
アルトはフィリアの青ざめた顔を見る。
それから、《裂兎》を下げたまま立つ男へ視線を向けた。
「でも――」
「早く!」
ヒルトの声が森へ響く。
「このままだと、フィリアが死ぬ!」
アルトの表情から迷いが消えた。
「……分かった。」
ヒルトからフィリアを受け取る。
その身体は驚くほど軽く、力が抜けきっていた。
「ヒルト。」
「何?」
「死ぬなよ。」
ヒルトは一瞬だけ目を見開く。
それから、小さく笑った。
「善処するよ。」
アルトはフィリアを抱きかかえ、《砕》を背へ回した。
男を睨みつける。
「絶対に戻ってくる。」
「好きにしろ。」
男は追おうとしなかった。
「行け、アルト!」
「ああ!」
アルトが地面を蹴る。
土が大きく抉れ、その身体が木々の間へ飛び込んだ。
瞬く間に、アルトとフィリアの姿が森の奥へ消えていく。
ヒルトは二人の姿が見えなくなるまで見送ると、《ツインコード》を構え直した。
二丁の銃口が、男を捉える。
膝は震えていた。
「……さて、いつまでもつかな。」




