絆
リヒトは。
荒い呼吸を繰り返している。
「はぁ……はぁ……」
「…………」
ヒルトが。
僅かに視線を動かす。
「ルールーさん!」
「は、はい!」
「向こうにゼンが倒れています! 安全なところへ!」
「ゼン君が……?」
「そのさらに奥で、シオン隊長とアルトが敵と交戦中です!」
「……!」
「敵は高速で接近して攻撃してきます! それと――」
ヒルトが。
リヒトから目を離さないまま。
続ける。
「霊素を纏った攻撃じゃないと効きません!」
「霊素を……」
「アルトも一緒です!」
「…………!」
ルールーの表情が変わる。
「アルトがいる以上、霊器を使っての戦闘が必須です!」
「…………」
ルールーが。
腕の中を見る。
「ヒ、ヒルト君は……」
「…………」
「一人で戦うつもりですか……?」
「…………」
僅かな。
沈黙。
「……フィリアを頼みます」
「…………!」
「ヒ……ル……」
弱々しい。
フィリアの声。
「…………」
ヒルトは。
振り返らない。
「大丈夫」
「…………」
「今度はちゃんと」
二丁の《ツインコード》を。
握り直す。
「僕が追いかけるから」
「…………」
ルールーは。
その背中を。
じっと見つめる。
そして。
フィリアを。
しっかりと抱き直した。
「……分かりました」
「…………?」
「シオン隊長副官――」
ルールー・マリシャ。
「全身全霊をもって、フィリアちゃんを護ります」
「…………」
いつもの。
少し気弱な声ではなかった。
「だから」
ヒルトを。
真っ直ぐ見る。
「あなたも絶対に、生きて帰ってきてください」
「…………」
「私も、すぐに救援に戻ります!」
「…………」
ヒルトの口元が。
僅かに緩む。
「ほっんとに救援頼みます!」
「はい!」
ルールーが。
フィリアを抱いたまま。
走り出す。
「…………」
その背中を。
追うことはない。
ヒルトの視線は。
ただ一人へ。
「……はぁ……はぁ……」
リヒト。
「…………」
ヒルトが。
二丁の銃を。
くるりと回す。
「さぁ」
銃口を。
兄へ向ける。
「くそ兄貴」
ニッと。
笑った。
「待たせたね」
「…………っ!」
リヒトが。
腕を振るう。
パキキキッ!
空中に。
幾本もの氷槍が生まれる。
「……死ね!」
ヒュヒュヒュンッ!
「おっと!」
ヒルトが。
横へ跳ぶ。
一本。
二本。
三本。
氷槍が。
次々と地面へ突き刺さる。
「ははは!」
「…………!」
「外してやんの!」
リヒトの眉が。
僅かに動く。
「……黙れっ!」
パキッ!
「……!」
さらに。
氷槍。
ヒルトが。
身体を捻る。
ヒュンッ!
「うわっ!」
頬のすぐ横を。
氷槍が抜ける。
「危なっ!」
着地。
同時に。
二丁を構える。
「でも――」
左の《ツインコード》。
銃身を走る。
二本の溝。
一方へ。
《拘束》。
もう一方へ。
《分裂》。
二つの光が。
銃口へ向かい。
交わる。
「今度はこっちの番だ!」
カチッ。
二重の環が。
光る。
「――《蜘蛛檻》!」
パンッ!
「……!」
リヒトが。
横へ跳ぶ。
弾丸が。
目の前を抜ける。
「…………」
外れた。
そう見えた。
次の瞬間。
パァンッ!
「……っ!」
霊素弾が。
弾ける。
無数の糸。
リヒトの周囲へ。
一気に広がった。
「チッ……!」
《薄氷》が。
閃く。
ザンッ!
霊素の糸が。
切り裂かれる。
「こんなもの……!」
「知ってる!」
「……!」
右の《ツインコード》。
既に。
二本の光が。
走っている。
《分裂》。
《軌跡》。
二つが。
交わる。
銃口に。
新たな術式が浮かぶ。
「――《乱星》!」
パンッ!
一発。
放たれた。
霊素弾。
それが。
空中で。
弾ける。
一つが。
二つ。
二つが。
四つ。
四つが。
さらに分かれる。
「…………!」
散った弾丸が。
それぞれ。
異なる軌跡を描く。
正面。
右。
左。
頭上。
そして。
背後。
「……!」
まるで。
乱れ飛ぶ星々。
無数の霊素弾が。
一斉に。
リヒトへ殺到する。
パンッ!
パンッ!
ドドドドッ!
「ぐっ……!」
《薄氷》が。
振るわれる。
ギィン!
ギンッ!
弾丸が。
次々と弾かれる。
だが。
全ては。
落としきれない。
ドンッ!
「ぐっ!」
一発。
肩へ。
もう一発。
脇腹へ。
「…………っ!」
地面が抉れ。
土煙が。
舞い上がる。
「…………」
ヒルトは。
銃口を下げない。
「…………」
静寂。
その奥。
「……舐めるな」
「…………」
ブワッ!
冷気が。
土煙を吹き飛ばした。
「……!」
リヒトが。
立っている。
肩で。
荒く息をしながら。
「はぁ……はぁ……」
それでも。
《薄氷》を。
握っている。
「舐めてないよ?」
「…………」
ヒルトが。
右の《ツインコード》を上げる。
「だから――」
《拘束》。
《強化》。
二本の光が。
交わる。
左も。
同じ。
《拘束》。
《強化》。
二丁の銃口に。
同じ術式が。
浮かび上がる。
「…………!」
リヒトが。
地面を蹴る。
「遅い!」
パンッ!
パンッ!
二発。
左右へ。
「…………?」
リヒトには。
当たらない。
その両脇。
地面へ。
霊素弾が撃ち込まれる。
カチッ。
「……っ!?」
右。
左。
二つの術式が。
同時に展開する。
ギギッ!
「ぐっ……!」
見えない枷が。
リヒトの右腕へ。
左腕へ。
脚へ。
胴へ。
一気に。
絡みつく。
「こんな……ものっ!」
ギギギッ!
リヒトが。
力任せに。
引き千切ろうとする。
「…………」
一本なら。
破られる。
なら。
二本。
それでも。
足りないなら。
強く。
もっと。
強く。
「…………!」
二丁の《ツインコード》を。
ヒルトが。
同時に構える。
「――《絆重》」
ギィンッ!
「ぐっ……!」
二重の枷が。
重なる。
「ぐ……ぁぁ……!」
リヒトの身体が。
沈む。
片膝が。
地面へ。
落ちた。
「…………!」
ヒルトが。
二つの銃口を。
兄へ向ける。
「舐めてなんかないよ」
「…………」
リヒトを。
真っ直ぐ。
見据える。
「僕はずっと――」
カチッ。
二丁の《ツインコード》が。
静かに鳴る。
「兄さんを連れて帰るつもりで」
「…………」
「戦ってる」




