冷気の中へ
◇ ◇ ◇
――その頃。
「やってみろよ!」
バヂッ!
ライの全身から。
青白い雷が弾ける。
「……!」
ヒルトが。
《ツインコード》を構える。
「ゼン!」
「分かってる!」
ゼンが。
地面へ手を触れた。
次の瞬間。
「…………?」
ヒルトの指が。
止まった。
「……寒い?」
「は?」
ゼンが。
顔を上げる。
冷たい。
さっきまでとは。
明らかに違う。
急激に。
気温が下がっている。
「…………」
ヒルトが。
白い息を吐く。
「まさか……」
知っている。
この冷気。
身体が。
覚えている。
(兄さんが……)
ヒルトが。
森の向こうを見る。
(近くに来ている……?)
「…………」
その時。
「あれ?」
ライの声。
「…………?」
見ると。
さっきまで。
戦う気満々だったライが。
カタールを下ろしている。
そして。
ヒルトと同じ方向を。
見ていた。
「……兄貴?」
「…………!」
ヒルトの目が。
僅かに見開かれる。
「近くに来てんのか?」
「…………」
ヒルトが。
ライを見る。
以前。
聞いた。
こいつが。
兄貴と呼ぶ男。
名前を聞いても。
教えようとはしなかった。
けれど。
今。
同じ冷気に。
二人が反応した。
「…………」
ヒルトの眉が。
ゆっくりと寄る。
「君の……」
「あ?」
「さっきから言ってる兄貴って……」
ヒルトが。
確かめるように。
口にする。
「リヒト・エルナーのことか?」
「…………?」
ライが。
首を傾げた。
「誰だそれ?」
「…………は?」
「知らねぇ」
「いや……」
ヒルトが。
一瞬。
言葉に詰まる。
「君の兄貴は……氷を使う?」
「ああ」
「青白い髪?」
「ああ」
「瞳はクリアな水色で」
「…………」
「世話焼きで……うるさい」
「…………?」
ライが。
さらに。
首を傾げた。
「いや?」
「……え?」
「死んだ目してるぞ?」
「…………」
ヒルトが。
固まる。
「あと」
ライが。
少し考えて。
「死んでんのかってくらい静かだ」
「…………」
「…………」
「……誰の話してるの、君」
「兄貴だよ」
「僕の兄さんはそんな人じゃない!」
「じゃあ違う奴なんじゃねぇか?」
「でも氷を使って青白い髪なんだろ?」
「そうだって言ってんだろ」
「…………」
「…………」
「お前ら……」
ゼンが。
二人を交互に見る。
「今それやる必要あるか?」
「あるよ!」
「知らねぇよ!」
二人が。
同時に返す。
「…………」
ゼンが。
顔を引きつらせた。
その時。
パキ――。
「……!」
ヒルトが。
足元を見る。
草の先が。
白く染まっていく。
霜。
そして。
冷気は。
さらに強くなっている。
「…………」
ヒルトから。
表情が消えた。
やっぱり。
間違えない。
この冷たさだけは。
「……兄さんだ」
「あ?」
ヒルトが。
森の向こうを見る。
「これは……兄さんの氷だ」
「だから」
ライが。
カタールを腰へ戻す。
「兄貴だって言ってんだろ?」
「…………」
ヒルトが。
ライを見る。
分からない。
どうして。
この男が兄さんを知っている。
どうして。
兄さんの名前を知らない。
そして。
どうして。
自分の知っている兄とは。
まるで違う人物のように話す。
「…………」
聞きたいことが。
一気に増えた。
だが。
「おっ!」
ライが。
突然。
笑った。
「結構近ぇじゃん!」
「……待って!」
バヂッ!
雷が弾ける。
次の瞬間。
ライが。
森の中へ駆け出した。
「兄貴ー!」
「ちょっ……!」
ヒルトも。
反射的に走り出す。
「待て! 僕も行く!」
「おい!」
ゼンの声が。
背後から飛ぶ。
「勝手に戦い終わらせんな!」
「君も来て!」
「命令すんな!」
そう叫びながら。
ゼンも。
二人の後を追った。
「…………」
ヒルトが。
前を走るライを見る。
(兄さん……)
胸が。
嫌なほど。
速く鳴っている。
兄を見つけた。
ずっと。
探していた兄が。
すぐ近くにいる。
なのに。
ライの言葉が。
頭から離れない。
『死んだ目してるぞ?』
『死んでんのかってくらい静かだ』
「…………」
ヒルトが。
《ツインコード》を。
強く握った。
(兄さん……)
(今、どうなってるんだ……?)
白い息を吐きながら。
三人は。
冷気の中心へと。
走っていった。




