初巡回!
「……よし」
最後の一本。
刃。
柄。
鍔。
一つずつ。
確認して。
棚へ戻す。
「ログ!」
「あ?」
「終わった!」
「おう」
ログが。
確認表を見る。
「初めてにしちゃ上出来だな」
「だろ?」
「途中からは、な」
「最初からだろ!」
「最初は振っただけじゃねぇか」
「…………」
忘れてた。
「まぁいい。次行ってこい」
「おう!」
待ってました。
巡回。
ようやく。
外に出られる。
「フィリア、どこ?」
「正門前で待ってるはずだ」
「分かった!」
備品室を。
飛び出そうとして。
「アルト」
「ん?」
「走んな」
「まだ走ってない!」
「走ろうとしてただろ」
「…………」
「廊下は歩け」
「はーい」
扉を閉める。
歩く。
ちゃんと。
歩く。
「…………」
少しだけ。
早歩きで。
◇ ◇ ◇
正門。
「フィリア!」
「おー、来た来た」
フィリアが。
ひらひらと。
手を振る。
「待った?」
「ちょっとねー」
「ごめん!」
「備品管理でしょ? 最初は時間かかるよー」
「ログが細かいんだよ」
「ログはそういうのちゃんとしてるからねー」
「うん。なんかすげーいいこと言ってた」
「ログが?」
「うん!」
「へぇー」
「ヒルトの受け売りだったけど」
「あー」
フィリアが。
納得したように。
頷く。
「それなら納得」
「ログにも失礼じゃない?」
「ふふっ」
笑う。
その声は。
少しだけ。
掠れていた。
「…………」
「ん?」
「フィリア、本当に大丈夫?」
「あー」
自分の。
喉に触れる。
「まだちょっと声は出しづらいけどねー」
「無理しない方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよー。巡回くらいなら」
「そっか」
「それより」
フィリアが。
俺を見る。
「初巡回でしょ?」
「うん!」
「じゃあ、行こっか」
「おう!」
初めての。
街の巡回。
ようやく。
軍人らしい。
仕事だ。
◇ ◇ ◇
「巡回って、何すればいいの?」
「んー」
街を。
歩きながら。
フィリアが。
周りを見る。
「まずは街を見る」
「見てる」
「見るだけじゃなくてねー」
「?」
「いつもと違うところがないか。困ってる人がいないか。危ないところがないか」
「なるほど」
「何か起きてから動くだけが巡回じゃないからねー」
「おお……」
周りを見る。
店。
人。
道。
「…………」
いつもと。
違うところ。
「…………」
分からん。
「フィリア」
「んー?」
「いつもが分からない」
「あはは。そりゃそうだよー」
「初めてだもんな」
「だから今日は、街を覚えるくらいでいいよ」
「分かった!」
店。
道。
人。
覚える。
「フィリアちゃーん!」
「!」
突然。
大きな声。
「おー!」
フィリアが。
手を振る。
八百屋の。
おばちゃん。
「退院したのかい!」
「したよー」
「もう大丈夫なの?」
「まだちょっと声出しづらいけどねー」
「無理しちゃ駄目だよ!」
「ありがとー」
「ちょっと待ってな!」
「?」
店の奥へ。
引っ込む。
すぐに。
戻ってきた。
「ほら!」
赤い。
果物。
「え、いいの?」
「退院祝いだよ!」
「やったー。ありがと!」
受け取る。
そして。
また歩く。
「…………」
「んー?」
「知り合い?」
「うん」
「へぇ」
少し。
歩く。
「おっ! フィリア!」
「おー!」
今度は。
屋台。
「元気になったのか!」
「なったよー」
「よかったなぁ!」
「心配かけてごめんねー」
「いいっていいって!」
おじさんが。
串焼きを。
二本取る。
「ほら!」
「え?」
「退院祝い!」
「またー?」
「いいから持ってけ!」
「ありがとー!」
一本。
フィリア。
もう一本。
「ほら、兄ちゃんも」
「俺!?」
「一緒に巡回してんだろ?」
「いいの!?」
「おう!」
「やった!」
一口。
「うまっ!」
「だろ!」
歩く。
食べる。
「…………」
美味い。
「フィリア」
「んー?」
「巡回ってすごいな」
「何が?」
「飯もらえる」
「普通はもらえないよー」
「え?」
「フィリアちゃん!」
「おー!」
また。
止まる。
「退院したんだって?」
「したよー」
「これ持ってきな!」
「ありがと!」
歩く。
「フィリアお姉ちゃーん!」
「おー!」
また。
止まる。
「もう怪我治った!?」
「もう大丈夫だよー」
「遊ぼ!」
「今は仕事中ー」
「えー!」
「今度ねー」
「絶対だよ!」
「はいはい」
歩く。
「フィリア!」
「おー!」
止まる。
歩く。
「フィリアちゃん!」
「やっほー」
止まる。
歩く。
「フィリア!」
「おー」
止まる。
「…………」
全然。
進まない。
「…………」
ログ。
分かった。
行けば分かる。
これか。
「フィリア」
「んー?」
「いつもこんな感じ?」
「こんな感じって?」
「ずっと声かけられてる」
「そう?」
「そうだよ!」
「んー。いつもだから分かんない」
「これがいつも!?」
「うん」
「すげーな……」
街を。
巡回してるというより。
街のみんなに。
会いに来てるみたいだ。
「おや、フィリアちゃん」
「ん?」
店先。
椅子に座った。
おばあちゃん。
「退院したんだねぇ」
「したよー」
「よかったよかった」
「ありがとー」
おばあちゃんが。
今度は。
俺を見る。
「そっちの子は?」
「アルト」
「初めまして!」
「おや」
俺を。
上から下まで。
見る。
「この子がアルト君かい」
「俺のこと知ってるの?」
「そりゃあねぇ」
「なんで?」
「色々聞いてるよ」
「色々?」
「色々さ」
「?」
なんだ。
色々って。
「それで」
おばあちゃんが。
にこっと笑う。
「アルト君はフィリア派かい? ヴェロニカ隊長派かい?」
「…………」
なんだ。
それ。
「フィリア派?」
「おや。知らないのかい?」
「うん」
「この辺じゃ有名だよ」
おばあちゃんが。
どこか誇らしげに。
胸を張る。
「フィリア派とヴェロニカ隊長派」
「…………」
隣を見る。
「フィリア」
「んー?」
「なにそれ?」
「街の人が勝手に言ってるだけだよー」
「勝手に?」
「そうそう」
「フィリアちゃんは昔から人気だからねぇ」
「へぇー!」
「明るくて、よく街の人を手伝ってくれるだろ?」
「うんうん」
「子供達にも人気だしねぇ」
「確かに」
「ヴェロニカ隊長も負けちゃいないよ」
「隊長も?」
「そりゃあもう!」
おばあちゃんが。
急に。
声を大きくする。
「強くて! 綺麗で! 頼りになる!」
「おお!」
「ヴェロニカ隊長に憧れて軍を目指した子だっているくらいさ」
「すげー!」
「それで、どっちが素敵かって話になるとねぇ」
「なると?」
「意見が割れる」
「…………」
それで。
派閥。
「ちなみに私はフィリア派」
「聞いてないよー」
フィリアが。
笑う。
「向かいのパン屋はヴェロニカ隊長派さ」
「へぇ!」
「こないだも言い合いになってね」
「喧嘩!?」
「どっちが素敵かって」
「平和!」
「あはは。平和だねー」
フィリアまで。
笑っている。
「フィリアは知ってたの?」
「まぁねー」
「気にならない?」
「別にー」
「自分の派閥なのに?」
「私が作ったわけじゃないしー」
「…………」
それも。
そうか。
「どっちの方が多いの?」
「知らなーい」
「気にならないの?」
「ならないよー」
「俺だったら気になる」
「じゃあアルト派も作ってもらえばー?」
「おお!」
アルト派。
いい。
「どうやったら作ってもらえる?」
「冗談だよー」
「なんだよ!」
「あはは」
「じゃあアルト君」
おばあちゃんが。
楽しそうに。
俺を見る。
「あんたはどっちなんだい?」
「俺?」
「そうさ」
「…………」
フィリア。
ヴェロニカ隊長。
「フィリア派!」
「おや!」
「え、なんで?」
「だって」
フィリアの。
手元を見る。
果物。
串焼き。
他にも。
色々。
「飯もらえるから!」
「食べ物だけ!?」
「大事だろ!」
「じゃあ、もうあげなーい」
「なんで!?」
「ヴェロニカ隊長派になればー?」
「ならない!」
「なんでよー」
「隊長、食べ物持ってないもん!」
「もー!」
おばあちゃんが。
声を上げて。
笑っていた。
初巡回。
今のところ。
街に異常は。
ない。
ただ。
一つ。
分かった。
フィリアは。
俺が思っていたより。
ずっと。
街の人気者だった。




