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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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情報局局長

「初めまして、だな」


「…………」


 初めまして。


 だった。


「俺のこと知ってるんですか?」


「あぁ」


 その人物が。


 椅子から立ち上がる。


「お前のことは前から聞いてたからな」


「俺のこと?」


「そりゃあ、情報局長だからな」


「…………」


 情報局長?


「イグナーツ・レンズ」


 胸元を。


 軽く叩く。


「ここの局長だ。よろしくな、アルト」


「よろしくお願いします!」


 情報局長。


 イグナーツ・レンズ。


「…………」


 局長。


 局長……。


 なんだろう。


 思ってたのと。


 違う。


「どうした?」


「いや……」


 頭の中に。


 一人。


 浮かぶ。


 細く。


 骨ばった長身。


 そして。


 赤い瞳。


 軍事局長。


 ノア・ヴァルハイト。


「…………」


 怖かった。


 初めて会った時。


 すごく。


 怖かった。


 もう一度。


 目の前を見る。


「?」


 イグナーツさん。


 笑ってる。


「…………」


 もう一度。


 ノアを。


 思い出す。


「…………」


 怖い。


 イグナーツさん。


「?」


 優しそう。


 ノア。


 怖い。


 イグナーツさん。


 優しそう。


「全然違う……」


「何がだ?」


「あ」


 声に。


 出てた。


「アルト」


 隣から。


 アーヴェル隊長の声。


「今、誰と比べた?」


「ノアさん…」


「…………」


「…………」


 二人が。


 黙った。


「ノアって」


 イグナーツさんが。


 口を開く。


「ヴァルハイトか?」


「うん」


「なるほどな」


 腕を組む。


 そして。


 笑った。


「そりゃ俺がいい奴に見えるわけだ」


「先輩」


「事実だろ?」


「本人の前では言わないでくださいよ」


「言わねぇよ」


「先輩?」


「ん?」


 今。


 アーヴェル隊長。


 先輩って。


「アーヴェル隊長の先輩なんですか?」


「あぁ」


 イグナーツさんが。


 にっと笑う。


「こいつが新人だった頃から知ってる」


「おお!」


 アーヴェル隊長の。


 新人時代。


「どんなだったんですか!?」


「アルト」


「はい?」


「今は仕事中だ」


「ちょっとくらい!」


「駄目だ」


「聞きたい!」


「駄目だ」


「俺は別に話しても――」


「先輩」


「…………」


「余計なことは言わないでください」


「相変わらず固いな、お前」


「誰のせいですか」


「俺じゃねぇだろ」


「…………」


 なんか。


 新鮮。


 いつも。


 隊長で。


 みんなに。


 指示を出してる。


 アーヴェル隊長が。


 今は。


 少しだけ。


 後輩に見える。


「それで?」


 イグナーツさんが。


 俺を見る。


「今日はこいつの昔話を聞きに来たわけじゃないんだろ?」


「あぁ」


 アーヴェル隊長が。


 書類を差し出す。


「こいつの正式入隊初日だ。各部署を回っている」


「なるほどな」


 イグナーツさんが。


 書類を受け取る。


「じゃあ情報局が何してるところかは?」


「聞きました!」


「よし。言ってみろ」


「え?」


「聞いたんだろ?」


「うん」


「なら言ってみろ」


「…………」


 情報局。


 何するところ。


「各地から情報を集めて」


「おう」


「整理して」


「おう」


「その情報が本当なのか調べる!」


「おう」


「それで必要な人に渡す!」


「…………」


 イグナーツさんが。


 アーヴェル隊長を見る。


「ちゃんと分かってるじゃねぇか」


「今教えたばかりですから」


「隊長!」


「事実だろう」


「でも覚えてた!」


「そうだな」


「褒めてください!」


「なぜだ」


「覚えてたから!」


「当たり前だ」


「さっき一回で覚えなくていいって言ったのに!」


「覚えなくていいとは言っていない」


「…………」


 難しい。


「はははっ!」


 イグナーツさんが。


 声を上げて笑う。


「いいじゃねぇか。一回でそこまで言えりゃ上出来だ」


「ほら!」


「先輩が甘やかさないでください」


「新人なんて最初はこんなもんだろ」


「…………」


 やっぱり。


 優しい。


「それにな」


 イグナーツさんが。


 机に腰を預ける。


「情報を扱う仕事じゃ、分かったふりが一番怖ぇ」


「分かったふり?」


「あぁ」


 机の上。


 一枚の紙を取る。


「例えば、ここに敵が十人いたって報告が来たとする」


「うん」


「敵は何人だ?」


「十人」


「本当に?」


「…………?」


 紙に。


 十人って。


 書いてある。


「十人じゃないの?」


「かもしれねぇ」


「?」


「数え間違えたかもしれない」


「…………」


「見えないところに一人隠れてたかもしれない」


「…………」


「報告してきた奴が、九人しかいないのに十人だと思い込んでるかもしれない」


「…………」


 なるほど。


「もちろん、本当に十人かもしれない」


「じゃあどうするの?」


「確かめる」


「どうやって?」


「別の奴からも報告を取る。過去の情報と比べる。現地の状況を調べる。方法はいくらでもある」


「おお……」


「一つの情報だけを見て、全部分かった気になるな」


 紙を。


 机へ戻す。


「情報は集めるだけじゃ駄目だ」


「…………」


「疑って、確かめて、考える」


「…………」


 難しい。


 でも。


 なんとなく。


 分かる。


「分からなかったら?」


「聞け」


「何回でも?」


「何回でもだ」


「おお!」


「大事なことなら尚更な」


「アーヴェル隊長と同じこと言ってる!」


「そりゃそうだろ」


「?」


 イグナーツさんが。


 にっと。


 笑う。


「そいつに色々教えたの、俺だからな」


「おお!」


「先輩」


「なんだよ」


「余計なことを吹き込まないでください」


「事実だろ?」


「隊長!」


「なんだ」


「イグナーツさんが隊長だったら、アーヴェル隊長みたいになれる?」


「…………」


「…………」


「アルト」


「はい?」


「どういう意味だ」


「え?」


 なんか。


 間違えた?


「ははははっ!」


 情報局に。


 イグナーツさんの。


 笑い声が。


 響いた。

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