ルミナスへ
◇ ◇ ◇
翌朝。
まだ。
空は暗かった。
「…………眠い」
大きなあくびが出る。
時刻は。
午前四時。
普段なら。
まだ寝ている時間だ。
「アルトくん」
「はい……」
「すごい顔してますよ」
「レテも眠そうですよ」
「私は眠そうなだけです」
「俺もです」
「アルトくんは半分寝てます」
「…………」
違いが分からない。
「おはよう」
隣から。
声がする。
ログだ。
「おはよう……」
「眠そうだな」
「なんでログは平気なんだよ……」
「昨日は早めに寝たからな」
「俺も寝たよ」
「何時だ?」
「…………十二時くらい」
「それは早いとは言わねぇだろ」
「そうなの?」
「そうだよ」
知らなかった。
「おっはよー!」
「うおっ!」
いきなり。
背中を叩かれる。
「痛っ!」
「アハハハ! アルト、眠そう!」
「フィリア……元気だな」
「そりゃ寝たからね!」
「何時?」
「九時!」
「早っ」
「任務前なんだからちゃんと寝なきゃ!」
なんで。
俺が怒られてるんだ。
「アルトさん」
「ん?」
聞き覚えのある声。
振り返る。
糸みたいに細い目。
いつもの。
柔らかそうな笑顔。
「おはようございます」
「ユノ!」
「おはようございます。アルトさんも参加するんですねぇ」
「あぁ。ユノも?」
「はい」
ユノが。
にこりと笑う。
「よろしくお願いしますねぇ」
「おう!」
「ダッハハハハ!」
突然。
でかい笑い声が。
朝の静けさを吹き飛ばした。
「揃ってんな!」
「バルガス隊長!」
「おう!」
朝っぱらから。
すごい元気だ。
「今回の指揮は俺が執る!」
「バルガス隊長が?」
「おう! お前らまとめて俺が預かる!」
「よろしくお願いします!」
「任せろ!」
「隊長」
ユノが。
横から口を挟む。
「まだ朝の四時ですよぉ」
「知ってるぞ!」
「声、大きすぎません?」
「朝は元気に挨拶すんだろ!」
「寝てる人もいますってぇ」
「ダッハハハハ!」
「聞いてないですねぇ……」
相変わらずだ。
「おはよう」
「?」
今度は。
別の声がした。
振り返る。
「…………」
この人。
どこかで。
見たことある。
「…………」
確か。
入隊試験の時に。
「あ」
思い出した。
「この人は……確か……パイルさん?」
「覚えててくれたんだ」
男が。
柔らかく笑う。
「久しぶりだね、アルトくん」
「やっぱり!」
パイル・ヤンギルさん。
入隊試験の時に。
会った人だ。
「パイルさんも行くんですか?」
「あぁ。ヴェロニカ隊長から行ってこいってね」
「そうなんですね」
「アルトくんが参加することも聞いてたよ」
「俺のこと?」
「あぁ」
パイルさんが。
少し嬉しそうに笑う。
「それと、ルーパがアルトくんに会いたいって言ってるよ」
「ルーパが?」
「うん」
「へへ……」
なんだか。
嬉しい。
「俺も会いたいです!」
「帰ったら顔を見せてあげて。喜ぶから」
「はい!」
「よし!」
バルガス隊長が。
大きく手を叩く。
「全員揃ったな!」
レテ。
ログ。
フィリア。
ユノ。
パイルさん。
俺。
そして。
バルガス隊長。
「そろそろ出るぞ!」
「はい!」
「ルミナスの手前でロイドと合流する!」
「…………」
ロイド?
「バルガス隊長」
「ん?」
「ロイドって誰ですか?」
「ん? ルミナスの国境警備隊長だ!」
「…………」
国境警備隊長。
「え!」
「なんだ?」
「隊長って他にもいるんですか!」
「いるぞ!」
バルガス隊長が。
豪快に笑う。
「隣接している国の国境付近にな!」
「へぇ……」
知らなかった。
隊長って。
アーヴェル隊長達だけじゃないんだ。
「…………あれ?」
でも。
「ヴォルグに行った時には会わなかったな」
「あれは一応、極秘任務だったしね」
パイルさんが答える。
「それに」
「?」
「国境の壁に大穴が二つ空いたから、その対応で大変だったはずだよ」
「…………」
大穴。
二つ。
「……あー」
思い出した。
ヴォルグから。
ガイストへ戻った時。
ものすごい勢いで。
壁をぶち抜いて。
そのまま。
もう一枚。
ぶち抜いていった奴。
『兄弟ぃぃぃ!』
「…………」
ライ。
あいつだ。
「アルトくん?」
「はい?」
レテが。
俺の顔を覗き込む。
「どうしました?」
「いや……」
目を逸らす。
「なんでもないです」
「…………」
「なんですか?」
「いえ」
レテが。
じっと俺を見る。
「何か知ってそうだな」
ログまで。
こっちを見る。
「知らないよ」
「目ぇ逸らしてんじゃねぇか」
「気のせいだよ」
「分かりやすい奴だな……」
「ダッハハハハ!」
バルガス隊長の。
でかい笑い声が響く。
「まぁ、詳しい話は向こうでロイドに聞きゃいい!」
「はい」
「そんじゃ!」
バルガス隊長が。
ルミナスの方角へ身体を向ける。
「出発するぞ!」
「はい!」
まだ。
東の空は暗い。
その向こうに。
ガオンがいる。
「…………待ってろよ」
こうして。
俺達は馬車へ乗り。
星詠国家ルミナスへ向けて。
ガイストを出発した。




