楽しみ
◇ ◇ ◇
「これは……」
ノアが珍しく言葉を止めた。
椅子に拘束されたキールは、虚ろな瞳のまま、先ほどまで薬によって吐き出した言葉をぶつぶつと繰り返している。
「……革命……精霊……ルミナス……」
「まずいんじゃねーか、局長殿」
バルガスの顔からも、いつもの豪快な笑みが消えていた。
「…………」
ミレイアも黙り込んでいる。
「ミレイア女史、バルガス隊長」
「はい」
「ここで聞いたことは、他言無用でお願いします」
「あいよ……しかし、手は早く打たねーとな」
「……はい」
「はぁ……」
ノアが深いため息を吐く。
「仕事が増える……」
赤い瞳が、未だ虚ろな目で呟き続けるキールを睨む。
「そういや局長殿」
「なんです?」
「アーヴェルのとこにいた奴も、今あっちにいるよな?」
「えぇ……」
ノアの目が細くなる。
「事態は深刻ですねぇ」
「…………」
「ルミナスでクーデターですか……」
◇ ◇ ◇
「あー、食った食った!」
歓迎会も終わり。
俺達は片付けを始めていた。
ヒルトとフィリア、それにアルトも手伝うと言っていたが。
怪我人と今日の主役に、片付けまでやらせるわけにはいかない。
「よっし!」
残った皿を重ねていると。
「スミスマン、これはどこにあった?」
「隊長!」
振り返れば、アーヴェル隊長が食器を持って立っていた。
「ほんとに片付けは俺とレテとユノでやりますよ!」
「準備まで任せたからには、そうはいかん」
「いや、でも隊長までやらなくても……」
「手伝う」
「…………」
駄目だ。
こうなった隊長は折れない。
「分かりましたよ! じゃあ運ぶのは俺がやります! 場所も分かるんで!」
「ああ」
「隊長は食器とかゴミとか、レテ達のところに持っていってもらってもいいですか?」
「分かった」
「アーヴェル、そっちは私が持つわ」
「ん?」
帰ったと思っていたヴェロニカ隊長が、アーヴェル隊長から食器を受け取った。
「ヴェロニカ隊長、帰ったんじゃなかったんですか?」
「帰ろうとしたわよ。でもアーヴェルが手伝うって聞いたから戻ってきたの」
「そうだったんですか」
「いいのよ。使えるものは親でも使えっていうでしょ?」
「それ、本人の前で言います?」
「別にいいじゃない」
「聞こえているぞ」
「ほら!」
「ふふっ」
ヴェロニカ隊長は全く気にしていない。
相変わらずだな、この人。
「……グランディア」
「何?」
「その靴、履いてきたのか」
「あら」
ヴェロニカ隊長が片足を少し前に出す。
「気づくの遅いわね」
「…………」
「何よ?」
「よく似合う」
「…………」
「あら、ありがとう」
平然。
いつも通り。
何でもないように返している。
(やっべ! 褒められた! たまんねぇ〜!)
……たぶん。
そんなこと考えてる。
なんとなく顔を見れば分かる。
「貴方もプレゼントしてくれてもいいのよ?」
「ふっ」
「…………!」
(え? 笑った!? 私との会話で!?)
……たぶん。
今度は絶対そう思ってる。
「行くぞ、グランディア」
「え、ええ! 行きましょう!」
二人が食器を持って部屋を出ていく。
「…………」
なんか。
ヴェロニカ隊長。
すげぇ嬉しそうだったな。
「ログ」
「ん?」
後ろからレテの声。
「そちら、終わりましたか?」
「ああ! もうちょい!」
「分かりました。こちらもユノくんと片付けておきますね」
「頼む!」
「はい」
さて。
俺もさっさと終わらせるか。
重ねた皿を持ち上げる。
「よっ……と!」
楽しい時間は終わり。
明日からは、またいつもの日常。
「…………」
いや。
アルトが正式に入隊したんだ。
いつも通りには。
ならないか。
「ははっ」
なんとなく。
少しだけ。
楽しみだった。




