情報局局長
「アルト」
「はい?」
「一つ、気をつけろ」
「?」
なんだ?
間違えた?
「お前は何かに夢中になると、言葉遣いが砕ける癖がある」
「…………」
言葉遣い。
「そうですか?」
「あぁ」
「いつ?」
「今だ」
「今?」
「先輩に何度『うん』と言った」
「…………」
思い出す。
情報局が。
何をしてるのか。
聞かれて。
話して。
それから。
情報の話を。
聞いて。
「…………」
言った。
気がする。
「すみません……」
「謝る必要はない」
「え?」
「今はな」
アーヴェル隊長が。
俺を見る。
「先輩はああいう人だ。恐らく気にもしていない」
「おう。全然気にしてねぇぞ」
イグナーツさんが。
笑いながら。
手を上げる。
「ほら」
「ですが」
アーヴェル隊長が。
続ける。
「相手が誰でもそうとは限らない」
「…………」
「軍には階級がある。上官だけではない。他国の軍人や要人と接することもある」
「要人?」
「国にとって重要な立場にいる者だ」
「あ、なるほど」
「そういった相手にまで、いつもの調子で話すわけにはいかん」
「…………」
確かに。
「別に堅苦しい言葉を完璧に使えとは言わん」
「いいんですか?」
「あぁ。まずは相手を敬う意識を持て」
「敬う……」
「お前の場合」
アーヴェル隊長が。
少し。
眉を寄せる。
「最初はできている」
「おお!」
「喜ぶところではない」
「…………はい」
「だが、話に夢中になると忘れる」
「…………」
それ。
直すの。
難しそう。
「難しい顔をするな」
「だって、夢中になってる時って夢中になってるじゃないですか」
「…………」
「?」
「それが問題なんだ」
「あ」
「はははっ!」
また。
イグナーツさんが。
笑った。
「まぁ、いいじゃねぇかアーヴェル」
「先輩」
「こいつも今日入ったばっかだろ?」
「だから今言っているんです」
「分かってるよ」
イグナーツさんが。
俺を見る。
「アルト」
「はい!」
「最初から全部できる奴なんていねぇ」
「はい」
「でも、注意されたことは頭の隅に置いとけ」
「頭の隅?」
「あぁ。今すぐ完璧に直らなくてもいい」
とんとん。
自分の。
頭を指で叩く。
「何度か失敗して、そのたび思い出せ」
「…………」
「そのうち、失敗する前に気づけるようになる」
「おお……」
「先輩」
「なんだ?」
「私が教えているんですが」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃなし」
「…………」
「アーヴェル隊長」
「なんだ」
「気をつけます!」
「あぁ」
「でも、また忘れたら教えてください!」
「…………」
「大切なことだから何度でも聞いていいんですよね?」
「……そうだな」
「よし!」
「ただし」
「?」
「少しずつ直せ」
「はい!」
「いい返事だ」
「はい!」
「返事だけにならないようにな」
「はい!」
「…………」
「…………」
「今のはわざとか?」
「ちょっとだけ」
「アルト」
「すみません!」
「ははははっ!」
また。
情報局に。
イグナーツさんの。
笑い声が。
響いた。




