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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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255/473

何を連れてきた

          ◇


 パキン――。


 二人の間で。


 地面が凍りついた。


「…………」


 男は。


 アルトを見つめていた。


 青白い髪。


 朦朧とした瞳。


 けれど。


 その奥にだけ。


 はっきりと。


 嫌悪が浮かんでいる。


「……気味が悪い」


「……?」


 アルトが眉を寄せる。


 男――リヒトは。


 ゆっくりと右手を上げた。


「アルト君!」


 シオンが前へ出る。


「……死ね」


 パキパキパキパキ――!


「っ!」


 青白い氷が。


 地面を一気に走った。


「避けてください!」


「はい!」


 二人が左右へ飛ぶ。


 直後。


 ドドドドッ!


 地面から。


 無数の氷柱が突き上がった。


「うわっ!」


 アルトが地面を転がる。


 顔を上げる。


「いきなり何なんですか!」


「…………」


 返事はない。


 リヒトは。


 ただ。


 アルトを見る。


 その右手が。


 また上がる。


「来ます!」


 シオンが《穿雫》を構える。


 次の瞬間。


 ヒュンッ!


「……!」


 巨大な氷の刃が。


 横薙ぎに飛んできた。


「っ!」


 シオンが前へ出る。


 《穿雫》を振るう。


 ガキィン!


「くっ……!」


 重い。


 受け止めた腕が。


 大きく震える。


 そして。


 パキッ――。


「……!」


 《穿雫》の表面に。


 白い霜が広がった。


「シオンさん!」


「大丈夫です!」


 シオンが。


 力任せに氷の刃を弾き返す。


 だが。


「…………」


 リヒトは。


 もうそこにはいない。


「……え?」


 アルトが目を見開く。


「後ろです!」


「っ!」


 振り返る。


 遅い。


 リヒトが。


 すでに目の前にいた。


「――!」


 アルトが武器を振るう。


 ガンッ!


「……!」


 止められた。


 リヒトの左腕。


 その表面を覆った。


 青白い氷。


 それだけで。


 アルトの一撃を。


 完全に受け止めている。


「硬っ……!」


「…………」


 リヒトは。


 何も言わない。


 そのまま。


 右手を伸ばす。


「……!」


 アルトが身を引く。


 指先が。


 頬を掠めた。


 瞬間。


 パキッ――。


「冷たっ……!」


 頬に。


 薄い霜。


「アルト君!」


 シオンが。


 横から踏み込む。


「はぁっ!」


 《穿雫》を突き出す。


「…………」


 リヒトが。


 僅かに顔を向ける。


 それだけ。


 次の瞬間。


 パキィン!


「っ!?」


 地面から。


 氷の壁が突き上がった。


 《穿雫》の穂先が。


 氷へ突き刺さる。


「くっ……!」


「シオンさん!」


 アルトが。


 リヒトへ向かって走る。


「こっちです!」


「…………」


 リヒトの視線が。


 アルトへ戻る。


「……っ!」


 アルトが踏み込む。


 一撃。


 リヒトが避ける。


 二撃。


 氷を纏った腕で受ける。


 三撃目。


「はぁっ!」


 渾身の一撃。


 ガァン!


「……!」


 リヒトの身体が。


 僅かに後ろへ滑った。


「入った……!」


「…………」


 だが。


 リヒトは。


 何事もなかったように顔を上げる。


「……え」


 アルトの表情が固まった。


 リヒトの右手が。


 腹へ。


「――っ!」


 ドゴッ!


「がっ!」


 重い一撃。


 アルトの身体が。


 くの字に折れる。


「アルト君!」


 シオンが叫ぶ。


「…………」


 リヒトは。


 そのまま。


 アルトの顔を掴んだ。


「ぐっ……!」


 指先から。


 冷気。


 パキッ。


 アルトの髪に。


 霜がつく。


「……っ」


 冷たい。


 頭の奥まで。


 凍らされるような。


 痛み。


「離してください!」


 シオンが。


 氷壁を砕き。


 駆ける。


 リヒトは。


 反応しない。


 ただ。


 アルトの顔を。


 じっと見ていた。


「…………」


 朦朧とした瞳。


 嫌悪。


 気味の悪いものを見るような。


 そんな目。


「……死ね」


 指に。


 力が入る。


 パキパキ――。


 氷が。


 アルトの首元へ。


 広がり始めた。


「ぐっ……!」


「アルト君!」


 その時。


「…………?」


 リヒトの動きが。


 止まった。


「……?」


 アルトも。


 苦しげに目を開く。


「…………」


 リヒトは。


 アルトを見ていない。


 視線が。


 ゆっくりと。


 横へずれていく。


 アルトの。


 すぐ傍ら。


 何もないはずの場所。


「…………」


 朦朧としていた瞳が。


 僅かに。


 開いた。


「……あ?」


 リヒトが。


 アルトから手を離す。


「っ……!」


 アルトが地面へ落ちる。


「アルト君!」


 シオンが。


 すぐに駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


「は、はい……」


 アルトは。


 首元を押さえながら。


 リヒトを見る。


「…………」


 様子が。


 変わった。


 さっきまで。


 ほとんど感情なんて。


 見えなかったのに。


 今は。


 何かを見つけたように。


 目が。


 はっきりと開いている。


「…………」


 リヒトは。


 アルトの傍らを。


 じっと見つめていた。


「……いた」


「……?」


 アルトが眉を寄せる。


 そして。


 次の瞬間。


「…………!」


 リヒトの口元が。


 ゆっくりと。


 吊り上がった。


 笑った。


 けれど。


 それは。


 嬉しそうな笑顔なんかじゃない。


 どこか。


 壊れたような。


 狂気じみた笑み。


「…………」


 シオンが。


 反射的に《穿雫》を構える。


 リヒトは。


 それすら見ていない。


 ただ。


 アルトと。


 その隣にいる何かを。


 交互に見て。


 笑う。


「……お前」


「…………」


「何を――」


 笑みが。


 さらに深くなる。


「連れてきた?」

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