↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
335/475

短い命令

     ◇ ◇ ◇


 翌朝。


「…………」


 目を覚まして。


 最初に目に入ったのは。


 馬車だった。


「…………」


 いや。


 馬車なのは。


 間違いない。


 間違いないんだけど。


「…………なにこれ」


 昨日までは。


 なかったものがある。


 馬車の上。


 そこに。


 大きな布が。


 帆のように張られていた。


 しかも。


 木材で作られた骨組みに。


 しっかりと固定されている。


「あぁ! おはよう!」


「…………」


 パイルさん。


「おはようございます……」


「よく眠れた?」


「はい……」


 もう一度。


 馬車を見る。


「あの……これは?」


「うん!」


 パイルさんが。


 爽やかに笑った。


「これで早く着けるよ!」


「…………」


「…………」


「え?」


     ◇ ◇ ◇


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 風。


 風。


 風。


「死ぬ! ほんとに死ぬ!」


 ガタガタガタガタ!


 昨日より。


 明らかに速い。


「ルミナスに着く前にぃぃぃぃぃ!」


「《追風》!」


 パイルさんが。


 帆へ向けて術を放つ。


「《追風》!」


 フィリアも。


 同じように。


 風の術を放った。


 大きく張られた帆が。


 風を受け。


 パンッ!


 と。


 勢いよく膨らむ。


「速い速い速い速い!」


 馬達には。


 昨日と同じく。


 ユノの《活火》。


 身体能力を引き上げながら。


 レテの《水衣》で。


 上がりすぎる体温を冷やす。


 水分も補給させ。


 そこへ。


 新たに。


 二人分の風。


 馬。


 活火。


 水衣。


 追風。


 全部が合わさって。


「いやぁぁぁぁ!」


 馬車が。


 とんでもない速度で。


 大地を駆け抜けていた。


「いやー!」


 パイルさんが。


 楽しそうに帆を見上げる。


「昨日、ログくんが作ってくれたんだ! さすがは鍛冶屋だ!」


「いやー! それ程でも!」


 ログが。


 照れたように頭を掻く。


 そして。


 俺を見る。


「…………」


「…………」


 ふっ。


 鼻で笑った。


 そのまま。


 親指を立てる。


「ログぅぅぅぅ!」


 お前!


 絶対。


 分かってて作っただろ!


「あの……隊長」


「どした?」


 ユノが。


 後ろを振り返る。


「アルトさん……大丈夫ですかね?」


「んー」


 バルガス隊長も。


 ソリの上で必死に踏ん張る俺を見る。


「まぁ、大丈夫だろ!」


 一拍。


「多分!」


「多分!?」


「アルトくーん!」


 レテが。


 馬車から身を乗り出す。


「大丈夫ですかー?」


「じゃなぁぁぁぁい!」


「あっはははは!」


 フィリアが。


 腹を抱えて笑っている。


「お腹痛い! アルト、顔すごい!」


「フィリアぁぁぁ!」


「ダッハハハハ!」


 バルガス隊長まで。


 笑い始める。


「だが、坊主!」


「なんですかぁぁぁ!」


「この速度なら!」


「はいぃぃぃ!」


「明日には合流地点に着くぞ!」


「…………!」


 明日。


「ほんと!?」


「ほんとほんと!」


「…………」


 だったら。


「じゃあ頑張る!!」


「おう! その意気だ!」


「よし!」


 パイルさんが。


 嬉しそうに笑う。


「じゃあ、もっとスピード上げよう!」


「…………」


「は……?」


「フィリアくん!」


「はーい!」


「もう一回いくよ!」


「はい!」


「ちょ」


 帆が。


 さらに大きく膨らむ。


「待っ――」


 ガクンッ!


 身体が。


 後ろへ持っていかれる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


     ◇ ◇ ◇


「ダッハハハハ!」


 夕暮れ。


 バルガス隊長が。


 豪快に笑う。


「すごいな! 今日中に着くなんて!」


「…………」


 その少し離れた場所。


「うっ……おぇ……」


 俺は。


 地面に手をついていた。


「…………もう……ソリ……嫌だ……」


「アルトさん……」


 ユノが。


 心配そうに俺を見る。


 その手は。


 馬達へ向けられていた。


「《暖脈》」


 柔らかな熱が。


 走り続けた馬達の身体を包んでいく。


「馬も潰れずによかったです……」


「ユ……ユノ……」


「はい?」


「俺にも……それを……」


「…………」


 ユノが。


 困ったように笑う。


「アルトさんには、僕は術をかけられません」


「…………」


 そうだった。


「俺……精霊に怖がられるんだった……」


 忘れてた。


「アルトくん……」


「…………?」


 レテが。


 しゃがみ込む。


「これを……」


 差し出されたのは。


 一杯の水。


「あ、あ……ありがとう……」


 受け取って。


 一気に飲む。


「…………」


 冷たい。


 水が。


 身体に染み込んでいく。


「……あれ?」


 さっきまでの。


 気持ち悪さが。


 少しずつ引いていく。


「あー……なんか楽になった!」


「よかったです」


「すごい!」


 そこで。


 気づく。


「…………あれ?」


「はい?」


「レテ」


 コップを見る。


 ただの水じゃない。


「固有術……また使えるようになったんだ!」


「…………」


 レテが。


 少しだけ目を丸くする。


 そして。


 苦笑した。


「まだ、全快ってわけではないですけどね」


「…………」


 ヴォルグで。


 レテは俺に治癒をかけてから。


 治癒の固有術が。


 使えなくなっていた。


 でも。


 また。


 使えるようになったみたいだ。


「…………よかった」


「はい」


 レテが。


 柔らかく笑った。


「さて」


 パイルさんが。


 バルガス隊長を見る。


「バルガス隊長」


「あぁ」


 それまで。


 笑っていたバルガス隊長の表情が。


 変わる。


「お前ら!」


「…………」


 一気に。


 場の空気が締まった。


 俺も。


 立ち上がる。


「聞け!」


 全員が。


 バルガス隊長を見る。


「ここがロイドとの合流地点だ!」


「…………」


「ロイドと合流後、俺達はルミナスへ入る!」


 ルミナス。


 ついに。


 ここまで来た。


「いいか……」


 バルガス隊長の声が。


 低くなる。


「ここから先は敵地だ!」


「…………」


「基本は部隊のままで動く!」


 全員が。


 黙って聞く。


「絶対に逸れるな!」


 一拍。


「特にアルト!」


「はい!」


 即答する。


「お前はマジで勝手に行くなよ!」


「はい!」


「逸れた場合は、無理に合流しようとするな!」


「…………」


「まず逃げろ!」


 バルガス隊長が。


 俺達全員を見渡す。


「敵が何人いるかも分からねぇ! 何が起きてるかも分からねぇ!」


 そして。


 最後に。


「死ぬな!」


「…………」


 短い。


 ただ。


 それだけ。


「以上だ!」


「はい!」


 俺達の声が。


 重なった。


 もう。


 ルミナスは。


 すぐそこだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。