次の仕事は…
二時間後。
「終わったぁぁぁ……」
机に。
突っ伏す。
長かった。
本当に。
長かった。
紙。
紙。
紙。
どこを見ても。
紙。
途中から。
文字を書いているのか。
紙に何かを刻んでいるのか。
分からなくなっていた。
「お疲れ様でした」
「もう書類ない?」
「今は」
「今は?」
「これから先もありますよ?」
「…………」
聞かなかったことにしよう。
俺は。
椅子から立ち上がる。
「次!」
「元気ですね」
「だって書類じゃないんだろ?」
「はい。次は備品の点検です」
「備品?」
「訓練場で使う物や、隊で管理している装備ですね」
「へぇ!」
なんか。
軍人っぽい。
「どこ?」
「備品室です。ログが待ってますよ」
「焦げパン?」
「はい。焦げパンです」
「ぷっ……」
「ふふっ」
駄目だ。
さっきから。
これだけで。
笑えてしまう。
「じゃあ行ってくる!」
「はい。頑張ってください」
「おう!」
部屋を出る。
さっきまでの。
重たい身体が。
嘘みたいに軽い。
やっぱり。
俺は。
机に向かっているより。
動いている方がいい。
廊下を進み。
階段を降りる。
教えてもらった場所へ。
向かう。
「ここか」
備品室。
そう書かれた。
扉。
開ける。
「ログ!」
「おう」
中にいたのは。
ログ。
棚に並んだ。
いくつもの道具を。
確認していた。
「来たか」
「来た!」
「書類は?」
「終わった!」
「ほぉ」
「全部!」
「レテに手伝ってもらったんじゃねぇだろうな?」
「手伝ってもらってない!」
「本当か?」
「本当!」
「なら上出来だ」
「…………」
なんだろう。
いつもの。
ログなのに。
「ログ」
「あ?」
「書類仕事得意なんだって?」
「まぁな」
「…………」
見る。
焦げた肌。
大きな身体。
どう見ても。
机より。
こっちの方が。
似合う。
「なんだよ」
「いや……」
「言いてぇことあんなら言え」
「焦げパンなのにすげーなって」
「誰が焦げパンだ!」
「ははは!」
「ったく……」
ログが。
呆れたように。
頭を掻く。
「で」
近くの棚を。
軽く叩いた。
「次は俺が教える」
「おう!」
「備品点検だ」
棚には。
訓練用の剣。
盾。
防具。
縄。
工具。
よく分からない物まで。
ずらりと。
並んでいる。
「これ全部?」
「全部じゃねぇ。今日やる分だけだ」
「なんだ」
よかった。
「ここからここまでだ」
ログが。
指を動かす。
「…………」
棚。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
まだ。
動く。
「…………」
五つ。
六つ。
「ここまで」
「多くない?」
「こんなもんだ」
「…………」
嫌な予感がする。
「何すればいいの?」
「簡単だ」
ログが。
訓練用の剣を。
一振り。
手に取る。
「数が合ってるか。壊れてねぇか。使える状態か。それを一つずつ確認する」
「おお」
なるほど。
それなら。
書類より。
ずっといい。
「壊れてたら?」
「こっちに分ける。直せるもんなら修理。無理なら廃棄だ」
「分かった!」
「あと」
「?」
「適当に見るなよ」
「見ないよ」
「お前、絶対やるだろ」
「やらないって!」
「そうか?」
「ちゃんとやる!」
「ならいい」
ログが。
訓練用の剣を。
俺へ放る。
「ほら」
「おっと」
受け取る。
「まずそいつからだ」
「よし!」
剣を見る。
刃。
柄。
握って。
軽く振る。
「うん!」
「どうだ?」
「使える!」
「…………」
「?」
「お前」
「なに?」
「今、何を確認した?」
「え?」
剣を見る。
「…………」
振った。
「振った!」
「見りゃ分かる」
「使えたよ?」
「そういう意味じゃねぇ」
「?」
ログが。
大きく。
ため息をついた。
「いいか」
俺から。
剣を受け取る。
「まず刃だ。欠け、ひび、歪み」
指で。
刃をなぞる。
「次に柄。緩んでねぇか。滑らねぇか」
軽く。
握る。
「鍔も見る。ガタつきがあったら使わせんな」
「へぇ……」
「訓練用だからって適当に扱うと怪我人が出る」
「…………」
さっきまでとは。
違う。
ログの声。
いつもの。
大雑把そうな感じじゃない。
一つ。
一つ。
確かめながら。
俺に見せてくれる。
「こういうのはな」
ログが。
剣を棚へ戻す。
「使う奴が安心して訓練できるように、使う前に俺らが見るんだよ」
「…………」
「地味だけどな」
「いや」
もう一度。
剣を取る。
「大事じゃん」
「そういうことだ」
「分かった!」
今度は。
ちゃんと。
刃を見る。
欠け。
ひび。
歪み。
柄。
鍔。
一つずつ。
「…………」
さっきの。
書類とは違う。
こっちは。
ちょっと。
楽しいかもしれない。
「ログ!」
「あ?」
「これ終わったら巡回だよな?」
「そうだな」
「早く終わらせよう!」
「馬鹿」
頭を。
軽く小突かれた。
「いてっ」
「早くじゃねぇ」
ログが。
俺の持つ剣を指す。
「ちゃんと、だ」
「…………」
「早く終わらせようとして見落としたら、点検する意味ねぇだろ」
「……そっか」
「一個ずつやれ」
「分かった」
ちゃんと。
一つずつ。
俺は。
剣へ目を落とした。




