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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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人喰らい

「連れてきた?」


「……何のことだ?」


 アルトが。


 眉を寄せる。


 男は。


 答えない。


 ただ。


 アルトと。


 その隣にいる何かを。


 交互に見て。


 笑っている。


「…………」


 その笑顔が。


 気味悪い。


 先ほどまで。


 何を考えているのかすら分からない。


 朦朧とした目をしていたのに。


 今だけは。


 何かを見つけたように。


 笑っている。


「アルト君」


 シオンが。


 静かに前へ出た。


「下がってください」


「……はい」


 アルトが。


 一歩下がる。


「…………」


 シオンは。


 男から目を逸らさない。


 青白い髪。


 朦朧とした瞳。


 そして。


 歩いた場所を。


 次々と凍らせていく冷気。


「…………」


 シオンの表情が。


 僅かに険しくなった。


「貴方は――」


 《穿雫》の切っ先を。


 真っ直ぐ男へ向ける。


「リヒト・エルナーですね」


「…………」


 男の笑みが。


 消えた。


「……リヒト?」


 アルトが。


 小さく呟く。


 エルナー。


 その姓には。


 聞き覚えがある。


(ヒルトと……同じ……?)


 アルトが。


 改めて男の顔を見る。


 似ている。


 どこか。


 ヒルトの面影がある。


「ガイスト国内で指名手配されています」


 シオンの周囲に。


 水が集まり始める。


「よって――」


 《穿雫》を構える。


「貴方を拘束します」


「…………」


 男は。


 答えない。


 逃げる様子も。


 構える様子もない。


 ただ。


 ぽつり。


「……リヒト……」


 自分の名を。


 確かめるように。


 呟いた。


「…………」


 そして。


 俯く。


「……?」


 アルトが。


 僅かに眉を寄せる。


「…………ふ」


 男の口元が。


 ゆっくりと。


 吊り上がった。


「……!」


 朦朧としていた瞳が。


 歪む。


 嬉しいのか。


 悲しいのか。


 何を思っているのか。


 分からない。


 ただ。


 壊れてしまったような。


 狂気じみた笑顔。


「……美味かったなぁ……」


「…………!」


 アルトの背筋を。


 ぞくりと。


 冷たいものが走った。


 何が。


 美味かったのか。


 分からない。


 けれど。


 聞いてはいけない言葉を。


 聞いてしまったような。


 嫌な感覚だけが。


 胸の奥に残った。


「アルト君」


「……はい」


「離れていてください」


 シオンの声が。


 低くなる。


「私が拘束します」


「…………」


 リヒトが。


 ゆっくりと。


 顔を上げる。


 笑みは。


 もう消えていた。


「――《水蛇》!」


 シオンが。


 先に動く。


 《穿雫》を振るった。


 水が。


 地面を這う。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 蛇のようにうねりながら。


 リヒトへ襲いかかる。


「…………」


 リヒトは。


 動かない。


 水蛇が。


 左右から迫る。


 その瞬間。


 パキンッ!


「……!」


 水が。


 凍った。


 空中で。


 形を保ったまま。


 青白い氷へ変わる。


「……凍らせた?」


「――《水槍》!」


 シオンは。


 止まらない。


 《穿雫》を突き出す。


 一本。


 二本。


 三本。


 鋭い水の槍が。


 次々と放たれる。


「…………」


 リヒトが。


 片手を上げる。


 パキッ!


 一つ目が。


 凍る。


 パキンッ!


 二つ目も。


 空中で凍りつく。


 そして。


 三つ目。


「…………」


 リヒトが。


 僅かに首を傾けた。


 ヒュンッ!


 水槍が。


 頬の横を通り過ぎる。


「…………」


 アルトは。


 その戦いを。


 じっと見つめていた。


(なんで……?)


 何かが。


 おかしい。


 リヒトは。


 霊器を出していない。


 それなのに。


 当たり前のように。


 術を使っている。


(霊器も出してないのに……)


(なんで術が使えるんだ?)


 ふと。


 セリオの言葉が。


 頭を過ぎった。


(格の違い……?)


 精霊術師としての。


 格。


 それが。


 圧倒的に違えば。


 霊器に頼らずとも。


 術を扱える。


(じゃあ……)


 この男も。


 そうなのか。


「…………」


 けれど。


 アルトは。


 リヒトを見つめたまま。


 眉を寄せる。


(いや……)


 何か。


 違う。


 そんな気がする。


 強いとか。


 弱いとか。


 そういうことじゃない。


 もっと。


 根本的に。


 何かが違う。


「…………」


 その時。


 アルトの頭に。


 バルガスから聞いた話が。


 浮かんだ。


 体内の魔力を。


 使い果たしても。


 なお。


 術を使い続けた者。


 その果てに。


 契約精霊に。


 心を喰われた者。


「…………!」


 アルトの目が。


 僅かに見開かれる。


(まさか……)


 青白い髪。


 霊器もなく。


 氷を操る男。


(これが……)


 アルトが。


 息を呑む。


(人喰らい……?)


「――《水輪》!」


 シオンが。


 《穿雫》を振り抜く。


 左右から。


 二つの水輪が。


 リヒトへ迫る。


「…………」


 リヒトの足元から。


 青白い霜が。


 一気に広がった。


 パキパキパキパキ――!


「……!」


 二つの水輪が。


 同時に。


 凍りつく。


 そして。


 リヒトが。


 ゆっくりと。


 シオンへ手を向けた。


 パキン――!


「シオンさん!」


 地面を突き破り。


 巨大な氷柱が。


 シオンへ襲いかかった。

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