水穿②
ドォォォンッ!
轟音。
一直線に。
木々が弾ける。
土が。
抉れる。
「ライ!」
アルトが。
目を凝らす。
「…………」
土煙。
その奥。
何も。
見えない。
「……やった?」
「…………」
シオンは。
《穿雫》を下ろさない。
「いえ」
「……!」
バヂッ!
青白い雷。
「危なかったぁ!」
「…………!」
土煙から。
ライが飛び出した。
「こいつ……!」
生きている。
だが。
無傷じゃない。
左の脇腹。
服ごと。
大きく抉れている。
血が。
地面へ滴る。
「…………」
ライが。
傷口へ触れる。
「いってぇ……」
指先についた。
血を見る。
「…………」
そして。
シオンへ。
視線を向けた。
「隊長さん」
「はい」
「今の」
いつもの。
楽しそうな笑みが。
少しだけ。
薄れている。
「当たってたら?」
「…………」
シオンが。
僅かに考える。
「恐らく」
《穿雫》を。
構え直す。
「死んでいました」
「…………」
ライが。
黙る。
「…………」
アルトも。
黙る。
「…………」
「ハッ」
ライが。
突然。
笑った。
「ハハハハッ!」
「……?」
「やべぇな!」
脇腹から。
血を流しながら。
楽しそうに。
笑っている。
「兄弟!」
「なんだよ!」
「この人めちゃくちゃ強ぇぞ!」
「知ってるよ!」
「先に言えよ!」
「隊長なんだから分かるだろ!」
「ハハッ! 確かに!」
「…………」
シオンだけが。
笑っていない。
「次は」
「…………」
淡い霊素が。
再び。
《穿雫》へ集まり始める。
「外しません」
「…………!」
ライの笑みが。
僅かに。
引きつった。
「それ」
「はい」
「もう一回撃てんの?」
「試してみますか?」
「…………」
「…………」
「いや」
ライが。
首を振る。
「遠慮しとく」
「逃げんのか?」
アルトが。
《砕》を構える。
「んー」
ライが。
首を傾けた。
「まだやれっけど――」
その時。
「…………?」
ライが。
森の奥へ。
顔を向けた。
「…………」
「どうした?」
「…………」
返事がない。
先ほどまでの。
ふざけた顔が。
消えている。
「……兄貴?」
小さく。
呟く。
「リヒトがどうかしたのか?」
「…………」
ライが。
目を細める。
「なんか……」
鼻を鳴らす。
「変だな」
「……?」
アルトも。
同じ方向を見る。
何も。
分からない。
「…………」
ライが。
二本のカタールを下ろした。
「悪い、兄弟」
「あ?」
「俺、行くわ」
「はぁ!?」
「ちょっと兄貴んとこ見てくる」
「待てよ!」
「嫌だよ」
ライが。
即答する。
「次あれ飛んでくんだろ?」
シオンを見る。
「…………」
「正解です」
「ほら!」
「お前な!」
「ハハッ!」
アルトが。
ライへ向かって走る。
「逃がすか!」
「いやいや」
ライの身体から。
青白い雷が弾ける。
「兄弟じゃ俺に攻撃効かねぇだろ」
「だったら――」
《砕》を。
両手で握る。
「またしがみつく!」
「それが嫌なんだよ!」
バヂッ!
「……!」
一瞬。
ライが。
アルトの目の前へ。
「うおっ!?」
「じゃあな、兄弟」
「……!」
ライが。
ニッと笑う。
「また遊ぼうぜ」
「そん時までには俺に攻撃通るといいけどな!」
「誰が――」
バヂッ!
「……!」
消えた。
青白い雷だけが。
木々の間を。
遠ざかっていく。
「…………」
「…………」
「……逃げやがった」
アルトが。
《砕》を下ろす。
「追いますか?」
「…………」
アルトが。
雷の消えた方向を見る。
「追いたいけど……」
あの速さ。
追いつけるわけがない。
「…………」
それに。
「リヒトのところに行くって……」
「…………」
シオンの表情が。
変わる。
「ヒルト君」
「……!」
二人が。
同時に。
森の奥を見る。
「まずい!」
アルトが。
《砕》を握り直す。
「シオンさん、行こう!」
「待ってください」
「え?」
「ゼン君がいます」
「……!」
そうだった。
ライに。
気絶させられたまま。
「…………」
シオンが。
周囲を見回す。
「ルールーがこちらへ来ている可能性もあります。合流できれば――」
「…………?」
アルトが。
シオンを見る。
「シオンさん?」
「…………」
僅かに。
ふらついた。
「……!」
「おっと!」
アルトが。
咄嗟に。
肩を支える。
「大丈夫!?」
「……すみません」
シオンが。
額へ手を当てる。
「少し……使いすぎました」
「…………」
《残映》。
そして。
極限まで。
圧縮した霊素。
あれだけの一撃。
「…………」
アルトが。
ライの消えた方向を見る。
追いたい。
でも。
「……分かった」
《砕》を。
握り直す。
「まずゼンだ」
「はい」
「それから――」
遠く。
リヒト達がいる方向。
「ヒルトのところに行こう」
「…………」
シオンが。
頷く。
「急ぎましょう」
「おう!」
二人が。
走り出す。
「…………」
アルトは。
走りながら。
もう一度だけ。
先ほど。
ライがいた場所を見る。
人喰らい。
霊器も出さず。
術を使う。
そして。
自分の攻撃は。
まるで通らない。
「…………」
リヒト。
ライ。
あいつらは。
一体。
「……なんなんだよ」
答えは。
まだ。
分からない。
アルトは。
その疑問を抱えたまま。
森の奥へ。
駆けていった。




