帰ろ?
◇ ◇ ◇
それから。
アルト達は。
森の中に倒れていた。
ゼンを回収。
さらに。
ルールー。
フィリア。
ヒルトとも。
合流した。
「…………」
幸い。
全員。
生きている。
ただし。
「…………」
ほぼ全員。
ボロボロだった。
「…………」
ちなみに。
ゼンは。
「…………」
白目を剥いたまま。
未だに。
目を覚まさない。
「ゼン……大丈夫かな」
「息はしています」
「それ大丈夫って言っていいの?」
「恐らく」
「恐らく!?」
◇ ◇ ◇
森を抜け。
アルト達が。
どうにか辿り着いたのは。
近隣の。
小さな村だった。
ガイストまでは。
ここからでも。
まだ遠い。
ましてや。
今は怪我人だらけ。
三日もの道のりを。
このまま進むのは。
到底。
無理だった。
そのため。
シオンが。
村からガイスト軍へ。
連絡を入れる。
迎えが来るまで。
この村で。
待機することになった。
「つっかれたぁ……」
村へ入った途端。
アルトが。
その場へ。
座り込む。
「もう無理……一歩も歩けない……」
「アルト君」
「ん?」
「治療所まで歩いてください」
「一歩も歩けないって言ったじゃん!」
「頑張ってください」
「シオンさん厳しくない!?」
「歩けているので大丈夫です」
「確かに!」
「アルト君」
「はい!」
反射的に。
返事をする。
「…………」
シオンが。
そんなアルトを見て。
僅かに。
笑う。
「試験は合格です」
「…………」
「…………?」
「…………」
アルトが。
固まった。
「アルト君?」
「…………試験?」
「はい」
「…………」
「入隊試験です」
「…………」
「あ」
「?」
「ああ……」
アルトが。
頭を抱える。
「わ、忘れてたァァァァァ!」
「……!」
シオンの肩が。
僅かに跳ねる。
「そうだった! 俺、入隊試験してたんだった!」
「忘れていたんですか……?」
「色々ありすぎたんだよ!」
「それは……そうですが」
「って!」
アルトが。
勢いよく。
顔を上げる。
「え! 合格!?」
「はい」
「…………」
一拍。
「ヤッタァァァァァ!」
両腕を。
思い切り。
突き上げる。
「合格! 俺、合格!」
「はい」
「よっしゃぁぁぁ!」
「…………」
つい先ほど。
一歩も歩けないと。
言っていた男が。
飛び跳ねている。
「元気じゃないですか」
「これは別!」
「そうですか」
「でもさ」
アルトが。
首を傾げる。
「俺、試験らしいことできてた?」
「十分です」
「そうなの?」
「はい」
シオンが。
頷く。
「指示を聞き」
「…………」
「仲間と連携し」
「…………」
「そして何より」
アルトを見る。
「自分で考えて動いていました」
「…………」
「想定していた試験とは」
少し。
間を置く。
「大幅に違ってしまいましたが」
「大幅どころじゃない気がする……」
「…………」
「…………」
「そうですね」
「認めた!」
「ですが」
シオンが。
続ける。
「結果として」
治療所へ。
運ばれていく。
仲間達を見る。
「全員」
静かに。
微笑む。
「生きています」
「…………」
「それで十分です」
「シオンさん……」
「むしろ」
その表情が。
少しだけ。
曇る。
「ここまでの被害を出してしまったことは」
「…………」
「隊長として」
シオンが。
目を伏せる。
「私の方が、情けないですね」
「…………」
「シオンさん」
「はい」
「それは違うだろ」
「…………」
アルトが。
頭を掻く。
「シオンさんがいなかったら」
あの。
青白い雷を思い出す。
「俺、あの兄弟って呼んでくる奴に、ずっとボコボコにされて終わってたし」
「実際、かなりボロボロですが」
「そこは言わなくていい!」
「すみません」
「それに」
アルトが。
治療所を見る。
「みんな、生きて帰ってきたんだろ?」
「…………」
「だったら」
ニッ。
「シオンさんも合格!」
「…………」
「…………」
「私の試験だったんですか?」
「今決めた!」
「勝手ですね」
「ハハハ!」
「…………」
シオンが。
小さく。
息を吐く。
「ですが」
「ん?」
「一つ」
人差し指を。
立てる。
「減点があります」
「……!?」
アルトの笑顔が。
固まった。
「げ、減点!?」
「はい」
「何!?」
「アルト君」
シオンが。
じっと。
アルトを見る。
「途中から」
「…………」
「私にタメ口を使っていたでしょう」
「…………」
「…………」
アルトの顔から。
血の気が引いた。
「あ」
「…………」
「ああ……」
「…………」
「ご、ごめんなさい!」
勢いよく。
頭を下げる。
「全然気づかなかった!」
「…………」
「いや、その!」
慌てて。
顔を上げる。
「戦ってる最中だったから!」
「…………」
「シオンさんって呼んでたし!」
「…………」
「いや、そういう問題じゃないか!」
「…………」
「すみませんでした!」
「…………」
必死に。
謝るアルト。
それを見て。
「…………」
シオンの口元が。
僅かに。
緩んだ。
「クスッ」
「……?」
「冗談です」
「…………」
「…………」
「え?」
「戦闘中ですから」
シオンが。
微笑む。
「気にしていませんよ」
「…………」
アルトが。
じっと。
シオンを見る。
「……本当に?」
「はい」
「怒ってない?」
「怒っていません」
「…………」
「…………」
「なんか怖いな……」
「何か言いましたか?」
「何も言ってません!」
「そうですか」
「…………」
やっぱり。
ちょっと怖い。
「それでは」
「?」
シオンが。
アルトへ。
右手を差し出した。
「…………」
アルトが。
その手を見る。
「アルト君」
「…………」
いつもの。
穏やかな笑顔。
「ガイスト軍へ」
シオンが。
静かに告げる。
「ようこそ」
「…………!」
アルトの目が。
見開かれる。
「…………」
精霊を。
守るために。
人と。
精霊が。
共に生きられるのか。
それを。
知るために。
自分で。
選んだ場所。
「…………」
アルトも。
右手を伸ばす。
ガシッ。
二人の手が。
固く。
握られた。
「……はい!」
アルトが。
笑う。
「よろしくお願いします!」
「はい」
シオンも。
笑う。
「これからは」
「?」
「馬車馬のように働いてくださいね?」
「…………」
「…………」
「え?」
「期待しています」
「ちょっと待って!」
アルトが。
握られた手を見る。
「やっぱ怒ってない!?」
「怒ってないです」
「じゃあ馬車馬って何!?」
「言葉通りですが?」
「怖い怖い!」
「冗談ですよ」
「今の間は絶対冗談じゃなかった!」
「怒ってないです」
「笑顔で言うのやめて!」
「クスッ」
「やっぱ怒ってるだろ!」
◇ ◇ ◇
しばらくして。
ガイストから。
迎えの部隊が。
村へ到着した。
怪我人達が。
次々と。
馬車へ運ばれていく。
「…………」
そして。
担架の上。
「…………」
ゼン。
「…………」
未だ。
白目。
「まだ起きてない……」
「相当強く殴られたようですね」
「本当に生きてるよね?」
「生きています」
「よかった……」
そんな中。
「…………」
ヒルトは。
一人。
馬車の前で。
立ち止まっていた。
「…………」
帰る。
ガイストへ。
みんなと。
「…………」
けれど。
そこに。
兄はいない。
「…………」
「ヒルト君」
「……?」
ルールーの声。
振り返る。
「…………」
そこには。
ルールーに。
身体を支えられた。
フィリアがいた。
「フィリア……」
「…………」
フィリアが。
ゆっくりと。
手を伸ばす。
「……?」
ヒルトも。
その手へ。
手を伸ばした。
きゅっ。
「…………」
握られる。
「フィリア?」
「…………」
フィリアが。
ヒルトを見る。
「か……」
「…………?」
掠れた声。
「かえ……」
一度。
息を整える。
「……ろ?」
「…………」
ヒルトの目が。
僅かに。
見開かれた。
「…………」
帰ろ。
たった。
それだけ。
「…………っ」
ヒルトが。
俯く。
握った手に。
少しだけ。
力が入った。
「…………」
兄を。
連れて帰れなかった。
五年。
探し続けて。
ようやく。
会えた。
声も。
届いた。
最後には。
確かに。
兄がいた。
それでも。
一緒には。
帰れなかった。
「…………っ」
目の奥が。
熱くなる。
唇を。
ぎゅっと。
噛む。
泣かない。
今は。
まだ。
「…………」
ヒルトが。
ゆっくりと。
顔を上げる。
「……うん」
少しだけ。
震えた声。
それでも。
笑った。
「帰ろう」
「…………」
フィリアも。
笑う。
「…………?」
そして。
そのまま。
空いている手を。
持ち上げた。
ペシッ。
「痛っ!」
「…………」
「え?」
ペシッ。
「ちょ、フィリア!?」
「…………」
フィリアは。
笑っている。
ペシッ。
「三回目!」
「フィリアちゃん! 無理に動かないでください!」
「ルールーさん! 止めるのそっち!?」
「フィリアちゃんは重傷なんですよ!」
「僕も重傷なんだけど!?」
「ヒルト君は反省してください!」
「なんで僕だけ!?」
「ハハハハ!」
「アルト! 笑うな!」
「だってお前……!」
「…………」
その横を。
担架が。
静かに通り過ぎていく。
「…………」
ゼンは。
白目を剥いたまま。
微動だにしない。
「…………」
「ゼンだけ静かだな」
「気絶してるからね!」
「そっか!」
「そっかじゃない!」
「アルト君」
「はい!」
「馬車に乗りますよ」
「おう!」
「…………」
「…………」
「……あ」
アルトが。
シオンを見る。
「はい!」
「よろしい」
「やっぱ怒ってる!」
「怒ってないです」
「絶対嘘だ!」
笑い声が。
小さな村に。
響く。
色々なことが。
あった。
試験と呼ぶには。
あまりにも。
色々なことが。
起こりすぎた。
それでも。
全員。
生きている。
そして。
帰る場所がある。
「よーし!」
アルトが。
馬車へ乗り込みながら。
拳を上げる。
「ガイストに帰るぞ!」
「怪我人なので静かにしてください」
「はい!」
「返事だけはいいですね」
「ハハハ!」
こうして。
アルトの。
長すぎる入隊試験は。
ようやく。
終わりを告げた。




