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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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俺も混ざるっすよ!

 僅かに。


 首を傾げた。


「兄さん……?」


 ヒルトの声が。


 掠れる。


 聞こえていない。


 わけじゃない。


 リヒトの瞳は。


 確かに。


 ヒルトを映している。


 それなのに。


 そこには。


 懐かしさも。


 驚きも。


 何もない。


「僕だよ」


 一歩。


 ヒルトが近づく。


「ヒルトだ」


「…………」


「覚えてないの……?」


「…………」


 返事はない。


 ただ。


 知らない人間を見るように。


 リヒトは。


 ヒルトを見ている。


「…………っ」


 ヒルトが。


 《ツインコード》を握る手に。


 力を込めた。


 何年も。


 探していた。


 何度も。


 もう会えないんじゃないかと思った。


 それでも。


 諦めなかった。


 やっと。


 見つけたのに。


「兄貴!」


「……!」


 その声に。


 リヒトの瞳が。


 僅かに動いた。


「やっぱ兄貴だったじゃないっすか!」


 ライが。


 何の躊躇いもなく。


 リヒトへ近づいていく。


「…………」


 リヒトが。


 ライを見る。


「こんなとこで何してるんすか?」


「…………」


 返事はない。


 それでも。


 その視線は。


 確かに。


 ライへ向いている。


「…………」


 ヒルトが。


 その光景を見つめる。


 自分には。


 何の反応もなかった。


 なのに。


 ライには。


 反応した。


「つーか兄貴」


 ライが。


 リヒトの肩を見る。


「あれ?」


 血が。


 流れている。


「怪我してるじゃないっすか」


「…………」


「誰にやられたんすか?」


 リヒトの視線が。


 ゆっくりと。


 シオンへ向く。


「…………」


 ライも。


 その視線を追う。


「あいつっすか?」


「…………」


 返事はない。


「なるほど」


 ライが。


 ニッと笑う。


「じゃあ俺も混ざるっすよ!」


「待って!」


「あ?」


 ヒルトが。


 ライの肩を掴んだ。


「なんだよ?」


「…………」


 ヒルトが。


 眉を寄せる。


 さっきまで。


 自分達と戦っていた時とは。


 まるで違う。


 兄さんにだけ。


 妙に素直だ。


「君……」


「あ?」


「兄さんと……どういう関係なの?」


「どういうって」


 ライが。


 きょとんとする。


「兄貴と俺」


「それは見れば分かるよ!」


「じゃあ何聞いてんだよ」


「だから!」


 ヒルトが。


 珍しく。


 声を荒げる。


「どうして君が兄さんを兄貴って呼んでるのか聞いてるんだ!」


「ああ」


 ライが。


 あっさりと答える。


「負けたから」


「…………」


「…………」


「……え?」


「だから」


 ライが。


 リヒトを親指で示す。


「俺、兄貴に負けたんだよ」


「…………」


 ヒルトが。


 リヒトを見る。


 そして。


 ライを見る。


「それで……兄貴?」


「おう」


「…………」


「強ぇ奴は好きだからな!」


「そんな理由で僕の兄さんを兄貴って呼んでたの……?」


「いいだろ別に」


「よくないよ!」


「なんでだよ!」


「兄さんは僕の兄さんなんだよ!」


「知るかよ!」


「お前ら……」


 遅れてやって来たゼンが。


 肩で息をしながら。


 二人を見る。


「何の話してんだ……」


「こいつが勝手に兄さんを兄貴って!」


「勝手じゃねぇ!」


「勝手だよ!」


「だからなんなんだよ!」


「…………」


 アルトが。


 そんな三人を見ながら。


 僅かに頬を引きつらせる。


「なんか……大変ですね」


「ええ……」


 シオンも。


 《穿雫》を構えたまま。


 小さく息を吐いた。


 その時。


 パキッ――。


「……!」


 空気が。


 再び。


 冷える。


 地面を。


 青白い氷が走った。


「兄さん……」


「…………」


 リヒトが。


 《薄氷》を持ち上げている。


 その視線は。


 もう。


 ヒルトには向いていない。


 シオン。


 ただ一人を。


 見ていた。


「…………」


 シオンの表情が。


 変わる。


 《穿雫》を。


 構え直した。


「ヒルト君」


「……!」


「下がってください」


「待ってください」


「…………」


 ヒルトが。


 一歩。


 前へ出る。


「少しだけ……」


 《ツインコード》を。


 握り直す。


「僕にやらせてください」


「ヒルト君……」


「…………」


 ヒルトは。


 リヒトを見る。


 ずっと。


 探していた兄。


 やっと。


 会えた兄。


 なのに。


 自分を見ても。


 何もない。


「兄さんが……」


 カチッ。


 右の。


 撃鉄を起こす。


「本当に僕を忘れたのか」


 カチッ。


 左も。


「それとも……」


 ゆっくりと。


 二つの銃口を。


 リヒトへ向ける。


「まだどこかに」


 朦朧とした。


 兄の瞳を。


 真っ直ぐに見つめる。


「僕の知ってる兄さんが残ってるのか」


「…………」


 リヒトが。


 二振りの《薄氷》を。


 静かに構えた。


「僕が――」


 ヒルトの瞳から。


 迷いが消える。


「確かめる」

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