軍人になれた気がする
「ありがとうございました!失礼します!」
「おう、またこいや。アルト」
手をヒラヒラと振り笑顔で言うイグナーツさん。
「はい!」
情報局を後にして、アーヴェル隊長の後ろを歩く。
「…………」
情報局。
難しかったけど、面白かった。
「隊長」
「なんだ?」
「次は何するんですか?」
「今日はもう終わりだ」
「…………え?」
思わず足が止まる。
「終わり?」
「あぁ」
「本当に?」
「なぜ疑う」
「だって、朝からずっと次、次って仕事あったじゃないですか」
「初日だからな」
「もう紙ないんですか?」
「ある」
「あるんだ……」
「だが、それは明日以降だ」
終わり。
今日の仕事。
「…………」
「どうした?」
「いや……」
今日一日を思い返す。
最初はレテと書類仕事。
その後はログと備品管理。
フィリアと街の巡回。
そしてアーヴェル隊長と事務局、情報局。
「…………あれ?」
「なんだ」
「俺、今日一回も戦ってない」
「そうだな」
「訓練もしてない」
「あぁ」
正式入隊初日。
なのに武器も術も使ってない。
「軍人って、もっと戦うものだと思ってました」
「…………」
アーヴェル隊長が足を止める。
「アルト」
「はい?」
「お前の考える軍人とはなんだ?」
「え?」
「答えてみろ」
「…………」
軍人。
強くて、戦って、敵を倒して。
国を守る。
「戦う人……ですか?」
「それだけか?」
「…………」
それだけだった。
たぶん、今日の朝までは。
でも。
「……違う」
「ほう」
「書類を書く人がいて、武器とか備品を管理する人がいて、街を見て回る人もいる」
今日会った人達を思い浮かべる。
「情報を集める人もいるし、事務局にもいっぱい人がいました」
「あぁ」
「みんな違う仕事してるけど……」
レテ。
ログ。
フィリア。
イグナーツさん。
それに、名前も知らないたくさんの軍人達。
「みんな、国を守ってる?」
「あぁ」
アーヴェル隊長が頷いた。
「そうだ」
「…………」
「戦う者だけが軍人ではない。武器を管理する者、情報を集める者、物資を運ぶ者、街を巡る者、記録を残す者」
アーヴェル隊長が歩き出す。
「その全てが繋がって、初めて軍は動く」
「…………」
今日やったこと。
一つ一つは全然違った。
でも、全部繋がってる。
「だから今日、戦闘訓練しなかったんですか?」
「それもある」
「それも?」
「あぁ」
アーヴェル隊長が再び足を止めた。
「戦うだけなら、強い者を集めればいい」
「…………」
「だが、軍人は力を持つ。武器を持ち、術を使い、時にはその力で他者の命を奪うことすらある」
命。
その言葉に、少しだけ身体が固くなる。
「だからこそ」
アーヴェル隊長が真っ直ぐ俺を見る。
「何を守るために、その力を持っているのかを知らなければならない」
「…………」
今日歩いた街が浮かぶ。
笑っていた人達。
荷物を運んだおじいさん。
フィリアに声をかけていた人達。
路地裏にいた小さな精霊。
「強くなることだけを、軍人になることだと思うな」
「……はい」
「今日見たものを忘れるな」
「はい!」
「よし」
アーヴェル隊長が歩き出し、俺もその後ろを追いかける。
「隊長」
「なんだ」
「じゃあ明日は訓練あります?」
「ある」
「おお!」
「書類もある」
「…………」
「備品管理もある」
「…………」
「巡回もあるかもしれんな」
「…………」
「どうした?」
「訓練だけじゃ駄目ですか?」
「駄目だ」
「ですよね……」
軍人って、思ってたよりずっと色んなことをする。
戦うだけじゃない。
今日一日で、それが少し分かった。
正式入隊初日。
一度も戦わなかったし、訓練もしなかった。
それでも。
昨日までより少しだけ。
軍人になれた気がした。




