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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ


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不穏な影

 森に静寂が戻る。


 聞こえるのは、葉が擦れる音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。


 ヒルトは片方の銃口を木々の奥へ向けたまま、低い声で告げる。


「アルト。動かないで。」


「分かった。」


 いつもならすぐに飛び出しそうなアルトが、素直にその場へ留まる。


 ヒルトはわずかに目を細めた。


 次の瞬間。


 茂みの奥で、何かが動いた。


 低い姿勢。


 四本の脚。


 獣のような影が、木々の間からゆっくりと姿を現す。


「狼……?」


 アルトが呟く。


「違う。」


 ヒルトは銃口を下げない。


 それは狼に似た形をしていた。


 だが、身体を覆うのは毛皮ではない。


 鈍い灰色の装甲。


 関節から覗く歯車。


 頭部には目の代わりに、赤い光を放つ小さな硝子玉が埋め込まれている。


「魔具だ。」


 獣型魔具は二人の姿を捉えると、赤い光を明滅させた。


 そして、大きく地面を蹴る。


「来る!」


 アルトは《砕》を構えた。


 獣型魔具が口を開き、鋭い金属の牙を剥き出しにする。


 そのままアルトの喉元へ飛びかかった。


「アルト、壊さないで!」


 ヒルトの声が飛ぶ。


 振り上げられていた《砕》が、ぴたりと止まった。


「調べれば、誰が送り込んだか分かるかもしれない!」


「分かった!」


 アルトは《砕》の軌道を強引に変えた。


 鉄杖は獣型魔具ではなく、その足元の地面へ叩き込まれる。


 轟音。


 土と石が弾け飛び、地面が大きく陥没した。


 足場を失った獣型魔具が、空中で体勢を崩す。


「ヒルト!」


「任せて!」


 ヒルトは《ツインコード》の引き金を引いた。


 二発の銃声が、ほぼ同時に森へ響く。


 放たれた弾丸は獣型魔具の前脚と後脚を正確に撃ち抜いた。


 金属の身体が地面へ叩きつけられる。


 獣型魔具は立ち上がろうともがいたが、破壊された脚は動かなかった。


「やったか?」


「近づかないで。」


 ヒルトは銃口を向けたまま、慎重に距離を詰める。


 獣型魔具の赤い目が、激しく明滅している。


 その光を見た瞬間、ヒルトの表情が変わった。


「アルト、離れて!」


「え?」


「早く!」


 ヒルトが後方へ飛ぶ。


 アルトも反射的にその場から跳び退いた。


 直後。


 獣型魔具の腹部が、内側から弾け飛んだ。


 爆音とともに炎が広がり、金属片が周囲の木々へ突き刺さる。


 アルトは《砕》を盾のように構え、飛んできた破片を弾き落とした。


 爆風が収まる。


 残ったのは、黒い煙と焼け焦げた土。


 そして、原形を失った金属の残骸だけだった。


「自分で壊れたぞ。」


「証拠を残さないためだろうね。」


 ヒルトは立ち上がると、煙を上げる残骸へ近づいた。


「ずいぶん用意がいい。」


 アルトも《砕》を担ぎ直し、その後ろへ続く。


「さっきの狼、俺たちを襲いに来たのか?」


「どうだろう。」


 ヒルトは残骸の前へしゃがみ込んだ。


「見つかるまで、わざと音を立ててたようにも見えた。」


「わざと?」


「僕たちを、ここへ引きつけたかったのかもしれない。」


 ヒルトは焼け残った装甲を慎重に持ち上げる。


 内側には、小さな部品が複雑に組み合わされていた。


「……やっぱり。」


「何か分かったのか?」


「ヴォルグ製だ。」

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