兄さんを
ドクン。
「……?」
右手。
左手。
二丁の銃身を。
淡い光が走る。
「なに……これ……」
ヒルトが。
目を見開く。
今まで。
何度も握ってきた。
自分の霊器。
その姿が。
変わり始めていた。
銃身が。
僅かに伸びる。
細く。
鋭く。
余計な装飾を削ぎ落とすように。
白銀の輪郭が。
滑らかに形を変えていく。
そして。
銃身の表面。
一本。
もう一本。
二本の細い溝が。
銃口へ向かって伸びていく。
「…………」
右も。
左も。
同じ。
けれど。
刻まれた紋様だけが。
互いを映したように。
左右反対へ流れている。
「グォォォォ!」
「……っ!」
三頭の氷狼が。
迫る。
「今は……!」
考えている暇なんて。
ない。
ヒルトが。
右の《ツインコード》を。
先頭の一頭へ向ける。
「《強化》」
一本目の溝へ。
淡い霊素が走る。
「《衝撃》」
もう一本。
二本の光が。
銃身を走る。
「…………?」
いつもなら。
これで終わり。
二つの術式を。
一発へ重ねる。
ただ。
それだけだった。
だが。
今は。
二本の光が。
銃口へ近づくほど。
互いへ。
寄っていく。
「……!」
《強化》。
《衝撃》。
二つの術式が。
混ざっている。
いや。
違う。
「これ……」
二つだったものが。
一つへ。
変わっていく。
銃口を囲む。
二重の環。
内側。
外側。
それぞれが。
淡く輝く。
そして。
銃口の中央。
小さな術式紋が。
浮かび上がった。
「…………!」
知らない。
こんな術式。
一度も。
使ったことなんてない。
なのに。
分かる。
名前が。
自然と。
頭へ浮かぶ。
「――《破城》」
ドンッ!
今までとは違う。
重い銃声。
霊素弾が。
一直線に。
氷狼へ飛ぶ。
ズドォンッ!
「――!」
額。
一点。
そこから。
凄まじい衝撃が。
全身へ駆け抜ける。
パキッ。
パキパキパキ――!
バギィンッ!
一頭の氷狼が。
砕け散った。
「…………」
ヒルトが。
目を見開く。
「今の……」
《強化》じゃない。
《衝撃》でもない。
二つを。
同時に使ったものとも。
違う。
「二つから……」
「グォォォォ!」
「……!」
残り二頭。
止まらない。
「ヒルト君!」
ルールーの声。
「…………!」
二頭。
まとめて。
止める。
ヒルトが。
今度は。
左の《ツインコード》を向ける。
「《拘束》」
一つ目。
銃身の溝が。
淡く光る。
「《分裂》」
二つ目。
もう一本へ。
光が走る。
「…………」
二本の光が。
絡み合うように。
銃口へ。
集まっていく。
カチッ。
二重の環が。
同時に輝く。
だが。
今度は。
先ほどとは違う。
銃口の中央に。
細い線が。
何本も。
交差する。
まるで。
網。
「…………」
また。
分かる。
「――《蜘蛛檻》」
パンッ!
一発。
霊素弾が。
二頭の間へ飛ぶ。
そして。
パァンッ!
弾けた。
「グォッ!?」
無数の。
細い霊素。
糸のように。
広がる。
一頭の。
前脚。
首。
胴。
もう一頭の。
後ろ脚。
腹。
欠けた尾。
次々と。
絡みついていく。
さらに。
地面へ。
木々へ。
張り巡らされる。
「ガァァァッ!」
二頭が。
暴れる。
ブチッ!
一本。
千切れた。
だが。
動けば。
別の糸が。
絡みつく。
また。
一本。
さらに。
一本。
「グォォォォ!」
「…………!」
氷狼の爪が。
フィリアの。
目の前で。
止まった。
「…………」
ルールーが。
息を呑む。
「ヒルト君……」
「…………」
フィリアも。
ヒルトを。
見つめている。
「…………」
ヒルト自身。
何が起きたのか。
まだ。
理解しきれていない。
ゆっくり。
二丁の《ツインコード》へ。
目を落とす。
白銀の銃身。
そこを走る。
二本の溝。
先ほどまで。
別々に光っていたはずのそれらは。
今。
一本の光となって。
銃口へ繋がっている。
「…………」
右。
《強化》。
《衝撃》。
それが。
《破城》へ。
左。
《拘束》。
《分裂》。
それが。
《蜘蛛檻》へ。
「……違う」
ヒルトが。
小さく呟く。
「重ねるんじゃない……」
今まで。
自分がしていたこと。
二つの術式を。
一つの弾丸へ。
乗せる。
でも。
こいつは。
違う。
「掛け合わせるんだ……」
カチッ。
右。
カチッ。
左。
二丁の《ツインコード》が。
応えるように。
音を鳴らした。
「二つの術式から……」
ヒルトが。
顔を上げる。
「一つの……新しい術式を作る」
「…………」
その先。
リヒトが。
立っている。
「…………っ」
砕かれた。
一頭。
捕らえられた。
二頭。
それらを。
呆然と。
見つめていた。
「…………」
ヒルトが。
二丁の《ツインコード》を。
ゆっくりと。
兄へ向ける。
「兄さん」
「…………」
「僕は……」
声が。
僅かに震える。
「兄さんを連れて帰りたい」
「…………っ」
「それは」
ヒルトが。
まっすぐ。
リヒトを見る。
「今も変わらない」
「…………」
「でも」
右の銃身へ。
一つ目の光。
左の銃身へ。
もう一つ。
「フィリアに手を出すなら――」
カチッ。
二丁の銃口を。
リヒトへ。
「今度は」
ヒルトの目から。
迷いが消える。
「僕が兄さんを止める」




