次の仕事だ②
軍人。
やっぱり。
思ってたのと。
ちょっと違う。
「では、次だ」
「まだあるんですか?」
「初日だからな」
「初日ってもっと楽じゃないんですか?」
「誰に聞いた」
「今、思っただけです」
「そうか」
アーヴェル隊長が。
何枚かの書類を。
手に取る。
「次は各部署を回る」
「各部署?」
「あぁ」
「何するんですか?」
「書類を届ける」
「…………」
また。
紙。
「どうした」
「今日」
「?」
「紙、多くないですか?」
「軍とはそういうものだ」
「…………」
軍人。
やっぱり。
思ってたのと。
ちょっと違う。
「まずは事務局だ」
「事務局?」
「各部隊から提出された書類の整理、人員の管理、予算、物資に関する手続き。軍を運営するために必要な事務を担っている」
「…………」
人員。
予算。
物資。
手続き。
「…………」
「難しい顔をしているな」
「ちょっと」
「分からなかったか?」
「分からないっていうか……」
頭の中で。
色んな言葉が。
ぐるぐるしてる。
「一気に言われると難しいです」
「そうか」
「…………」
「なら、もう一度説明する」
「え?」
「事務局は――」
「待ってください」
「なんだ?」
「もう一回聞いていいんですか?」
「当然だ」
「でも」
「?」
「こういうのって、一回で覚えるんじゃないんですか?」
「…………」
アーヴェル隊長が。
俺を見る。
「アルト」
「はい」
「大切なことだ」
「……はい」
「だから、何度でも聞け」
「?」
何度でも。
「一回で覚えるんじゃなくて?」
「違う」
「でも、大切なんですよね?」
「あぁ」
「だったら一回で覚えないと」
「逆だ」
「逆?」
「大切なことなんだ」
アーヴェル隊長が。
ゆっくり。
言う。
「だからこそ、一度で覚える必要はない」
「…………」
「一度聞いて、分からなければ二度聞け」
「…………」
「二度で分からなければ三度聞け」
「…………」
「大切なことだからこそ、分からないままにするな」
分からない。
なら。
聞く。
「でも、何回も聞いたら迷惑じゃないですか?」
「分かったふりをされる方が迷惑だ」
「…………」
「軍では、小さな勘違いが誰かの命に関わることもある」
命。
「知らないことは恥ではない」
アーヴェル隊長が。
俺を見る。
「知らないままにしておくことを恐れろ」
「…………」
なんか。
難しい。
でも。
大事なことを。
言われてる。
それだけは。
分かる。
「じゃあ」
「なんだ?」
「十回聞いてもいいですか?」
「構わん」
「百回は?」
「構わん」
「千回」
「その頃には覚えろ」
「駄目じゃん!」
「限度はある」
「何度でもって言ったのに!」
「お前は極端すぎる」
「…………」
でも。
少し。
気が楽になった。
「もう一回お願いします」
「あぁ」
アーヴェル隊長が。
もう一度。
説明してくれる。
今度は。
さっきより。
ゆっくり。
聞く。
「…………」
「分かったか?」
「たぶん!」
「たぶんか」
「分からなくなったらまた聞きます!」
「それでいい」
「はい!」
◇ ◇ ◇
事務局。
「…………」
紙。
紙。
紙。
そして。
人。
机に向かって。
ひたすら。
何かを書いている。
「…………」
「どうした?」
「ここ」
「?」
「朝より怖い」
「何がだ」
「紙の量」
「そうか」
俺には。
無理だ。
たぶん。
五分で。
逃げる。
「アーヴェル隊長、お疲れ様です」
「あぁ」
近くの。
軍人が。
立ち上がる。
「こちらを頼む」
「承知しました」
書類を。
渡す。
受け取る。
確認。
すぐに。
別の場所へ。
運ばれていく。
「すげー」
「何がだ?」
「紙がいっぱい動いてる」
「もう少し言い方はないのか」
「ないです」
「そうか」
事務局を。
出る。
「次は?」
「情報局だ」
「情報局」
「あぁ」
「何するところですか?」
「各地から情報を集め、整理し、その信頼性を精査する」
「…………」
また。
難しい。
「顔」
「え?」
「また難しい顔をしている」
「だって難しいんですよ」
「なら聞け」
「…………」
「あ」
さっきの。
「何回でも?」
「何回でもだ」
「じゃあ、精査って?」
「その情報が正しいかどうかを調べることだ」
「なるほど」
「一つの情報だけで判断せず、別の報告と照らし合わせることもある」
「なんで?」
「人は間違えるからだ」
「…………」
「見間違える。聞き間違える。思い込む」
「嘘つく人もいる」
「そうだ」
「なるほど……」
「情報が多ければいいわけではない」
「?」
「間違った情報が百あっても、正しい判断はできん」
「…………」
「だが」
アーヴェル隊長が。
歩きながら。
続ける。
「正しい情報が一つあれば、それで救える命もある」
「…………」
情報。
そんなに。
大事なんだ。
「だから情報局がある」
「おお……」
「分かったか?」
「うん!」
「ならいい」
廊下の。
奥。
一つの扉。
その前で。
アーヴェル隊長が。
止まる。
「ここだ」
「情報局……」
扉を見る。
俺達が。
任務へ向かう前に。
教えてもらう。
敵のこと。
場所のこと。
街のこと。
その情報が。
ここに。
集まってくる。
「入るぞ」
「はい!」
扉が。
開く。
「…………」
中には。
いくつもの。
机。
壁には。
大きな地図。
その上に。
たくさんの。
印。
そして。
その中央。
一人の人物が。
大量の書類を。
机いっぱいに広げていた。
「来たか、アーヴェル」
「あぁ」
顔を。
上げる。
その視線が。
俺へ。
向いた。
「…………」
「そいつが?」
「あぁ」
アーヴェル隊長が。
答える。
「アルトだ」
「…………」
じーっ。
見られる。
「な、なんですか?」
「いや」
その人物が。
僅かに。
笑った。
「ようやく来たかと思ってな」
「?」
なんだ?
俺。
この人と。
会ったこと。
あったっけ。




