星詠国家ルミナス②
◇ ◇ ◇
「タウルス族、か」
ガオンは再び歩き出した。
王宮を出ると、乾いた風が頬を撫でる。
見上げれば雲一つない青空。
強い日差しが白い石造りの建物を照らし、遠くの道では陽炎が揺れていた。
「相変わらず暑いな」
ガイストとは全然違う。
向こうにいた時はあまり気にしていなかったが、帰ってくるとよく分かる。
空気も。
大地も。
何もかもが乾いている。
「……水を持ってくるべきだったな」
そんなことを呟きながら、王都の大通りを進む。
目指すのは王都東部。
タウルス族が管理する運搬区。
ルミナス中から集まった物資が一度そこへ運び込まれ、それぞれの場所へ振り分けられる。
食料。
石材。
木材。
鉱石。
時には家より大きな荷物まで運び込まれる。
タウルス族の牡牛座の加護は《剛力》。
生まれつき力に恵まれた彼らは、昔から物を運び、道を造り、建物を建ててきた。
だから。
大量の積荷が届いた。
それだけなら、別に珍しい話ではない。
「姉上は、何が気になったんだ……?」
問題はそこだ。
わざわざ俺に伝えてきた。
なら、何かある。
◇ ◇ ◇
「おお……」
運搬区へ入って、思わず声が出た。
「相変わらずすごいな」
でかい。
とにかく何もかもが。
倉庫。
荷車。
積み上げられた木箱。
そして。
「せぇぇぇの!」
「おらぁ!」
男達が巨大な石材を持ち上げる。
「…………」
三人。
たった三人で。
「あれ、俺でも持てるか分からないぞ……」
さすがタウルス族。
「おい! そっちを空けろ!」
「次の荷車が入るぞ!」
「三番倉庫はいっぱいだ!」
「なら五番に回せ!」
怒号が飛び交う。
活気がある。
昔から、この場所はこうだった。
タウルス族の者達が次々と荷物を運び、空になった荷車が出ていく。
「…………」
いや。
待て。
忙しすぎないか?
足を止める。
一台の荷車が入ってくる。
その後ろから、もう一台。
さらに、もう一台。
その向こうにも。
「……これか?」
ナーラ姉上が言っていた。
大量の積荷。
「おい兄ちゃん! そこ邪魔だ!」
「ん?」
「荷車が通るぞ!」
「あ、すまない」
慌てて横へ避ける。
目の前を荷車が通り過ぎていく。
荷台には、大きな木箱がいくつも積まれていた。
「…………」
何だ?
食料ではなさそうだ。
「すまない、少しいいか?」
「あぁ!?」
近くにいた男が振り返る。
「忙しいんだ! 後に――」
俺の顔を見る。
「…………」
「おはよう」
「ガ、ガオン様!?」
「あぁ」
「な、なぜこのような場所に!?」
「少し気になることがあってな。見に来た」
「そ、そうでしたか! 失礼いたしました!」
「気にするな。仕事中だろう?」
「は、はい!」
「それより」
通り過ぎていく荷車を見る。
「あれは何を運んでいるんだ?」
「あれですか?」
「あぁ」
「資材です」
「資材?」
「はい」
「何の資材だ?」
「…………」
男が黙った。
「どうした?」
「いえ……」
首を傾げる。
「そういえば、何の資材なのでしょう」
「知らないのか?」
「我々は運ぶよう指示されただけですので」
「そうなのか」
もう一度、木箱を見る。
「どこへ運ぶ?」
「北側の集積所です」
「北?」
「はい」
「…………」
北側。
あの辺りで、何か大きな工事があったか?
「誰からの指示だ?」
「タウルス族の管理官です」
「その管理官は?」
「上からの命令だと」
「上……」
「はい」
「誰からかは分かるか?」
「それは……」
男が困ったように目を伏せる。
「申し訳ございません。自分には」
「いや、すまない。仕事を止めてしまったな」
「い、いえ!」
「ありがとう」
男から離れる。
「…………」
歩きながら考える。
資材。
北側の集積所。
上からの命令。
「別に、おかしなことではないよな……」
工事なんていくらでもある。
王族だからといって、国内の工事を全て把握しているわけではない。
それに、ここはタウルス族の運搬区だ。
資材を運ぶことなんて、毎日のようにある。
「…………」
なのに。
なぜだろう。
引っかかる。
「ん?」
視界の端。
先ほどの荷車が運搬区を出ていく。
「…………」
北側へ。
その後ろを、別の荷車もついていく。
「…………」
考えていても仕方ない。
「よし」
ガオンは歩き出した。
「……ついて行ってみるか」
何を造っているのか。
それが分かれば終わりだ。
姉上にも、何も問題なかったと伝えられる。
「何もなければ、それが一番だからな」
そう思いながら。
ガオンは荷車の後を追った。
まだ。
その荷車が。
王都の外へ向かっているとも知らずに。




