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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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260/475

兄さん

     ◇ ◇ ◇


 ギィンッ!


 《薄氷》と。


 《穿雫》が。


 激しくぶつかる。


「くっ……!」


 シオンの腕が。


 押し返される。


「…………」


 リヒトが。


 もう一振りの《薄氷》を。


 横薙ぎに振るう。


「っ!」


 シオンが。


 《穿雫》を引き。


 後ろへ跳んだ。


 ヒュンッ!


 刃が。


 鼻先を掠める。


 直後。


 パキパキパキ――!


「……!」


 振り抜かれた軌跡から。


 氷が広がった。


「シオンさん!」


「大丈夫です!」


 着地。


 すぐに。


 《穿雫》を構える。


 切っ先に。


 一滴。


「――《一滴穿》」


 ヒュッ!


 リヒトが。


 《薄氷》を振るう。


 キィン!


 一滴が。


 弾かれる。


「…………」


 そのまま。


 リヒトが踏み込む。


 右。


 左。


 右。


 ギィン!


 ガキン!


 ギィン!


「くっ……!」


 シオンが。


 《穿雫》で受ける。


 速い。


 何より。


 動きが読めない。


 剣術の型など。


 まるでない。


 ただ。


 二振りの《薄氷》を。


 思うまま。


 振り回している。


「…………」


 リヒトが。


 右を振り上げる。


「っ!」


 シオンが。


 受けようとした。


 その瞬間。


 左の《薄氷》が。


 低く走る。


「……!」


 咄嗟に。


 後ろへ跳ぶ。


 ザシュッ!


「くっ……!」


 服が裂ける。


 僅かに。


 血が飛んだ。


「シオンさん!」


「来ないでください!」


「でも!」


「アルト君の攻撃では――」


 シオンが。


 《薄氷》を受け流す。


「彼には届きません!」


「……っ!」


 アルトが。


 《砕》を握り締める。


 分かっている。


 だからこそ。


 何もできないことが。


 悔しい。


「…………」


 リヒトが。


 そんなアルトへ。


 視線を向けた。


「……気味が悪い」


「…………」


 その一瞬。


「こちらを見ている余裕が?」


「…………」


 《穿雫》の先。


 一滴。


「――《一滴穿》」


 ヒュッ!


「……!」


 リヒトが。


 顔を逸らす。


 だが。


 遅い。


 ザッ!


 肩を。


 一滴が貫いた。


「…………」


 血が。


 飛ぶ。


「入った!」


「…………」


 リヒトが。


 自分の肩を見る。


 穴が。


 開いている。


「…………」


 それでも。


 顔色一つ。


 変えない。


「やっぱり……」


 アルトが。


 その姿を見る。


「痛くないのか……?」


「…………」


 リヒトが。


 《薄氷》を持ち上げる。


 その時だった。


「兄貴ぃぃぃ!」


「…………?」


「え?」


 アルトが。


 振り返る。


「兄貴ー!」


 聞き覚えのある。


 やたらと大きな声。


「この声……」


 バヂッ!


 森の奥で。


 青白い雷が弾けた。


 次の瞬間。


「おお!」


 ドンッ!


 ライが。


 木々の間から。


 飛び出してきた。


「やっぱここにいた!」


「ライ!?」


 アルトが。


 目を丸くする。


「お?」


 ライも。


 アルトに気づいた。


「お前!」


「なんでここに!?」


「それこっちの台詞だ!」


「…………」


 ライが。


 アルトを見る。


 そして。


 ニッと笑った。


「久しぶりだな、兄弟!」


「兄弟じゃない!」


「…………」


 シオンが。


 困惑したまま。


 ライを見る。


「アルト君、お知り合いですか?」


「ヴォルグでちょっと……!」


「ちょっとじゃねぇだろ!」


「ちょっとだよ!」


「…………」


 リヒトだけが。


 何も言わない。


 ただ。


 ライを。


 ぼんやりと見ている。


「兄貴!」


 ライが。


 嬉しそうに。


 リヒトへ近づく。


「こんなとこにいたのかよ!」


「…………」


「つーか」


 ライが。


 肩の傷に気づく。


「あ?」


 笑顔が。


 消えた。


「兄貴」


 血。


 その先。


 《穿雫》を構えるシオン。


「…………」


 ライの目が。


 細くなる。


「お前がやった?」


「…………」


 シオンが。


 《穿雫》を構え直す。


「彼はガイスト国内で指名手配されています」


「あ?」


「抵抗するのであれば、貴方も――」


「待ってください!」


 アルトが。


 二人の間へ。


 声を飛ばす。


「ライ!」


「あ?」


「話を――」


「兄さん!」


「…………!」


 今度は。


 別の声。


 アルトが。


 目を見開く。


「……え?」


 森の奥。


 息を切らしながら。


 一人の青年が。


 立っていた。


「…………」


 蜂蜜色――ではない。


 見慣れた。


 ヒルトの姿。


「ヒルトさん?」


「…………」


 ヒルトは。


 答えない。


 アルトも。


 シオンも。


 ライも。


 見ていない。


 ただ。


 一人だけ。


「…………」


 青白い髪。


 朦朧とした瞳。


 血の流れる肩。


 そして。


 両手に握られた。


 氷晶を割ったような。


 歪な双剣。


「…………」


 ヒルトの呼吸が。


 止まった。


 ライの言葉が。


 頭を過ぎる。


『死んだ目してるぞ?』


『死んでんのかってくらい静かだ』


「…………」


 違う。


 こんな目じゃなかった。


 もっと。


 澄んだ。


 クリアな水色で。


 笑って。


 怒って。


 何かと世話を焼いてきて。


 うるさいくらい。


 自分のことを。


 気にかけてくる人だった。


「…………」


 なのに。


 目の前の男は。


「……兄さん?」


 声が。


 震えた。


「…………」


 リヒトの瞳が。


 ゆっくりと。


 ヒルトへ向く。


「…………」


「兄さん……」


 一歩。


 ヒルトが。


 前へ出る。


 その顔に。


 安堵と。


 戸惑いが。


 入り混じる。


「僕だよ」


「…………」


「ヒルトだ」


「…………」


 返事は。


 ない。


「兄さん……?」


 リヒトは。


 ただ。


 ヒルトを見ている。


 まるで。


 知らない人間を。


 見るように。


「…………」


 そして。


 僅かに。


 首を傾げた。

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