こっからは仕事
◇ ◇ ◇
「できましたよ」
「おお!」
アルトくんが。
腕を。
持ち上げる。
焦げ茶色の。
細い革紐。
その中央では。
二つの銀の輪が。
僅かに。
重なっている。
「どう?」
「似合ってますよ」
「ほんと?」
「はい」
「へへっ」
嬉しそうに。
何度も。
手首を見る。
「ありがとう、レテ!」
「どういたしまして」
「大事にする!」
「ふふっ」
「?」
「いえ」
そんなに。
喜んでもらえるなら。
買ってきた甲斐が。
ありました。
◇ ◇ ◇
それから。
しばらく。
歓迎会は。
続いた。
「アルト! それ僕が取っておいた肉だよ!」
「名前書いてないじゃん!」
「だからって取らないでよ!」
「早い者勝ち!」
「アルト、さっきから食べすぎでしょ!」
「ヒルトだって玉子サンドいっぱい食べてるじゃん!」
「玉子サンドは別!」
「何が違うんだよ!」
「全部!」
「全然分かんない!」
「アルトさん」
「ん?」
「ヒルトさん」
「なに?」
ユノくんが。
二人の間から。
机を指差す。
「そんなことしてると、なくなりますよ」
「「え?」」
二人が。
同時に。
振り返る。
「…………」
そこには。
料理を。
次々と。
皿へ取っている。
ログ。
「ああ!」
「ログ!」
「ん?」
「取りすぎだろ!」
「早い者勝ちなんだろ?」
「それ俺が言ったやつ!」
「なら文句言うな」
「その肉、僕も狙ってたんだけど!」
「知らん」
「ログ!」
「なんだよ!」
ログが。
むっとした顔で。
二人を見る。
「さっきから二人で騒いでるからだろ!」
「だからって全部取るなよ!」
「全部じゃない!」
「ほとんどじゃん!」
「残ってるだろ!」
「野菜しかないよ!」
「野菜も食え!」
「僕は肉が食べたいの!」
「俺も!」
「知らん!」
「「ログ!」」
「うるさい!」
「ふふっ」
「レテまで笑うな!」
「す、すみません」
「絶対笑ってるじゃん!」
「笑ってませんよ」
「笑ってる!」
「ふふっ」
「ほら!」
「アルトさん」
「ん?」
ユノくんが。
残された。
野菜を見る。
「僕が作った料理もあるんですけど」
「どれ!?」
「これです」
「食べる!」
「まだ何か言ってませんよ?」
「ユノが作ったなら食べる!」
「…………」
ユノくんが。
少しだけ。
目を丸くする。
「……そうですか」
「うん!」
「じゃあ、どうぞ」
「いただきます!」
ぱくっ。
「…………!」
「どうです?」
「うまい!」
「本当ですか?」
「うん!」
「よかったです」
「ユノ、料理できるんだな!」
「これくらいなら」
「また作って!」
「僕を何だと思ってるんですか」
「料理ができる後輩!」
「…………」
「?」
「アルトさん」
「なに?」
「僕の方が先輩ですよ」
「…………」
「…………」
アルトくんが。
姿勢を。
正す。
「ユノ先輩!」
「やめてください!」
「なんで!?」
「なんか腹立ちます!」
「理不尽!」
「ダッハハハ!」
部屋の隅から。
豪快な。
笑い声。
「いやぁ!」
バルガス隊長が。
立ち上がる。
「賑やかになりそうだな!」
「他人事みたいに言わないでください!」
「ダッハハ!」
バルガス隊長が。
大きく。
伸びをする。
「さて」
「?」
「俺はそろそろ行くとするか」
「え?」
アルトくんが。
振り返る。
「もう帰るんですか?」
「ああ」
「まだ料理ありますよ?」
「お前は食うことばっかりだな!」
「美味しいから!」
「ダッハハ!」
豪快に。
笑って。
バルガス隊長が。
扉へ向かう。
「あとは若いもんで楽しめ!」
「ちょっと!」
ミレイアが。
すぐさま。
声を上げる。
「それじゃあ、あたしも年寄りみたいじゃないですか!」
「ダッハハ! 気にすんな!」
「気にしますよ!」
「さぁ行こうか、先生!」
「はぁぁ……」
ミレイアが。
露骨に。
肩を落とす。
「あんまり気乗りしないなぁ」
「?」
アルトくんが。
首を傾げる。
「どこに行くんですか?」
「…………」
バルガス隊長が。
一瞬。
黙る。
「まぁ……」
頭を。
掻いて。
「なんだ……」
「?」
ニッ。
「秘密!」
「えぇ!?」
「ダッハハハ!」
「なんで秘密なんですか!?」
「そりゃ秘密だからだ!」
「答えになってないですよ!」
「まぁまぁ!」
バルガス隊長が。
手を。
ひらひらと振る。
「新人は歓迎されてりゃいいんだ!」
「俺もう軍人ですよ!」
「今日なったばっかだろ!」
「それでも軍人です!」
「ダッハハ!」
「じゃあねー、アルトくん」
「ミレイアさん!」
「んー?」
「ミレイアさんなら教えてくれますよね?」
「…………」
「…………」
ミレイアが。
にっこり。
笑う。
「秘密!」
「ミレイアさんまで!」
「あはは!」
「行くぞ、先生」
「はぁい」
「楽しんどけよ!」
バタン。
扉が。
閉まる。
「…………」
アルトくんが。
しばらく。
扉を見つめる。
「絶対なんかある」
「アルト」
「ん?」
「それより」
ヒルトが。
机へ。
手を伸ばす。
「これ、僕がもらうね」
「……あ!」
ぱくっ。
「それ俺が狙ってた肉!」
「早い者勝ちなんでしょ?」
「それは俺がヒルトに言ったやつ!」
「だから使ってみた」
「返せ!」
「もう食べたよ」
「ヒルトォ!」
「アルト!」
「?」
今度は。
ログ。
「こっちの肉もらうぞ!」
「あっ!」
「早い者勝ちだ!」
「ログまで!」
「文句あるか!」
「ある!」
「知らん!」
「返せー!」
「もう俺の皿だ!」
「ログー!」
「ふふっ」
再び。
部屋に。
笑い声が。
広がった。
◇ ◇ ◇
廊下。
先ほどまでの。
賑やかな声が。
少しずつ。
遠ざかっていく。
「はぁぁ……」
ミレイアが。
大きな。
ため息を吐く。
「やっぱり行かなきゃ駄目です?」
「そりゃ駄目でしょうよ」
「ですよねぇ」
「先生がいないと話にならんでしょう」
「分かってますけどねぇ」
二人で。
廊下を。
進んでいく。
「せっかく楽しかったのになぁ」
「仕事ですからね」
「バルガスさんは切り替え早いですねぇ」
「まぁ……」
バルガス隊長が。
頭を掻く。
「楽しい仕事じゃないですからねぇ」
「…………」
「さっさと済ませましょうや」
「はぁい」
階段を。
下りる。
一段。
また。
一段。
人の気配が。
少なくなっていく。
先ほどまでの。
明るい空気も。
遠ざかっていく。
「…………」
やがて。
一枚の。
重い扉。
その前で。
二人が。
足を止める。
「先生」
「はい?」
「ここからは仕事ですよ」
「分かってますって」
ガチャ。
重い扉を。
開く。
「……遅かったですね」
「すんません」
中から。
気だるげな。
声。
「歓迎会が思ったより盛り上がっちまって」
「そうですか」
骨ばった。
長身。
赤い瞳。
ノア・ヴァルハイト。
壁へ。
背を預けたまま。
二人を見る。
「こちらは随分と待たされたんですがねぇ」
「まぁまぁ」
バルガス隊長が。
苦笑する。
「そう言わんでくださいよ。新人の祝いも大事な仕事でしょう?」
「……便利ですね、その言葉」
「ダッハハ!」
「褒めてませんよ」
「分かってますって!」
「…………」
ノアが。
小さく。
ため息を吐く。
「相変わらずですねぇ」
「ノアさん」
ミレイアが。
ひょこっと。
顔を出す。
「そんなに急ぎだったんです?」
「ええ」
「はぁぁ……」
また。
大きな。
ため息。
「やっぱり帰っちゃ駄目です?」
「構いませんよ」
「え?」
「必要になったら、また呼びに行きますので」
「…………」
「何度でも」
「それは嫌だなぁ」
「でしたら諦めてください」
「はぁい」
「ダッハハ! 観念してくださいよ、先生!」
「バルガスさんは楽しそうですねぇ」
「笑ってないとやってられんでしょう?」
「それもそうですねぇ」
「…………」
「バルガス隊長」
静かな。
声。
「はい?」
少し離れた場所。
シオンが。
こちらを見ている。
「そろそろよろしいですか?」
「ああ」
バルガス隊長の。
笑みが。
少しだけ。
薄くなる。
「すんません」
「…………」
空気が。
変わる。
ノアが。
ゆっくり。
壁から。
背を離した。
「では……」
赤い瞳が。
部屋の中央へ。
向けられる。
「全員揃ったことですし」
「…………」
そこには。
一人の男。
椅子へ。
拘束されている。
捕らえられた。
キール。
「そろそろ始めましょうか」
「…………」
ノアが。
気だるそうに。
首を傾ける。
「聞きたいことが」
細い。
赤い瞳が。
キールを捉える。
「山ほどありますので」




