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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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288/484

こっからは仕事

     ◇ ◇ ◇


「できましたよ」


「おお!」


 アルトくんが。


 腕を。


 持ち上げる。


 焦げ茶色の。


 細い革紐。


 その中央では。


 二つの銀の輪が。


 僅かに。


 重なっている。


「どう?」


「似合ってますよ」


「ほんと?」


「はい」


「へへっ」


 嬉しそうに。


 何度も。


 手首を見る。


「ありがとう、レテ!」


「どういたしまして」


「大事にする!」


「ふふっ」


「?」


「いえ」


 そんなに。


 喜んでもらえるなら。


 買ってきた甲斐が。


 ありました。


     ◇ ◇ ◇


 それから。


 しばらく。


 歓迎会は。


 続いた。


「アルト! それ僕が取っておいた肉だよ!」


「名前書いてないじゃん!」


「だからって取らないでよ!」


「早い者勝ち!」


「アルト、さっきから食べすぎでしょ!」


「ヒルトだって玉子サンドいっぱい食べてるじゃん!」


「玉子サンドは別!」


「何が違うんだよ!」


「全部!」


「全然分かんない!」


「アルトさん」


「ん?」


「ヒルトさん」


「なに?」


 ユノくんが。


 二人の間から。


 机を指差す。


「そんなことしてると、なくなりますよ」


「「え?」」


 二人が。


 同時に。


 振り返る。


「…………」


 そこには。


 料理を。


 次々と。


 皿へ取っている。


 ログ。


「ああ!」


「ログ!」


「ん?」


「取りすぎだろ!」


「早い者勝ちなんだろ?」


「それ俺が言ったやつ!」


「なら文句言うな」


「その肉、僕も狙ってたんだけど!」


「知らん」


「ログ!」


「なんだよ!」


 ログが。


 むっとした顔で。


 二人を見る。


「さっきから二人で騒いでるからだろ!」


「だからって全部取るなよ!」


「全部じゃない!」


「ほとんどじゃん!」


「残ってるだろ!」


「野菜しかないよ!」


「野菜も食え!」


「僕は肉が食べたいの!」


「俺も!」


「知らん!」


「「ログ!」」


「うるさい!」


「ふふっ」


「レテまで笑うな!」


「す、すみません」


「絶対笑ってるじゃん!」


「笑ってませんよ」


「笑ってる!」


「ふふっ」


「ほら!」


「アルトさん」


「ん?」


 ユノくんが。


 残された。


 野菜を見る。


「僕が作った料理もあるんですけど」


「どれ!?」


「これです」


「食べる!」


「まだ何か言ってませんよ?」


「ユノが作ったなら食べる!」


「…………」


 ユノくんが。


 少しだけ。


 目を丸くする。


「……そうですか」


「うん!」


「じゃあ、どうぞ」


「いただきます!」


 ぱくっ。


「…………!」


「どうです?」


「うまい!」


「本当ですか?」


「うん!」


「よかったです」


「ユノ、料理できるんだな!」


「これくらいなら」


「また作って!」


「僕を何だと思ってるんですか」


「料理ができる後輩!」


「…………」


「?」


「アルトさん」


「なに?」


「僕の方が先輩ですよ」


「…………」


「…………」


 アルトくんが。


 姿勢を。


 正す。


「ユノ先輩!」


「やめてください!」


「なんで!?」


「なんか腹立ちます!」


「理不尽!」


「ダッハハハ!」


 部屋の隅から。


 豪快な。


 笑い声。


「いやぁ!」


 バルガス隊長が。


 立ち上がる。


「賑やかになりそうだな!」


「他人事みたいに言わないでください!」


「ダッハハ!」


 バルガス隊長が。


 大きく。


 伸びをする。


「さて」


「?」


「俺はそろそろ行くとするか」


「え?」


 アルトくんが。


 振り返る。


「もう帰るんですか?」


「ああ」


「まだ料理ありますよ?」


「お前は食うことばっかりだな!」


「美味しいから!」


「ダッハハ!」


 豪快に。


 笑って。


 バルガス隊長が。


 扉へ向かう。


「あとは若いもんで楽しめ!」


「ちょっと!」


 ミレイアが。


 すぐさま。


 声を上げる。


「それじゃあ、あたしも年寄りみたいじゃないですか!」


「ダッハハ! 気にすんな!」


「気にしますよ!」


「さぁ行こうか、先生!」


「はぁぁ……」


 ミレイアが。


 露骨に。


 肩を落とす。


「あんまり気乗りしないなぁ」


「?」


 アルトくんが。


 首を傾げる。


「どこに行くんですか?」


「…………」


 バルガス隊長が。


 一瞬。


 黙る。


「まぁ……」


 頭を。


 掻いて。


「なんだ……」


「?」


 ニッ。


「秘密!」


「えぇ!?」


「ダッハハハ!」


「なんで秘密なんですか!?」


「そりゃ秘密だからだ!」


「答えになってないですよ!」


「まぁまぁ!」


 バルガス隊長が。


 手を。


 ひらひらと振る。


「新人は歓迎されてりゃいいんだ!」


「俺もう軍人ですよ!」


「今日なったばっかだろ!」


「それでも軍人です!」


「ダッハハ!」


「じゃあねー、アルトくん」


「ミレイアさん!」


「んー?」


「ミレイアさんなら教えてくれますよね?」


「…………」


「…………」


 ミレイアが。


 にっこり。


 笑う。


「秘密!」


「ミレイアさんまで!」


「あはは!」


「行くぞ、先生」


「はぁい」


「楽しんどけよ!」


 バタン。


 扉が。


 閉まる。


「…………」


 アルトくんが。


 しばらく。


 扉を見つめる。


「絶対なんかある」


「アルト」


「ん?」


「それより」


 ヒルトが。


 机へ。


 手を伸ばす。


「これ、僕がもらうね」


「……あ!」


 ぱくっ。


「それ俺が狙ってた肉!」


「早い者勝ちなんでしょ?」


「それは俺がヒルトに言ったやつ!」


「だから使ってみた」


「返せ!」


「もう食べたよ」


「ヒルトォ!」


「アルト!」


「?」


 今度は。


 ログ。


「こっちの肉もらうぞ!」


「あっ!」


「早い者勝ちだ!」


「ログまで!」


「文句あるか!」


「ある!」


「知らん!」


「返せー!」


「もう俺の皿だ!」


「ログー!」


「ふふっ」


 再び。


 部屋に。


 笑い声が。


 広がった。


     ◇ ◇ ◇


 廊下。


 先ほどまでの。


 賑やかな声が。


 少しずつ。


 遠ざかっていく。


「はぁぁ……」


 ミレイアが。


 大きな。


 ため息を吐く。


「やっぱり行かなきゃ駄目です?」


「そりゃ駄目でしょうよ」


「ですよねぇ」


「先生がいないと話にならんでしょう」


「分かってますけどねぇ」


 二人で。


 廊下を。


 進んでいく。


「せっかく楽しかったのになぁ」


「仕事ですからね」


「バルガスさんは切り替え早いですねぇ」


「まぁ……」


 バルガス隊長が。


 頭を掻く。


「楽しい仕事じゃないですからねぇ」


「…………」


「さっさと済ませましょうや」


「はぁい」


 階段を。


 下りる。


 一段。


 また。


 一段。


 人の気配が。


 少なくなっていく。


 先ほどまでの。


 明るい空気も。


 遠ざかっていく。


「…………」


 やがて。


 一枚の。


 重い扉。


 その前で。


 二人が。


 足を止める。


「先生」


「はい?」


「ここからは仕事ですよ」


「分かってますって」


 ガチャ。


 重い扉を。


 開く。


「……遅かったですね」


「すんません」


 中から。


 気だるげな。


 声。


「歓迎会が思ったより盛り上がっちまって」


「そうですか」


 骨ばった。


 長身。


 赤い瞳。


 ノア・ヴァルハイト。


 壁へ。


 背を預けたまま。


 二人を見る。


「こちらは随分と待たされたんですがねぇ」


「まぁまぁ」


 バルガス隊長が。


 苦笑する。


「そう言わんでくださいよ。新人の祝いも大事な仕事でしょう?」


「……便利ですね、その言葉」


「ダッハハ!」


「褒めてませんよ」


「分かってますって!」


「…………」


 ノアが。


 小さく。


 ため息を吐く。


「相変わらずですねぇ」


「ノアさん」


 ミレイアが。


 ひょこっと。


 顔を出す。


「そんなに急ぎだったんです?」


「ええ」


「はぁぁ……」


 また。


 大きな。


 ため息。


「やっぱり帰っちゃ駄目です?」


「構いませんよ」


「え?」


「必要になったら、また呼びに行きますので」


「…………」


「何度でも」


「それは嫌だなぁ」


「でしたら諦めてください」


「はぁい」


「ダッハハ! 観念してくださいよ、先生!」


「バルガスさんは楽しそうですねぇ」


「笑ってないとやってられんでしょう?」


「それもそうですねぇ」


「…………」


「バルガス隊長」


 静かな。


 声。


「はい?」


 少し離れた場所。


 シオンが。


 こちらを見ている。


「そろそろよろしいですか?」


「ああ」


 バルガス隊長の。


 笑みが。


 少しだけ。


 薄くなる。


「すんません」


「…………」


 空気が。


 変わる。


 ノアが。


 ゆっくり。


 壁から。


 背を離した。


「では……」


 赤い瞳が。


 部屋の中央へ。


 向けられる。


「全員揃ったことですし」


「…………」


 そこには。


 一人の男。


 椅子へ。


 拘束されている。


 捕らえられた。


 キール。


「そろそろ始めましょうか」


「…………」


 ノアが。


 気だるそうに。


 首を傾ける。


「聞きたいことが」


 細い。


 赤い瞳が。


 キールを捉える。


「山ほどありますので」

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