初仕事はなんでしょう?
◇ ◇ ◇
翌朝。
「よし!」
軍服の襟を。
整える。
「…………」
もう一度。
鏡を見る。
「よし!」
昨日までと。
同じ服。
同じ自分。
なのに。
今日は。
なんだか違って見える。
「へへっ……」
ガイスト軍。
正式入隊。
「今日から俺も……」
軍人。
「…………」
手首を見る。
昨日。
レテから貰った。
二つの銀の輪が重なった。
ブレスレット。
「よし!」
気合いを入れて。
部屋を飛び出した。
◇ ◇ ◇
「おはようございます!」
「ああ」
アーヴェル隊長の前で。
びしっ!
背筋を伸ばす。
「アルト、ただいま参りました!」
「…………」
「本日から正式な軍人として!」
「…………」
「どんな任務でも!」
「…………」
「全力で!」
「アルト君」
「はい!」
隣にいたレテが。
小さく笑っている。
「元気ですね」
「だって初日だよ!」
「昨日までとそんなに変わりませんよ?」
「全然違うよ!」
「そうですか?」
「正式だから!」
「ふふっ、そうですね」
「スミスマン」
「はい」
「昨日よりうるさくなっていないか?」
「気のせいじゃないですよ、隊長」
「ログ!」
「朝から元気すぎんだよ」
「初日だぞ!」
「知ってるよ!」
「もっとこう……ないの!?」
「何がだよ」
「先輩として!」
「…………」
ログが。
少し考える。
「頑張れ」
「雑!」
「なんて言ってほしいんだよ!」
「もっとあるだろ!」
「面倒くせぇ!」
「ふふっ」
「レテも笑わないでよ!」
「す、すみません」
「アルト」
「はい!」
アーヴェル隊長が。
立ち上がる。
来た。
初任務。
どんな仕事だろう。
街の巡回?
魔獣討伐?
それとも。
いきなり国外任務とか!
「昨日」
「はい!」
「俺が言ったことを覚えているか?」
「…………」
昨日?
「えっと……」
考える。
「あ」
『馬車馬のように働かせるから覚悟しろ』
「馬車馬!」
「そうだ」
「…………」
なんか。
嫌な予感がする。
「スミスマン」
「はい」
「持ってきてくれ」
「了解です」
「?」
ログが。
部屋の隅へ向かう。
「何?」
「初任務だ」
「おお!」
ログが。
何かを。
抱える。
「…………」
紙。
大量の。
紙。
「…………」
ドサッ!
机の上へ。
置かれた。
「…………」
俺の顔くらいまで。
積み上がっている。
「…………」
「獣の森での報告書だ」
「…………」
「これを整理しろ」
「…………」
「隊別、時間別に分けて――」
「ちょっと待ってください!」
「なんだ」
「これが初任務!?」
「そうだ」
「もっとこう!」
剣を振る真似。
「魔獣と戦ったり!」
「ない」
「街を守ったり!」
「後でやる」
「悪い奴を捕まえたり!」
「必要ならな」
「じゃあこれは!?」
「書類整理だ」
「それは見れば分かります!」
ログが。
吹き出す。
「ぶっ……!」
「ログ!」
「わ、悪い……ははっ!」
「笑うなよ!」
「だってお前、昨日まで軍人になりたいってあんなに騒いでたじゃねぇか!」
「書類整理したくて軍人になったんじゃない!」
「軍人の仕事だ」
アーヴェル隊長が。
真顔で言う。
「うっ……」
「それに」
「?」
「今日はそれだけではない」
「……!」
まだある。
やっぱり。
本当の任務が。
「終わったら備品庫の整理だ」
「…………」
「その後、訓練場の器具点検」
「…………」
「昼からは街の巡回に同行してもらう」
「…………!」
「巡回!」
やっと。
軍人っぽい。
「分かりました!」
「まず書類だ」
「はい……」
椅子へ。
座る。
「…………」
紙の山を見る。
「馬車馬って……」
ぼそっ。
「本気だったんだ……」
「何か言ったか?」
「何も言ってません!」
「ふっ」
「…………」
「今笑いました!?」
「気のせいだ」
「絶対笑った!」
「アルト君」
「なに?」
「手、止まってますよ」
「あっ!」
「初日から怒られますよ?」
「やる! 今やる!」
慌てて。
一枚目を取る。
「…………」
読む。
「…………」
「レテ」
「はい?」
「これ何て読むの?」
「…………」
「アルト君」
「はい」
「もしかして……」
「…………」
「書類仕事、苦手ですか?」
「…………」
もう一度。
紙を見る。
「……うん」
「まだ一枚目ですよ?」
「…………」
正式入隊。
初日。
俺は早くも。
軍人という仕事の。
厳しさを知った。




