一滴穿
パキパキパキパキ――!
「アルト君!」
氷が。
爆発するように。
二人へ広がった。
「っ!」
アルトが。
地面を蹴る。
シオンも。
反対側へ跳んだ。
直後。
ドドドドッ!
無数の氷柱が。
地面を突き破る。
「――《水槍》!」
着地と同時。
シオンが。
《穿雫》を突き出した。
水の槍が。
一直線に。
リヒトへ飛ぶ。
「…………」
パキンッ!
リヒトが。
片手を上げる。
水槍が。
空中で凍りついた。
「――《水輪》!」
間髪入れず。
左右から。
二つの水輪が迫る。
パキッ!
一つが凍る。
もう一つを。
リヒトが。
僅かに身体を傾けて躱した。
「アルト君!」
「はい!」
その隙に。
アルトが。
一気に懐へ潜り込む。
「はぁっ!」
《砕》を。
横薙ぎに振り抜いた。
ドゴッ!
「…………」
やはり。
効かない。
「くっ……!」
分かっていた。
それでも。
構わない。
アルトが。
もう一歩。
踏み込む。
「こっちだ!」
《砕》を。
もう一度振るう。
「…………」
リヒトの視線が。
アルトへ向く。
「シオンさん!」
「ええ!」
アルトが。
横へ飛ぶ。
その瞬間。
入れ替わるように。
シオンが。
前へ出た。
「――《水槍》!」
水槍が。
リヒトへ迫る。
「…………」
パキンッ!
また。
凍らされる。
「…………」
シオンが。
僅かに目を細めた。
「通常の術では……」
《穿雫》を。
ゆっくりと引く。
「足りませんか」
「…………」
リヒトの足元から。
青白い霜が。
静かに広がる。
「なら――」
シオンが。
《穿雫》を構えた。
「こちらで」
「……?」
アルトが。
目を凝らす。
水が。
集まっている。
けれど。
今までとは違う。
大量の水ではない。
《穿雫》の。
切っ先。
そこに浮かんだのは。
たった。
一滴。
「…………」
小さな。
水滴。
それが。
震える。
小さく。
さらに。
小さく。
内へ。
内へ。
押し込まれていく。
キィィィ――。
「……!」
空気が。
甲高く鳴る。
アルトが。
思わず息を呑んだ。
たった一滴。
それだけなのに。
今までの術とは。
比べものにならないほど。
鋭い。
「…………」
リヒトの。
朦朧とした瞳が。
初めて。
その一滴を捉えた。
右手を。
シオンへ向ける。
パキンッ!
氷壁が。
瞬時に立ち上がった。
「――《一滴穿》」
シオンが。
《穿雫》を突き出す。
ヒュッ――。
「……!」
消えた。
アルトには。
そう見えた。
次の瞬間。
ピシッ――!
氷壁に。
小さな穴が開く。
「……!」
圧縮された。
たった一滴が。
氷壁を。
貫いた。
「…………!」
リヒトが。
咄嗟に顔を逸らす。
ヒュンッ!
頬を。
水滴が掠めた。
「…………」
一筋。
赤い血が。
流れ落ちる。
「当たった……!」
「…………」
リヒトが。
頬へ触れる。
指先についた。
血を見つめる。
「…………」
その瞳が。
ほんの僅かに。
シオンへ向いた。
「まだです」
《穿雫》の切っ先へ。
再び。
水が集まる。
「次は――」
一滴。
小さな水滴が。
震え始める。
「外しません」
「…………」
リヒトが。
ゆっくりと。
両手を伸ばした。
パキ――。
空気中に。
青白い氷晶が生まれる。
パキ。
パキパキ――。
結晶が。
重なり。
形を成していく。
そして。
リヒトの両手に。
二振りの剣が現れた。
「……霊器」
アルトが。
目を見開く。
「…………」
けれど。
普通の剣とは。
違う。
氷晶を。
無理やり割り。
残った破片を。
そのまま刃にしたような。
歪な双剣。
左右で。
形すら揃っていない。
「……それが」
シオンが。
《穿雫》を構えたまま。
目を細める。
「貴方の霊器ですか」
「…………」
リヒトは。
答えない。
右手に一振り。
左手に一振り。
歪な双剣を。
だらりと下げる。
「…………」
そして。
ぽつりと。
「――《薄氷》」
パキン――。
「っ……!」
青白い冷気が。
二振りの《薄氷》から。
一気に溢れ出した。
地面が。
凍る。
草が。
白く染まる。
木々に。
霜が走る。
「寒っ……!」
アルトが。
思わず腕で身体を抱く。
息を吐けば。
白く染まる。
さっきまでとは。
明らかに違う。
「アルト君」
シオンが。
《穿雫》を構え直した。
「もう少し離れていてください」
「……分かりました」
アルトが。
後ろへ下がる。
「…………」
シオンの。
《穿雫》の切っ先。
再び。
一滴の水が浮かぶ。
キィィィ――。
圧縮。
「――《一滴穿》」
ヒュッ――!
「…………」
同時に。
リヒトの右腕が。
動いた。
キィンッ!
「……!」
一瞬。
火花のように。
氷片が散る。
圧縮された水滴が。
軌道を逸らされ。
背後の木を。
貫いた。
「……弾いた?」
シオンが。
僅かに目を見開く。
「…………」
リヒトは。
何も答えない。
右の《薄氷》を。
ゆっくりと戻す。
「…………」
そして。
左足を。
一歩。
前へ。
ザッ――。
「……!」
次の瞬間。
リヒトが。
シオンの目の前にいた。
「速――」
ギィンッ!
《薄氷》と。
《穿雫》が。
激しくぶつかった。




