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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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遠のく日々

 情報局へ向かう間。


 アーヴェル隊長は。


 ほとんど喋らなかった。


「…………」


 俺も。


 なんとなく。


 話しかけづらい。


 ガオンからの手紙。


 来ない定期便。


 戻ってこない人達。


 全部。


 ただの偶然ならいい。


 でも。


「…………」


 ガオン。


 大丈夫だよな。


「アルト」


「はい?」


「着いたぞ」


「あ……はい」


 顔を上げる。


 情報局。


 前に来た時と同じ。


 静かな場所。


 なのに。


 今日は。


 少し違った。


「…………」


 人が多い。


 廊下を行き交う局員達。


 大量の書類を抱えた者。


 地図を持って走っていく者。


 何人かが。


 小声で何かを話している。


「なんか……忙しそうですね」


「あぁ」


 アーヴェル隊長は足を止めない。


 そのまま。


 奥の部屋へ向かう。


 コンコン。


「クロイツです」


「入れ」


 聞き覚えのある声。


 扉を開ける。


「来たか、アーヴェル」


 イグナーツさん。


 机の上には。


 いつも以上に大量の紙が広げられていた。


 その横には。


 大きな地図。


「アルトも一緒か」


「はい」


「ちょうどいい」


「俺もですか?」


「あぁ」


 イグナーツさんが笑う。


「レオニスのことで、お前にも聞きたい」


「ガオンの?」


「あぁ」


 アーヴェル隊長が。


 手紙を机に置く。


「先輩」


「聞いてると思うが」


「定期便ですね」


「あぁ」


 イグナーツさんが。


 地図へ目を落とす。


「最初は俺も、ただの遅れだと思った」


「違うんですか?」


「分からん」


「…………」


「だから調べた」


 イグナーツさんが。


 地図の一点を指差す。


「これはルミナスへ続く主要街道だ」


 そこから。


 指を滑らせる。


「こっちは商人がよく使う道。こっちは少し遠回りだが、比較的安全な道だ」


「道が三つ?」


「細かいのを入れりゃもっとある」


「へぇ……」


「だが」


 指が止まる。


「どこを使った連中も来ない」


「…………」


「ガイストへ向かっていたルミナスの定期便。商隊。それから旅人」


 一枚。


 紙を置く。


「逆も同じだ」


「逆?」


「ガイストからルミナスへ向かった商人が戻ってこない」


「…………」


「一人二人なら珍しくない。天候で足止めされることもある。荷車が壊れることもある。予定を変える奴だっている」


 さらに。


 一枚。


「だが」


 また。


 一枚。


「同じ方面で」


 また一枚。


「これだけ重なると」


 最後の一枚が置かれる。


「偶然で片付けるには多すぎる」


「…………」


 紙が。


 並んでいる。


 俺には。


 ただの報告書にしか見えない。


 でも。


 イグナーツさんには。


 違って見えている。


「ルミナス側が止めている?」


 アーヴェル隊長が聞く。


「その可能性はある」


「国境を?」


「いや」


 イグナーツさんが首を横に振る。


「それなら、もっと早く分かる」


「では?」


「分からん」


 まただ。


 分からない。


 なのに。


 イグナーツさんは。


 次々と紙を広げていく。


「だから、別のものを見た」


「別のもの?」


「あぁ」


 今度は。


 少し古い紙。


「商人の取引記録だ」


「…………」


「アルト」


「はい」


「ルミナスがどんな国かは知ってるな?」


「星詠みの国ですよね」


「そうだ」


 イグナーツさんが頷く。


「じゃあ、ルミナスが何を他国から買っているかは?」


「…………」


「…………」


「食べ物?」


「間違っちゃいない」


「よかった」


「安心するところじゃない」


 アーヴェル隊長に言われる。


「ルミナスは乾燥した土地が多い」


 イグナーツさんが続ける。


「当然、他国から仕入れる物も多い。食料。木材。薬の原料。他にも色々とな」


「はい」


「その取引量が」


 指で。


 数字を示す。


「ここ一月ほどで増えている」


「…………」


 一月。


 その言葉に。


 アーヴェル隊長の目が変わった。


「どれほどです?」


「品による。だが不自然なものがある」


「不自然?」


「あぁ」


 イグナーツさんが。


 一枚の紙を抜き出す。


「保存食」


 もう一枚。


「水を運ぶための容器」


 さらに。


「医薬品」


「…………」


 なんだ?


 それ。


「戦争でもするみたいですね」


 言ってから。


「…………」


「…………」


 二人が黙った。


「え?」


 俺。


 なんか変なこと言った?


「アルト」


 イグナーツさんが。


 俺を見る。


「今の」


「はい?」


「もう一回言ってみろ」


「え?」


「今言ったことだ」


「…………」


 なんだっけ。


「戦争でもするみたい……?」


「…………」


 イグナーツさんが。


 椅子へ深く座る。


「そう見えるよな」


「え?」


「先輩」


 アーヴェル隊長が。


 低い声で呼ぶ。


「あぁ」


「…………」


 イグナーツさんは。


 笑っていなかった。


「ただし」


 指で机を叩く。


「軍を動かした記録はない」


「では、備蓄?」


「それも考えた」


「…………」


「だが、王都へ集めているわけでもない」


「どこへ?」


「そこが分からん」


「…………」


 イグナーツさんが。


 地図を見る。


「ルミナス国内へ入った後」


 指が。


 国境を越えたところで止まる。


「荷の行き先が追えなくなる」


「そんなことあるんですか?」


「ある」


「あるんだ……」


「だが」


 イグナーツさんが。


 ガオンの手紙へ目を向ける。


「今、この時期に重なるのは気に入らん」


 ガオンの留学。


 まだ。


 正式には止まっていない。


 なのに。


 あいつは。


 もう戻らないような手紙を送ってきた。


 そして。


 一月ほど前から増え始めた。


 ルミナスへ運び込まれる物資。


 今度は。


 人まで。


 行き来しなくなった。


「…………」


 胸の奥が。


 ざわつく。


「イグナーツさん」


「なんだ」


「ガオンは……」


 言葉が止まる。


 大丈夫ですか?


 聞いたところで。


 この人にも。


 分からない。


「…………」


 すると。


 イグナーツさんが。


 俺の顔を見た。


「心配か?」


「……はい」


「なら」


 ガオンの手紙を持ち上げる。


「心配だけで終わらせるな」


「え?」


「何が起きてるか調べる」


「…………」


「それが俺達の仕事だ」


 その時。


 廊下から。


 慌ただしい足音が聞こえた。


 ドンッ!


 扉が開く。


「局長!」


「どうした」


 入ってきた局員が。


 息を切らしている。


「ルミナス方面から人が!」


「来たのか?」


「いえ……」


 局員が。


 首を横に振る。


「国境付近で倒れているところを、巡回中の兵が発見しました」


「…………」


 イグナーツさんが立ち上がる。


「生きてるか?」


「はい。ただ……」


「なんだ」


「酷い怪我を負っています」


「所属は?」


「それが」


 局員が息を整える。


「ルミナス王国軍の兵士です」


「…………」


 部屋の空気が。


 一瞬で変わった。

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