鉄杖 砕
大型武器の並ぶ区画には、先ほどまでとは比べものにならないほど無骨な魔器が並んでいた。
大剣。
戦斧。
大槌。
人の背丈を超える槍。
どれも、並の兵士では持ち上げるだけでも苦労しそうなものばかりだ。
「おお……。」
アルトは嬉しそうに一つ一つ眺めていく。
一方のヒルトは、ようやく腕を解放され、その場にしゃがみ込んでいた。
「本当に……自分で歩けるって言ったのに……。」
「ヒルト、これはどうだ?」
アルトが指差したのは、分厚い刃を持つ巨大な戦斧だった。
「それはやめた方がいいよ。」
「どうしてだ?」
「周辺警戒で振り回す武器じゃないから。」
「強そうだぞ。」
「建物の方が先に壊れるよ。」
アルトは少し残念そうに戦斧から離れた。
次に目を付けたのは、柄の先に巨大な鉄塊が付いた大槌だった。
「これは?」
「ログと役割が被るね。」
「焦げパンと同じか。」
「本人の前では言わない方がいいよ。」
ヒルトは立ち上がると、大型武器の棚を見渡した。
「アルトは力が強いから、重い武器を持つこと自体は問題なさそうだけど……。」
「警戒任務なら、狭い場所でも扱えて、周りを巻き込みにくい方がいい。」
「周りを巻き込むと駄目なのか?」
「駄目に決まってるでしょ。」
即答され、アルトは素直に頷いた。
「じゃあ、周りを壊さずに殴れるやつがいい。」
「殴るのは決定なんだね……。」
ヒルトは棚の端から端まで歩き、候補になりそうな魔器を探していく。
やがて、壁際に立て掛けられた一本の武器の前で足を止めた。
長さはアルトの肩ほど。
全体が鈍い灰色の金属で作られ、先端だけがわずかに太くなっている。
剣でも槍でもない。
大型の警棒にも似た、無骨な鉄杖だった。
「これならどうかな。」
ヒルトは両手で持ち上げようとする。
「……重っ。」
持ち上がったのは、ほんのわずかだった。
アルトは横から手を伸ばし、片手で軽々と鉄杖を持ち上げる。
「これ、いいな。」
「そう……よかった……。」
ヒルトは腰を押さえながら離れた。
アルトは握りを確かめるように、鉄杖をゆっくりと構える。
そのまま軽く振ると、先ほどの長棍よりも重い音が響いた。
空気が揺れ、近くの武器がかすかに震える。
「ちょっと待って。」
ヒルトが慌てて手を上げた。
「今の、本当に軽く振った?」
「ああ。」
「じゃあ、全力では振らないで。」
「どうしてだ?」
「魔器庫がなくなるかもしれないから。」
アルトは手の中の鉄杖を眺めた。
「丈夫そうだぞ。」
「心配してるのは武器じゃなくて建物の方。」
少し離れた場所にいた兵士も、激しく頷いていた。
アルトはもう一度、鉄杖の重さを確かめる。
「これにする。」
「決まり?」
「ああ。」
「一応、術式も確認しないとね。」
ヒルトは鉄杖の中央付近へ顔を近づけた。
金属の表面には、細かな文字と線が刻まれている。
「強度維持と衝撃分散。」
「それから、持ち手への反動を抑える術式が入ってる。」
「反動?」
「殴ったときに、手や腕へ返ってくる力を軽くしてくれる。」
「いらない。」
「いるよ。」
「痛くないぞ。」
「今はね。」
ヒルトは刻まれた術式をさらに目で追っていく。
「変な術式も入ってないし、扱いやすい方だと思う。」
「アルトが使うなら、これが一番無難かも。」
「無難なのか?」
兵士が思わず口を挟んだ。
ヒルトは少し考え、鉄杖を持つアルトを見る。
「この中では。」
兵士はそれ以上何も言わなかった。
アルトは鉄杖を見つめたまま、しばらく黙り込む。
「これ、名前はあるのか?」
「型式番号だけだよ。」
「固有の名前はない。」
「なら、俺が付ける。」
「別にいいけど。」
アルトは鉄杖を持ち上げ、じっと眺めた。
鈍い灰色の表面。
余計な装飾はなく、ただ壊すためだけに作られたような形。
やがて、アルトは満足そうに口を開いた。
「……砕。」
「さい?」
「ああ。」
「何でも砕けそうだからな。」
ヒルトは鉄杖とアルトを交互に見る。
「そのままだね。」
「分かりやすいだろ。」
アルトは嬉しそうに頷き、砕を肩へ担いだ。
次の瞬間。
柄の先が後ろの棚へ当たる。
ガシャン、と大きな音が響いた。
三本の槍が床へ倒れる。
ヒルトと兵士が、同時に顔を覆った。
「アルト。」
「何だ?」
「まずは持ち方から練習しようか。」
「使えるぞ。」
「持ち歩き方の話だよ。」
ヒルトは深く息を吐きながら、倒れた槍を拾い始めた。
アルトもしゃがみ込み、一本の槍を手に取る。
「これも持っていくか?」
「一つで十分!」
ヒルトの声が、魔器庫いっぱいに響き渡った。




