相棒を求めて
◇
「ここが魔器庫だ!」
重い扉を前にして、アルトが目を輝かせた。
「まだ入ってないよ……。」
その隣では、ここまで引きずられてきたヒルトが息を切らしている。
「早く開けよう。」
「鍵を持ってる人を待たないと開かないから。」
「壊したら入れるぞ。」
「絶対にやめて。」
ヒルトは即座にアルトの腕を掴んだ。
そのとき、廊下の奥から一人の兵士が歩いてくる。
「お待たせしました。」
兵士はヒルトへ軽く頭を下げると、腰から鍵を取り出した。
「エルナーさん。使用許可は確認できています。」
「助かります。」
兵士の視線が、その隣に立つアルトへ移る。
「そちらが例の青年ですか?」
「アルトだ。」
「そうですか。」
兵士はそれ以上何も尋ねず、扉の鍵を開けた。
重い音を立てながら、魔器庫の扉がゆっくりと開いていく。
その向こうには、壁一面に武器が並べられていた。
剣。
槍。
斧。
弓。
杖。
見慣れない形の武器まで、種類ごとに整然と収められている。
「おお……!」
アルトはすぐに魔器庫へ足を踏み入れ、楽しそうに周囲を見回した。
「たくさんあるな。」
「魔器は知ってるんだ?」
後を追ってきたヒルトが尋ねる。
「ああ。」
アルトは近くに並んでいた剣へ視線を向けた。
「術式が組み込まれた武器だろ。」
「うん。そこは分かってるみたいだね。」
ヒルトは棚から片手剣を一本取り出した。
「魔器には、武器を壊れにくくしたり、刃こぼれを防いだりする術式が、最初から組み込まれてる。」
「普通の武器より丈夫で、手入れも少なくて済む。」
ヒルトは剣の腹を指先で軽く叩いた。
「だから基本的には、精霊と契約していない人でも使える。」
「便利だな。」
「便利だけど、扱い方を間違えると危ないよ。」
「精霊術を無理に通そうとすると、組み込まれた術式と属性の力が干渉することがある。」
「干渉するとどうなる?」
「暴発する。」
「爆発するのか?」
「場合によってはね。」
アルトの目がわずかに輝く。
「面白そうだな。」
「面白くないよ。」
ヒルトは片手剣を元の場所へ戻した。
アルトは少し考えたあと、ヒルトの腰にある二丁の銃へ目を向ける。
「ヒルトは大丈夫なのか?」
「僕は無属性だから。」
ヒルトは腰の銃の柄へ手を置いた。
「属性を持たない魔力なら、魔器に組み込まれた術式を邪魔しにくい。」
「だから、他の精霊術師より魔器を扱いやすいんだ。」
「それで二つ持っているのか。」
「まあね。」
ヒルトは左右の銃へ視線を落とす。
「一つより二つの方が、単純に手数も増えるし。」
「四つ持てば、もっと強いぞ。」
「手が足りないよ。」
「足で持てばいい。」
「撃てないでしょ。」
ヒルトは小さくため息をついた。
「とにかく、今日はアルトに合う魔器を選ぶ。」
「勝手に持ち出したり、壊したりしないでね。」
「分かった。」
アルトは素直に頷いた。
その返事を聞き、ヒルトは少しだけ安心した様子で武器棚を見回す。
「普段は、どんな武器を使ってたの?」
「杖だ。」
「術を使うための?」
「殴るための。」
「……だと思った。」
アルトは両手を広げ、使っていた杖の長さを示した。
「これくらいだ。」
「それなら、長杖か棍が近いかな。」
ヒルトは棚の間を歩きながら、候補になりそうな魔器を探し始める。
「槍は使える?」
「使える。」
「剣は?」
「使える。」
「斧。」
「使える。」
「大槌。」
「使える。」
ヒルトの足が止まった。
ゆっくりとアルトを振り返る。
「……使えない武器はある?」
アルトは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「小さい武器は苦手だ。」
「短剣とか?」
「投げると、よく違う方に飛ぶ。」
「投げなければいいと思うけど。」
「当てた方が早い。」
「短剣を?」
「相手に。」
「それなら、最初から殴れる武器にしよう。」
ヒルトは再び棚の間を進み、やがて一本の長い魔器の前で立ち止まった。
黒い金属で作られた、飾り気のない長棍だった。
「これはどう?」
ヒルトは長棍を棚から持ち上げ、アルトへ差し出した。
アルトは片手で受け取ると、重さを確かめるように軽く振る。
鋭い風切り音が、魔器庫の中へ響いた。
近くに立っていた兵士が、反射的に一歩後ろへ下がる。
「軽い。」
「それでも、普通の人なら両手で扱う重さなんだけど……。」
アルトは持ち手を握り直し、何度か長棍を振った。
「悪くない。」
「じゃあ、それにする?」
「いや。」
アルトは長棍をヒルトへ返した。
「もっと重い方がいい。」
「もっと?」
「殴ったとき、ちゃんと手応えがあるやつ。」
ヒルトは返された長棍を抱えたまま、魔器庫の奥へ視線を向けた。
そこには、通常の棚には収まらない大型の武器がまとめて保管されている。
「……嫌な予感がする。」
「見に行こう!」
アルトはヒルトの腕を掴んだ。
「ちょっ、また!?」
「早く行くぞ!」
「だから、自分で歩くって!」
アルトはそのまま大型武器の並ぶ区画へ向かって歩き出す。
「今度こそ本当に自分で歩くからぁ!」
ヒルトの悲鳴が、魔器庫の奥へ響き渡った。




