初巡回④
路地。
奥へ。
進む。
「…………」
さっきまでの。
賑やかな通りとは。
違う。
人の声が。
少し。
遠くなった。
「この辺?」
「んー。たぶん」
フィリアが。
周りを見る。
建物。
木箱。
樽。
特に。
変わったところは。
ない。
「…………」
耳を。
澄ます。
カリ。
「!」
「聞こえた?」
「うん」
カリ。
カリカリ。
何かが。
引っ掻くような。
音。
「あっち!」
「待って」
「?」
「走らない」
「なんで?」
「何がいるか分かんないでしょー」
「…………」
そうだった。
仕事。
仕事。
「分かった」
「ゆっくりねー」
「うん」
音のする方へ。
近づく。
カリ。
カリカリ。
建物と。
建物の間。
狭い。
隙間。
「ここだ」
「みたいだねー」
覗く。
「…………」
暗い。
よく。
見えない。
「なんかいる?」
「いる」
「ほんと?」
「うん」
何か。
動いてる。
「動物かな?」
「んー」
フィリアも。
覗く。
「見えないねー」
「俺、入ってみる」
「大丈夫?」
「うん」
身体を。
横にして。
隙間へ。
入る。
「狭っ……」
「気をつけてねー」
「分かってる」
一歩。
二歩。
奥へ。
カリカリ。
音が。
近くなる。
「…………」
いた。
「フィリア!」
「なにー?」
「なんかいる!」
「それは知ってるよー」
「そっか!」
「何がいるのー?」
「待って!」
目を。
凝らす。
小さい。
丸い。
ふわふわ。
淡い。
光。
「…………!」
光。
「精霊!」
「え?」
思わず。
近づく。
「精霊いる!」
「アルト、ちょっと待って!」
「ちっちゃい!」
「待ってってー!」
しゃがむ。
そこには。
小さな。
精霊。
何かの。
箱に。
頭を突っ込んでいる。
「…………」
かわいい。
「何してんだ?」
手を。
伸ばす。
「アルト!」
「?」
ぴたり。
止まる。
「仕事」
「…………」
「あ」
「もう」
忘れてた。
「ごめん」
「精霊見つけると、ほんとそれだねー」
「だって精霊だぞ?」
「はいはい」
「見て! ちっちゃい!」
「分かったから、何してるか見てー」
「うん!」
改めて。
見る。
精霊は。
古い木箱の。
隙間に。
前半分を。
突っ込んでいた。
後ろだけ。
出ている。
もぞもぞ。
カリカリ。
「…………」
「どう?」
「挟まってる?」
「え?」
近づく。
精霊が。
動く。
もぞ。
もぞ。
「…………」
抜けない。
「挟まってる!」
「ほんとに?」
「うん!」
「助けられそう?」
「やってみる」
木箱に。
手をかける。
「…………」
重い。
でも。
これくらいなら。
「よっ」
少し。
持ち上げる。
隙間が。
広がる。
ぽんっ。
「おっ!」
精霊が。
抜けた。
「出た!」
ふわっ。
淡い光。
小さな精霊が。
宙へ。
浮かぶ。
「…………!」
近い。
「フィリア! 見て!」
「見えてるよー」
「かわいい!」
「よかったねー」
「なんの精霊だろ?」
「アルト」
「ん?」
「近い近い」
「え?」
精霊。
目の前。
「…………」
次の瞬間。
びくっ。
精霊が。
震えた。
「あ」
ふわっ!
飛ぶ。
「あっ!」
俺から。
逃げるように。
上へ。
「待って!」
「追わないのー」
「でも!」
「助けられたんだからいいでしょー」
「…………」
建物の。
屋根を越えて。
消える。
「…………」
「アルト?」
「行っちゃった……」
「行っちゃったねー」
「せっかく助けたのに」
「助けたからって懐くわけじゃないよー」
「…………」
知ってる。
知ってるけど。
「ちょっとくらい……」
「残念だったねー」
「うん……」
隙間から。
出る。
「でも」
「?」
フィリアが。
笑う。
「初巡回で一個解決したじゃん」
「…………」
解決。
「俺が?」
「うん」
「…………」
そっか。
俺が。
見つけて。
助けた。
「俺、仕事した?」
「したした」
「軍人っぽい?」
「ちょっとだけねー」
「おお!」
「ちょっとだけ」
「二回言わなくていいだろ!」
「あはは」
さっきの女性へ。
報告しに。
戻る。
大事件じゃ。
なかった。
悪い奴も。
いなかった。
戦いも。
なかった。
でも。
「…………」
なんか。
いいな。
こういうのも。
少しだけ。
軍人という仕事が。
分かってきた。
そんな。
気がした。




