任務開始
三日後。
ガイスト軍事局の正門前には、朝から多数の兵が配置されていた。
普段よりも厳しい警戒。
門を通る者は一人ずつ身分を確認され、屋上や周辺の建物にも兵の姿が見える。
中央には、クロイツ隊の面々が並んでいた。
アルトは新たに受け取った魔器――《砕》を手にしている。
その前に立つアーヴェルが、全員を見渡した。
「これより、スパーナ防衛大臣と我が国軍事局長による会談の警護任務に就く。」
普段と変わらぬ低い声。
しかし、その場にいる誰一人として気を抜いてはいなかった。
「ヴォルグに不穏な動きがあるとの報告が入っている。」
「現時点で、会談を狙った具体的な情報はない。」
「だが、何も起こらないという保証もない。」
アーヴェルは護衛班へ視線を向けた。
「スミスマン。オーズィラ。」
「お前たちは私とともに、会談室周辺の警護にあたれ。」
「はい。」
レテが短く答える。
「了解。」
ログも真剣な表情で頷いた。
続いて、アーヴェルは警戒班へ目を移す。
「エルナー、リーベ、アルト。」
「三名は軍事局周辺の巡回警戒。」
「他部隊の兵と連携し、異変を発見した場合は直ちに報告しろ。」
「勝手な判断で持ち場を離れるな。」
「了解。」
ヒルトが短く答える。
「了解。」
フィリアも普段の気の抜けた様子を消し、真剣な表情で頷いた。
「分かった。」
最後にアルトが続く。
その返事を聞いたアーヴェルの目が、わずかに細くなった。
「特にアルト。」
「何だ?」
「敵を発見しても、まずエルナーかリーベへ伝えろ。」
「襲撃を受けた場合のみ、自衛を許可する。」
「倒していいんだな。」
「必要最低限に留めろ。」
アーヴェルの視線が、アルトの持つ《砕》へ落ちる。
「建物まで破壊するな。」
「気をつける。」
「気をつける、では足りない。」
ヒルトが小さく息を吐いた。
「僕が監視をします。」
その言葉に、アーヴェルはわずかに目を見開いた。
普段のヒルトなら、面倒事を避けようと一歩後ろへ下がる。
まして、自分から責任を引き受けるような言葉を口にすることは珍しい。
アーヴェルは一瞬だけヒルトを見つめたあと、すぐにいつもの表情へ戻った。
「……頼むぞ、エルナー。」
「了解しました。」
ヒルトは気の重そうな顔をしながらも、はっきりと頷いた。
その隣で、アルトが嬉しそうにヒルトの肩を叩く。
「頼りにしてるぞ、ヒルト!」
「痛い、痛い。任務が始まる前に壊さないで。」
アーヴェルは再び全員を見渡した。
「今回の護衛対象は、同盟国から訪れる国賓だ。」
「一つの失態が、両国の関係に影響する。」
「各自、自分の役割を忘れるな。」
その言葉に、場の空気がさらに引き締まった。
「配置につけ。」
アーヴェルの一言で、全員が一斉に動き出した。




