水穿
バヂッ!
「……!」
ライが。
消える。
「アルト君!」
「おう!」
アルトが。
《砕》を構える。
右。
来る。
「……っ!」
ギィンッ!
二本のカタールを。
《砕》で受け止める。
「ぐっ……!」
「ハハッ!」
ライが。
そのまま。
身体を捻る。
蹴り。
「……!」
アルトが。
《砕》を滑らせる。
ガンッ!
「うぉっ!」
受け流す。
完全には。
殺せない。
それでも。
軌道は逸れた。
「この!」
アルトが。
ライの腕へ。
しがみつく。
「またそれかよ!」
「これが一番効くんだよ!」
「攻撃じゃねぇだろ!」
「うるせぇ!」
「ハハハ!」
ライが。
アルトを引きずったまま。
走る。
「うおおおっ!?」
「離せ!」
「嫌だ!」
「子供か!」
「お前に言われたくない!」
バヂッ!
「ぐあっ!」
雷が。
アルトを弾き飛ばす。
ドンッ!
背中から。
木へ叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「アルト君!」
「まだ……!」
立つ。
「…………」
ライが。
眉を寄せた。
「兄弟」
「あ?」
「お前」
二本のカタールを。
肩へ担ぐ。
「俺に勝てねぇの分かってるだろ」
「分かってるよ」
「…………」
「俺じゃ」
《砕》を。
構え直す。
「お前にダメージを与えられない」
「だったら――」
「でも」
アルトが。
ニッと笑った。
「俺が勝つ必要ないだろ?」
「…………」
ライの笑みが。
止まる。
「シオンさんが」
アルトが。
一歩。
前へ。
「勝てばいい」
「…………」
ライが。
ゆっくりと。
アルトの後ろを見る。
「…………」
シオン。
先ほどから。
ほとんど。
動いていない。
だが。
その目だけは。
ずっと。
自分を追っている。
「…………」
いや。
「……違うな」
「…………」
ライの表情から。
僅かに。
笑みが消える。
「俺を見てねぇ」
「…………」
シオンは。
地面を。
木々を。
折れた枝を。
焦げた草を。
見ている。
そして。
時折。
何もない場所へ。
視線を向ける。
「…………」
右。
左。
後ろ。
正面。
「…………」
ライが。
試すように。
右へ身体を傾ける。
「…………」
シオンの視線が。
先に。
右へ。
「……へぇ」
左。
「…………」
また。
先に。
「…………」
ライの目が。
細くなる。
「そういうことか」
「……?」
アルトが。
《砕》を構える。
「何がだよ」
「兄弟」
ライが。
ニヤリと笑った。
「お前、本当に時間稼ぎだったんだな」
「だから言ってただろ!」
「普通、本人が言うと思わねぇだろ!」
「…………」
その時。
「アルト君」
シオンの声。
「……!」
アルトが。
振り返らないまま。
答える。
「はい!」
「十分です」
「…………!」
「ありがとうございました」
「…………」
アルトが。
ニッと笑う。
「やっとか!」
「…………」
ライの笑みが。
消えた。
シオンの周囲。
霊素が。
集まり始めている。
「…………」
大量の。
霊素。
それが。
《穿雫》へ。
集まっていく。
「……なんだ?」
集まる。
さらに。
集まる。
だが。
大きくならない。
逆。
小さく。
小さく。
圧縮されていく。
「…………」
空気が。
震える。
「兄弟」
「なんだよ」
「どけ」
「嫌だね」
「…………」
「ここまで時間稼いだんだ」
アルトが。
《砕》を。
両手で握る。
「最後まで付き合う!」
「ハッ!」
ライが。
身体を沈めた。
「だったら――」
バヂィッ!
今までより。
激しい雷。
「まとめてぶっ飛ばす!」
「来い!」
ライが。
消えた。
「…………」
シオンの瞳。
幾重もの。
残映。
一つ。
二つ。
三つ。
過去のライが。
同時に動き出す。
右。
左。
正面。
急停止。
再加速。
邪魔された時。
最短距離を。
選ぶ。
「…………」
そして。
アルトが。
正面を塞いでいる。
なら。
「アルト君」
「はい!」
「三歩、右へ」
「……!」
アルトは。
理由を聞かない。
一歩。
二歩。
三歩。
右へ。
バヂッ!
「なっ!?」
直後。
アルトがいた場所へ。
ライが現れた。
「…………!」
「チッ!」
ライが。
さらに加速する。
「次」
シオンの瞳が。
残映を追う。
「左へ二歩」
「おう!」
一歩。
二歩。
バヂッ!
カタールが。
空を切る。
「……!」
ライの顔から。
完全に。
笑みが消えた。
「こいつ……!」
「違います」
「……あ?」
シオンが。
静かに。
《穿雫》を構える。
「あなたが速いことは」
霊素が。
さらに。
圧縮される。
「もう分かっています」
「…………」
「ですから」
シオンの視線が。
ライから。
外れた。
「あなたを狙うのは」
誰もいない。
空間。
そこへ。
《穿雫》を向ける。
「やめました」
「…………!」
ライが。
地面を蹴る。
バヂッ!
「シオンさん!」
「大丈夫です」
右。
違う。
左。
違う。
一度。
距離を取る。
そこから。
加速。
そして。
攻撃へ移る直前。
必ず。
「…………」
ここ。
シオンの指が。
静かに。
引き金へ。
「…………!」
バヂッ!
雷が。
走った。
そして。
何もなかった。
その場所へ。
ライが。
飛び込んだ。
「――っ!?」
目の前。
《穿雫》。
「…………」
シオンと。
目が合う。
「捕まえました」
「……マジかよ」
極限まで。
圧縮された。
霊素。
「――《残刻の水穿》」
刹那。
一条の閃光が。
森を。
貫いた。




