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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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280/478

双環のブレスレット

    

「これ」


 アルトの手が。


 一つの。


 ブレスレットへ。


 伸びる。


「…………」


 焦げ茶色の。


 細い革紐。


 手首へ。


 二重に巻く。


 簡素な作り。


 派手な装飾は。


 ほとんどない。


 ただ。


 中央には。


 二つの。


 小さな銀の輪。


 完全には。


 重ならず。


 けれど。


 離れることもなく。


 僅かに。


 重なり合っている。


「…………」


 アルトが。


 手に取る。


 角度を変え。


 眺める。


「これ、ちょっとカッコいいかも」


「へぇ」


 レテが。


 隣から。


 覗き込む。


「こういうのが好きなんですね」


「うん!」


「もっと派手なものを選ぶと思ってました」


「俺、そんな派手好きに見える?」


「…………」


「レテ?」


「少し?」


「なんで!?」


「ふふっ」


「…………」


 アルトが。


 ブレスレットを。


 手首に当ててみる。


「おお」


「似合いますよ」


「本当?」


「はい」


「…………」


 アルトが。


 嬉しそうに。


 もう一度。


 眺める。


「この二つの輪もカッコいいな」


「…………」


「あ」


「?」


「アルトくん」


 レテが。


 二つの銀の輪を。


 指差す。


「その意匠の意味、知ってます?」


「意味?」


「はい」


「これ、意味あるの?」


「ありますよ」


「へぇ!」


「…………」


 レテが。


 ブレスレットを見る。


「これは」


 二つの輪。


 異なる形を。


 保ったまま。


 隣り合う。


「『異なるものが、互いを縛らず隣を歩く』」


「…………」


「ガイストでは、昔からそういう意味を持つ意匠なんです」


「異なるものが……」


「はい」


「互いを縛らず」


「隣を歩く」


「…………」


 アルトが。


 もう一度。


 銀の輪を見る。


「それって」


「?」


「人間と精霊みたいだな」


「……はい」


 レテが。


 微笑む。


「そういう意味でも使われています」


「…………」


「人と精霊」


 異なる。


 二つの存在。


「どちらかが」


 レテが。


 静かに続ける。


「どちらかに合わせるのではなく」


「…………」


「違ったまま」


「…………」


「それでも、隣を歩いていく」


「…………」


 アルトが。


 ブレスレットを見る。


「…………」


 ほんの少し。


 その表情が。


 真剣になる。


 精霊を。


 助けたい。


 人間と精霊が。


 一緒に。


 生きられるようにしたい。


 ずっと。


 自分が。


 言ってきたこと。


「…………」


「アルトくん?」


「じゃあ」


「?」


 アルトが。


 顔を上げる。


 ニッ!


「もっと気に入った!」


「…………」


 レテが。


 目を瞬く。


「ふふっ」


「なんで笑うの?」


「いえ」


 小さく。


 首を振る。


「アルトくんらしいなと思って」


「そう?」


「はい」


「へへ」


「…………」


 アルトが。


 もう一度。


 手首へ。


 ブレスレットを当てる。


「いいなぁ、これ」


「買うんですか?」


「…………」


「…………」


 値札。


「…………」


「…………」


 アルトが。


 そっと。


 ブレスレットを。


 棚へ戻す。


「買わない!」


「え?」


「買わない!」


「さっき、もっと気に入ったって」


「気に入ったのと買うのは別!」


「…………」


「それに」


 アルトが。


 自分の手首を見る。


「アクセサリーとか付けたことないし」


「そうですか」


「うん!」


「…………」


 レテが。


 棚の上を見る。


 焦げ茶色の革紐。


 そして。


 二つの。


 銀の輪。


「…………」


「レテ?」


「はい?」


「次どこ行く?」


「…………」


「…………」


 忘れていた。


 時間稼ぎ。


「……!」


 レテが。


 時計を見る。


「…………」


「今時計見た!」


「見てません!」


「見たって!」


「見てません!」


「いや、俺ずっと見てたよ!」


「…………」


「…………」


「アルトくん」


「なに?」


「甘いものは好きですか?」


「急だな!?」


「好きですか?」


「好きだけど」


「では行きましょう!」


「どこに!?」


「甘いものを食べにです!」


「さっきまでアクセサリーの話してたよね!?」


「細かいことは気にしないでください!」


「レテが今日ずっとおかしい!」


「ほら、早く!」


「押さないでって!」


 ぐいぐい。


 レテが。


 アルトの背中を押す。


「…………」


 カラン。


 店の扉が。


 開く。


「だから何をそんなに急いで――」


「あ」


「?」


 レテの足が。


 止まる。


「…………」


 ちらり。


 振り返る。


「?」


「レテ?」


「…………」


 棚の上。


 先ほどの。


 ブレスレット。


「…………」


「どうしたの?」


「いえ」


 レテが。


 前を向く。


「なんでもありません」


「?」


「行きましょう」


「うん!」


 カラン。


 扉が。


 閉まる。


「…………」


 ほんの少しだけ。


 レテは。


 店の場所を。


 頭の片隅に。


 残していた。

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