過去を観る
◇ ◇ ◇
――その頃。
少し離れた森では。
バヂッ!
「……っ!」
青白い雷が。
木々の間を駆け抜ける。
「アルト君!」
「分かってる!」
狙いは。
自分じゃない。
その先。
《残映》を使う。
シオン。
「行かせるか!」
アルトが。
その間へ。
飛び込んだ。
ギィンッ!
「ぐっ!」
二本のカタールを。
《砕》で受け止める。
「邪魔!」
「するに決まってんだろ!」
右。
ギンッ!
左。
ギィンッ!
「くっ……!」
速い。
受ける。
流す。
《砕》の柄を滑らせ。
カタールの軌道を逸らす。
「へぇ」
「……!」
下。
蹴り。
アルトが。
《砕》を横へ構える。
ドンッ!
「ぐぅっ!」
身体ごと。
後ろへ押し込まれる。
靴底が。
地面を削る。
「…………」
それでも。
倒れない。
「この!」
アルトが。
《砕》を振り抜く。
ゴッ!
ライの肩へ。
直撃。
「…………」
「…………」
手応えは。
あった。
だが。
ライは。
微動だにしない。
「やっぱ効かねぇか!」
「だから言ってんだろ!」
「分かってても腹立つ!」
「知らねぇよ!」
ライが。
アルトの横を。
抜ける。
「……!」
速い。
追いつけない。
なら。
「させるか!」
「お?」
ガシッ!
「…………?」
アルトが。
後ろから。
ライの腰へ。
しがみついた。
「おい」
「行かせねぇ!」
「…………」
「…………」
「兄弟」
「なんだよ!」
「戦い方ダサくなってね?」
「うるせぇ!」
「ハハハ!」
バヂッ!
「うおっ!?」
青白い雷が。
弾ける。
ドンッ!
「ぐっ!」
アルトの身体が。
吹き飛ばされた。
地面を。
何度も転がる。
「アルト君!」
「大丈夫!」
《砕》を。
地面へ突き。
すぐに。
立ち上がる。
「…………」
痛い。
腕も。
痺れている。
それでも。
まだ動ける。
「…………」
ライが。
そんなアルトを見ている。
「なんだよ」
「いや」
二本のカタールを。
くるりと回す。
「兄弟、見た目が凶悪な癖に」
「あ?」
「意外と細けぇことできんだな」
「見た目が凶悪って失礼だな!」
「いや」
ライが。
アルトを。
上から下まで見る。
「どう見ても凶悪だろ」
「どこがだよ!」
「全部」
「全部!?」
「アルト君!」
「あっ、はい!」
「来ます!」
「先に言ってよ!」
「ハハッ!」
「お前は笑うな!」
バヂッ!
消える。
「……!」
アルトが。
《砕》を構える。
「右です!」
「おう!」
ギィンッ!
「ぐっ!」
右から。
一撃。
「次、左!」
「っ!」
ギンッ!
左。
「後ろです!」
「忙しいな!」
振り向く。
間に合わない。
「もらい!」
「……っ!」
咄嗟に。
身体を沈める。
ヒュンッ!
カタールが。
髪を掠める。
「危なっ!」
「チッ!」
「今!」
アルトが。
ライの腕へ。
《砕》を引っ掛ける。
「あ?」
「おらぁ!」
そのまま。
身体ごと。
引っ張った。
「うおっ!?」
ライの体勢が。
僅かに崩れる。
「シオンさん!」
「…………」
返事はない。
「シオンさん!?」
「集中してるから呼んでも無駄だろ!」
「お前が答えるな!」
「ハハハ!」
「くそっ!」
アルトが。
ライの腕を。
離さない。
「いい加減――」
ライの身体から。
雷が弾ける。
「離れろ!」
バヂッ!
「ぐぁっ!」
吹き飛ぶ。
だが。
「…………」
その間も。
シオンは。
動いていない。
《穿雫》を。
静かに構え。
戦場を。
見つめている。
「――《残映》」
淡い霊素が。
周囲へ広がる。
踏み荒らされた地面。
折れた草。
抉れた土。
焦げた木。
カタールが。
刻んだ傷。
そこに残る。
痕跡。
「…………」
シオンの瞳に。
一人。
また一人。
ライの姿が。
浮かび上がる。
全て。
過去。
右から。
シオンを狙った時。
アルトに阻まれ。
左へ。
次。
正面。
《砕》に進路を塞がれ。
一度後退。
そして。
再び。
右。
「…………」
一つ。
また一つ。
積み上がる。
速さでは。
追えない。
なら。
追う必要はない。
どこから来た。
どこへ逃げた。
邪魔された時。
どちらを選んだ。
何歩目で加速した。
攻撃する直前。
どちらの脚へ。
力を込めた。
「…………」
全て。
過去が。
教えてくれる。
「おらぁ!」
「ぐっ!」
ギィンッ!
アルトが。
カタールを受ける。
ギンッ!
もう一撃。
「くそっ!」
受ける。
流す。
逸らす。
ギィンッ!
「……!」
少しでも。
シオンへ。
行こうとすれば。
「行かせねぇ!」
《砕》を。
横から叩きつける。
ゴッ!
「…………」
ライの脇腹へ。
直撃。
だが。
「効かねぇって!」
「知ってる!」
「じゃあ殴んな!」
「邪魔できればいいんだよ!」
「うぜぇ!」
「褒め言葉!」
「褒めてねぇ!」
ライが。
拳を振るう。
「……!」
アルトが。
《砕》を立てる。
ドンッ!
「ぐぅっ!」
吹き飛ぶ。
それでも。
倒れながら。
ライの脚へ。
手を伸ばす。
ガシッ!
「あ?」
「捕まえた!」
「お前マジでしつけぇな!」
「時間稼ぎだからな!」
「また言ってるぞ!」
「……しまった!」
「ハハハ!」
ライが。
アルトの手を振り払う。
「…………」
その一つ一つを。
シオンが。
見ている。
違う。
記憶している。
積み重ねている。
「…………」
アルトが邪魔をした時。
ライは。
最短で突破しようとする。
攻撃を受けても。
避けない。
自分には効かないと。
分かっているから。
だからこそ。
動きに。
偏りが生まれる。
「…………」
シオンの瞳に。
幾重もの残映が。
重なる。
「…………」
もう少し。
「アルト君!」
「はい!」
「あと少しだけ――」
シオンが。
過去を。
見つめる。
「時間をください!」
「任せて!」
アルトが。
《砕》を。
握り直す。
「…………」
その時。
ふと。
視線が。
ライの身体へ向いた。
青白い雷。
「…………」
さっきから。
何度も使っている。
術。
けれど。
霊器は。
出していない。
「……やっぱり」
「あ?」
「お前も……」
アルトが。
息を整える。
「リヒトと同じなんだな」
「…………」
ライの笑みが。
僅かに止まる。
「霊器も出してないのに」
《砕》を。
構える。
「当たり前みたいに術を使う」
「…………」
セリオが。
言っていた。
格の違い。
けれど。
違う。
これは。
もっと。
根本的な。
何か。
「…………」
バルガスから。
聞いた話が。
頭を過ぎる。
魔力を。
使い果たしても。
術を使い続けた。
その果てに。
精霊に。
心を喰われた者。
「…………」
アルトが。
ライを見据える。
「これが……」
「あ?」
「人喰らい……?」
「…………」
一瞬。
静かになる。
「へぇ」
ライが。
口元を上げた。
「兄弟」
「……?」
「そこまで知ってんのか」
「…………」
「誰に聞いた?」
「教えない」
「ハハッ!」
二本のカタールを。
構える。
「じゃあ――」
青白い雷が。
激しく弾ける。
「聞き出す!」
バヂッ!
「……!」
アルトも。
《砕》を構えた。
「来い!」
「…………」
その後ろ。
シオンの瞳には。
無数の。
ライが映っている。
右。
左。
正面。
背後。
急停止。
再加速。
回避。
攻撃。
その全てが。
一つずつ。
繋がっていく。
「…………」
そして。
シオンの視線が。
ゆっくりと。
一点へ。
向き始めた。




