かつての友人②
「……わかんねぇ」
「あ?」
ゼンが。
ぽつりと。
呟く。
「ログよぉ」
「なんだよ」
「なんでお前は……普通にしてられたんだよ?」
「普通?」
「あぁ」
ゼンが。
暗くなり始めた空を見上げる。
「俺ぁよ……三人は対等だと思ってたよ」
「…………」
「そりゃ腕っぷしや喧嘩なら、ヒルトは弱ちぃけどよ」
「まぁな」
「あいつの兄貴が消えて……あいつが周りを避けた」
「…………」
「そりゃ分かる」
ゼンの。
拳が握られる。
「でもよ……」
「…………」
「なんで俺のことまで、怯えた目で見るんだよ?」
「…………」
「からかったら!」
声が。
大きくなる。
「前は言い返してきてたのに!」
「…………」
「急に『ごめん』だの……逃げたりしやがった!」
「ゼン」
「俺は!」
拳が。
震える。
「あいつにとって!」
「…………」
「そんなもんだったのか!」
誰もいない演習場に。
ゼンの声だけが。
響く。
「だから……」
「…………」
「だから!」
俯く。
「あいつが俺にやり返すまで……」
「…………」
「はぁ……」
俺は。
頭を掻いた。
「だからってよ」
「…………」
「いじめていい理由にはならねぇな?」
「…………」
ゼンは。
何も言わない。
「確かに……あん時のあいつはおかしかった」
「…………」
「周りから大犯罪者の弟って言われてよ」
「そんなもん……!」
「だからこそ怖かったんだ」
「……!」
「俺やお前にまで避けられたくなかったんだろ」
「だから俺はそんなんで!」
「分かる」
「…………」
言葉を。
遮る。
「お前の言いたいことはよ」
「…………」
「でも」
ゼンを見る。
「幼い時に両親亡くして」
「…………」
「たった一人の家族が大犯罪者になったら……」
「…………」
「怖いだろ」
俺だって。
全部。
分かってたわけじゃない。
「その上」
友達まで。
いなくなったら。
「…………」
「お前なら怖くねぇのか?」
「…………」
「俺は……」
ゼンが。
俯く。
「俺はよ……」
「…………」
しばらく。
沈黙が続く。
「そういや」
「あ?」
「お前」
話を。
少し変える。
「まだ《クラッシャー》使ってんだって?」
「…………」
「悪りぃかよ」
「いや」
思わず。
笑う。
「ヒルト、多分喜んでたぞ」
「…………」
ゼンが。
顔を上げる。
「……あいつが?」
「ああ」
「…………」
「心配もしてた」
「…………」
「うちの店でメンテナンスしてないって言ったらよ」
あの時の。
ヒルトの顔を。
思い出す。
「『ほんとに身体に合ったサイズにできてんの?』とか」
「…………」
「色々とな」
「…………」
ゼンが。
目を逸らす。
「……軍でメンテナンスしてるっつーの」
「馬鹿野郎」
「あ?」
「うちで買ったんだ」
胸を張る。
「メンテナンスもうちのがいいに決まってんだろ」
「なんだその理屈」
「職人舐めんな!」
「軍の整備士も職人だろうが!」
「うるせぇ!」
「お前が言い出したんだろ!」
「ははっ」
「…………」
「…………」
少しだけ。
空気が。
軽くなる。
「……俺さ」
「ん?」
ゼンが。
自分の手を見る。
「あいつに助けられたんだ」
「…………」
「この間の任務で」
「ヒルトに?」
「あぁ」
小さく。
頷く。
「ライとかいう奴に……殺されそうになった時に」
「…………」
「あいつが来た」
「そうか……」
「…………」
ゼンが。
拳を握る。
「俺は……」
「…………」
「あいつより」
悔しそうに。
歯を食いしばる。
「先に行ってるもんだと思ってたよ」
「…………」
「…………」
「アカデミアの卒業の時に負けたのにか?」
「うるせー!」
「はははは!」
「今いいところだっただろうが!」
「だって負けたじゃねぇか!」
「あれは!」
「負けたよな?」
「一回だけだ!」
「負けてんじゃねぇか!」
「ログ!」
「ははは!」
「てめぇ……!」
ゼンが。
睨んでくる。
でも。
その顔は。
さっきまでより。
ずっと。
昔のこいつに近かった。




