合流地点
◇ ◇ ◇
合流地点。
「…………」
着いた。
着いちまった。
「……早く来いって言われてもなぁ」
近くの木にもたれ。
煙草を咥える。
「いつ来るか分かんねぇんじゃ、待つしかねぇじゃん……」
煙を吐く。
「はぁ……」
暇だ。
「酒でも持ってくりゃよかったな……」
もう一本。
煙草でも吸うか。
そう思った。
その時だった。
――ドドドドドドドドドドッ!
「…………あ?」
地面が。
微かに震える。
遠くから。
何かが近づいてくる。
「…………」
なんだ?
この音。
馬?
いや。
馬車か?
音は。
どんどん大きくなっていく。
「……うるせぇな」
煙草を捨て。
近くの木へ登る。
枝に腰を下ろし。
音のする方を見る。
「…………」
土煙。
その中から。
何かが見えてきた。
「…………は?」
馬車。
多分。
馬車だ。
だが。
その上には。
でけぇ帆みたいなもんが付いている。
それが。
風を受けながら。
とんでもねぇ速度で。
こっちへ向かってくる。
「なんだ……あれ……」
しかも。
うるせぇ。
「ダッハハハハ!」
「あっはははは!」
「アルトくーん! 大丈夫ですかー!」
「じゃなぁぁぁぁい!」
「…………」
なんか。
すげぇ騒がしい。
笑ってる奴。
心配してる奴。
何か叫んでる奴。
そして。
馬車が止まると。
一人のガキが。
ふらふらと降りた。
「うっ……おぇ……」
「…………」
地面に手をついて。
吐いている。
「…………」
木の上から。
その光景を眺める。
「……帰りてぇ」
◇ ◇ ◇
「ダッハハハハ! すごいな! 今日中に着くなんて!」
バルガス隊長が。
豪快に笑っている。
「うっ……」
俺は。
それどころじゃない。
「おぇ……」
気持ち悪い。
もう。
絶対ソリなんて乗らない。
レテから貰った水で。
なんとか。
吐き気も落ち着いてきた。
「…………ん?」
バルガス隊長が。
辺りを見回す。
「ロイドめ……まだ来てないのか?」
「とっくに着いてますよ」
「?」
声。
どこから?
上?
見上げる。
「…………」
木の枝に。
一人の男が座っていた。
黒い髪。
寝起きみたいに。
あちこちへ跳ねた。
ボサボサの髪。
前髪は長く。
目元が。
ほとんど隠れている。
口元には。
無精髭。
軍服は着ている。
でも。
アーヴェル隊長達みたいに。
きっちりと着こなしている感じじゃない。
最低限。
軍人に見える程度には整えている。
そんな感じ。
そして。
腰には。
ガイスト軍でよく見る。
標準装備の剣が一本。
「…………」
この人が?
「なんだ」
バルガス隊長も。
男を見上げる。
「お前、なんでそんなところにいる」
「そりゃ……」
男が。
気怠そうに頭を掻く。
「意味の分からん馬車が轟音立てて近づいてきたら、隠れるでしょ?」
「ダッハハハハ!」
バルガス隊長が。
馬車を叩く。
「これのおかげで早く着いたぞ!」
「早く着きすぎだっつーの……」
男が。
小さく呟く。
「あ!」
パイルさんが。
嬉しそうに手を振った。
「久しぶり! ロイド君!」
そして。
すぐに言い直す。
「いや! ロイド隊長!」
「おうおう……」
男が。
木から降りてくる。
「ヴェロニカ隊長んとこの副官殿じゃねぇか」
「久しぶり!」
「俺と変われよ」
「うん! 嫌だ!」
「ちっ……」
「…………」
この人が。
ロイド隊長。
「んで……」
ロイド隊長が。
俺達を見渡す。
「このガキどもは?」
「ガキ……」
フィリアが。
少し頬を膨らませる。
それから。
順番に。
簡単な自己紹介をしていく。
「レテ・オーズィラです。よろしくお願いします」
「フィリア・リーベです!」
「ユノ・フェルメルです。よろしくお願いしますねぇ」
そして。
ログ。
「ログ・スミスマンです」
「おう」
「…………」
ログが。
ロイド隊長を見る。
上から。
下まで。
じっと。
「…………」
「なんだよ」
「……ほんとにこの人が隊長なんですか?」
「あぁ!」
バルガス隊長が。
即答する。
「…………」
ログが。
もう一度。
ロイド隊長を見る。
「…こんな人が…ですか?」
「ヒュゥー!」
ロイド隊長が。
口笛を吹く。
「言うねぇ。坊主」
「…………」
ログが。
ロイド隊長を睨む。
「やめろ! ログ!」
バルガス隊長が。
すぐに止める。
「ロイドも挑発するな!」
「はいはい……」
「ったく……」
バルガス隊長が。
頭を掻く。
「こいつら、一人は俺の隊のモンだ! あとはアーヴェルのとこのモンだ!」
「へぇー……」
ロイド隊長が。
一人ずつ。
俺達を見る。
そして。
「で」
その目が。
俺で止まった。
「こいつは?」
「え?」
次の瞬間。
「…………」
冷たいものが。
首元に触れていた。
「…………え?」
剣。
ロイド隊長が。
剣を抜いている。
さっき。
腰に差していた。
何の変哲もない。
ガイスト軍の標準装備。
その剣の切っ先が。
俺の首元で。
ぴたりと止まっていた。
「アルトくん!」
「アルト!」
「何してんだ!」
「アルトさん!」
レテ。
フィリア。
ログ。
ユノ。
みんなの声が。
一斉に響く。
「…………」
でも。
俺は。
動けなかった。
いや。
違う。
動けなかったんじゃない。
分からなかった。
全然。
殺気を感じなかった。
それどころか。
いつ。
剣を抜いた?
「…………」
見えなかった。
速い?
いや。
なんか。
違う。
速いっていうより。
「……巧い?」
「やめろ」
バルガス隊長の声。
「そいつも身内だ」
「…………」
ロイド隊長は。
俺から目を逸らさない。
長い前髪の奥。
さっきまでは。
ほとんど見えなかった目が。
僅かに。
覗いている。
「精霊が怯えてる」
「…………」
さっきまでの。
気怠そうな雰囲気が。
消えている。
「ロイド」
バルガス隊長が。
低い声で言う。
「やめろ」
「…………」
剣は。
動かない。
「ロイド!!」
「…………ちっ」
ようやく。
首元から。
剣が離れた。
そして。
何事もなかったように。
腰の鞘へ納められる。
「…………」
俺は。
自分の首元へ。
そっと手を当てる。
全然。
見えなかった。
殺気すら。
感じなかった。
あの剣だって。
霊器じゃない。
ただの。
ガイスト軍の標準装備。
なのに。
「…………」
この人が。
ルミナス方面を守る。
国境警備隊長。
ロイド。
「…………」
なんだ。
この人。




