編成
◇ ◇ ◇
軍事局を出た後。
アーヴェル隊長は。
ほとんど喋らなかった。
「…………」
いつもと同じ。
真っ直ぐな背中。
歩く速さも変わらない。
でも。
なんとなく。
声をかけづらかった。
ガオンは。
隊長の預かりだった。
俺なんかより。
ずっと長く一緒にいた。
「隊長」
「なんだ」
「…………」
声をかけたのに。
何を言えばいいのか分からない。
「いえ……」
「そうか」
「…………」
また。
黙って歩く。
しばらくして。
隊長が口を開いた。
「アルト」
「はい」
「先ほどのことだが」
「?」
「ノア局長に言われたことを気にしているか」
「…………」
憶測で。
人が死ぬ。
「少し……」
「そうか」
「俺……間違ってましたか?」
「レオニスを助けたいと思ったことか?」
「はい」
「それは間違っていない」
「…………」
「だが」
隊長が足を止める。
俺を見る。
「助けたいという気持ちと、兵を動かすという判断は別だ」
「…………」
「お前一人が走っていくのとは違う。命令一つで、何十人、何百人という人間が動くこともある」
「はい……」
「だから、上に立つ者は考える」
「…………」
「それだけだ」
隊長は。
また歩き出す。
「難しいですね」
「あぁ」
「隊長も?」
「当然だ」
「…………」
「だから何度でも考える」
「……はい」
今度は。
ちゃんと返事をした。
◇ ◇ ◇
隊舎へ戻ると。
アーヴェル隊長は足を止めた。
「アルト」
「はい」
「オーズィラ、スミスマン、リーベを呼んでこい」
「分かりました」
それだけ告げられ。
俺は三人を呼びに向かう。
セリオは。
まだスパーナにいる。
ヒルトも。
今は謹慎中だ。
となれば。
今、この隊で動けるのは。
俺達くらいだった。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
隊の部屋に全員が集まった。
「急にどうしたんですか?」
レテ。
「何かありましたか?」
ログ。
「アルトに急いで来てって言われたんだけど」
フィリア。
そして。
俺。
アーヴェル隊長が。
俺達四人を見渡す。
「全員、聞け」
いつもの声。
でも。
その表情は固かった。
「先ほど、軍事局から任務が下りた」
「任務?」
フィリアが首を傾げる。
「あぁ」
「どこ?」
「ルミナスだ」
「…………」
三人の表情が変わった。
「ルミナスって……ガオンの国ですよね?」
「あぁ」
「何があったんですか?」
「現時点で分かっていることを話す」
アーヴェル隊長は。
一つずつ説明していった。
ルミナスからの定期便が来なくなったこと。
商隊や旅人の往来にも異変が出ていること。
国境付近で。
ルミナス王国軍の兵士が保護されたこと。
そして。
「王宮が襲撃された可能性が高い」
「…………」
部屋が。
一気に静かになった。
「ガオンは?」
最初に聞いたのは。
レテだった。
「無事なんですか?」
「分からない」
「…………」
「保護された兵士の証言では、王宮で戦っていたところまでは確認されている」
「それって……」
フィリアの顔から。
いつもの笑みが消える。
「今も戦ってるかもしれないってこと?」
「その可能性はある」
「…………」
レテが。
僅かに俯く。
「今回の任務は、ルミナス国内の状況調査。そして、敵対勢力が確認された場合の無効化だ」
「敵対勢力……」
ログが呟く。
「クーデターの可能性がある、と?」
「可能性はある。だが断定するな」
「承知しました」
「誰が敵か分からない。ルミナス軍そのものを敵と考えることも禁止する」
ログが頷く。
「それで」
レテが顔を上げる。
「いつ出るんですか?」
「待て、オーズィラ」
「はい?」
「まだお前が行くと決まったわけではない」
「…………え?」
レテが目を瞬く。
「今回の任務には、各隊から人員が選抜される」
「では、なぜ私達を集めたんですか?」
「その話をするためだ」
アーヴェル隊長が。
俺達全員を見渡した。
「先に言っておく」
一拍。
「俺は行かない」
「え?」
フィリアが声を上げる。
「隊長が?」
「あぁ」
「なんで?」
「ノア局長から、ガイストに残るよう命令を受けた」
「…………」
「この国の防衛を任された」
誰も。
すぐには何も言わなかった。
隊長が行かない。
セリオはスパーナ。
ヒルトは謹慎中。
つまり。
いつもの隊で。
ルミナスへ向かうわけじゃない。
「では」
ログが口を開く。
「今回の指揮官は、別の隊長が務めるのですか?」
「あぁ」
「誰です?」
「まだ聞かされていない」
アーヴェル隊長が腕を組む。
「編成も含め、これから決まる」
「…………」
誰と。
ルミナスへ行くんだろう。
そもそも。
俺が選ばれるかどうかだって。
まだ分からない。
でも。
頭に浮かんでいるのは。
やっぱり。
あいつの顔だった。
ガオン。
「…………」
無事でいろよ。
絶対に。




