そりゃないっすよ
◇ ◇ ◇
「違う……」
森の中。
一人。
リヒトが。
歩いていた。
「俺は……」
ふらふらと。
覚束ない足取りで。
「マロウ……」
「…………」
頭を。
押さえる。
「リヒトは……」
足が。
止まる。
「食っ……」
「…………っ」
頭を振る。
「違う……」
また。
歩く。
「食べたくない……」
「…………」
「もう……」
掠れた声が。
漏れる。
「食べたくない……」
「…………」
「リヒト……」
どこ。
「…………」
そんな言葉を。
何度も。
何度も。
繰り返しながら。
森の奥へ。
進んでいく。
「――兄貴!」
「…………」
声。
リヒトの足が。
止まった。
バヂッ!
青白い雷が。
木々の間を走る。
「やっと見つけた!」
ライ。
「兄貴!」
リヒトへ。
駆け寄る。
「大丈夫っすか?」
「…………」
「なんか変っすよ?」
「…………」
返事はない。
俯いたまま。
何かを。
呟いている。
「……兄貴?」
ライが。
顔を覗き込む。
「もしかして」
「…………」
「あのヒルトってやつのせいっすか?」
「…………っ」
リヒトの肩が。
僅かに。
揺れた。
「…………?」
「兄貴」
ライが。
肩へ手を伸ばす。
「しっかりしてっす!」
「…………」
「なんなら俺――」
いつものように。
笑う。
「あいつ殺してくるっすよ?」
「…………!」
リヒトの目が。
僅かに。
動いた。
「兄貴はここで待っててくださいっす」
「…………」
「俺ならすぐ――」
「…………」
「それより」
ライが。
少しだけ。
声を落とす。
「俺らの目的――」
ザシュッ。
「…………」
音がした。
「え?」
ライの目が。
見開かれる。
「…………」
何が。
起きた。
分からない。
「…………?」
視線を。
ゆっくりと。
下へ。
「……え?」
胸から。
腹へ。
斜めに。
走る。
一筋の傷。
遅れて。
血が。
噴き出した。
「がっ……!」
ライの身体が。
ぐらりと揺れる。
「…………」
その向こう。
リヒトの手には。
二振りの。
《薄氷》。
「…………」
斬られた。
兄貴に。
「……なん……」
ドサッ。
ライが。
膝をつく。
「兄……貴……?」
「…………」
リヒトは。
答えない。
ライを見ることすら。
しない。
《薄氷》を下げ。
そのまま。
歩き出す。
「…………」
「ちょ……」
ライが。
手を伸ばす。
「待って……くださいっすよ……」
「…………」
リヒトは。
止まらない。
「兄貴……」
「…………」
遠ざかっていく。
その背中を。
ライは。
ただ。
見つめる。
「…………」
血が。
地面へ落ちる。
「そんな……」
口元が。
僅かに。
歪んだ。
「そりゃ……」
いつものように。
笑おうとして。
笑えない。
「ないっすよ……」
「…………」
リヒトの姿が。
木々の向こうへ。
消えていく。
「…………」
ライが。
傷口を押さえる。
「……あー」
そのまま。
仰向けに。
倒れた。
「…………」
空を。
見上げる。
「これは……」
血に濡れた。
自分の手を見る。
「ダメなやつだな……」
「…………」
瞼が。
ゆっくりと。
落ちていく。
◇ ◇ ◇
「…………」
その頃。
アルトのすぐそば。
誰にも。
姿を見せることなく。
ひっそりと。
ついてきていた。
小さな存在。
「…………」
ぴくり。
何かを。
感じ取ったように。
顔を上げる。
「ギィ?」




