何を連れてきた
◇
パキン――。
二人の間で。
地面が凍りついた。
「…………」
男は。
アルトを見つめていた。
青白い髪。
朦朧とした瞳。
けれど。
その奥にだけ。
はっきりと。
嫌悪が浮かんでいる。
「……気味が悪い」
「……?」
アルトが眉を寄せる。
男――リヒトは。
ゆっくりと右手を上げた。
「アルト君!」
シオンが前へ出る。
「……死ね」
パキパキパキパキ――!
「っ!」
青白い氷が。
地面を一気に走った。
「避けてください!」
「はい!」
二人が左右へ飛ぶ。
直後。
ドドドドッ!
地面から。
無数の氷柱が突き上がった。
「うわっ!」
アルトが地面を転がる。
顔を上げる。
「いきなり何なんですか!」
「…………」
返事はない。
リヒトは。
ただ。
アルトを見る。
その右手が。
また上がる。
「来ます!」
シオンが《穿雫》を構える。
次の瞬間。
ヒュンッ!
「……!」
巨大な氷の刃が。
横薙ぎに飛んできた。
「っ!」
シオンが前へ出る。
《穿雫》を振るう。
ガキィン!
「くっ……!」
重い。
受け止めた腕が。
大きく震える。
そして。
パキッ――。
「……!」
《穿雫》の表面に。
白い霜が広がった。
「シオンさん!」
「大丈夫です!」
シオンが。
力任せに氷の刃を弾き返す。
だが。
「…………」
リヒトは。
もうそこにはいない。
「……え?」
アルトが目を見開く。
「後ろです!」
「っ!」
振り返る。
遅い。
リヒトが。
すでに目の前にいた。
「――!」
アルトが武器を振るう。
ガンッ!
「……!」
止められた。
リヒトの左腕。
その表面を覆った。
青白い氷。
それだけで。
アルトの一撃を。
完全に受け止めている。
「硬っ……!」
「…………」
リヒトは。
何も言わない。
そのまま。
右手を伸ばす。
「……!」
アルトが身を引く。
指先が。
頬を掠めた。
瞬間。
パキッ――。
「冷たっ……!」
頬に。
薄い霜。
「アルト君!」
シオンが。
横から踏み込む。
「はぁっ!」
《穿雫》を突き出す。
「…………」
リヒトが。
僅かに顔を向ける。
それだけ。
次の瞬間。
パキィン!
「っ!?」
地面から。
氷の壁が突き上がった。
《穿雫》の穂先が。
氷へ突き刺さる。
「くっ……!」
「シオンさん!」
アルトが。
リヒトへ向かって走る。
「こっちです!」
「…………」
リヒトの視線が。
アルトへ戻る。
「……っ!」
アルトが踏み込む。
一撃。
リヒトが避ける。
二撃。
氷を纏った腕で受ける。
三撃目。
「はぁっ!」
渾身の一撃。
ガァン!
「……!」
リヒトの身体が。
僅かに後ろへ滑った。
「入った……!」
「…………」
だが。
リヒトは。
何事もなかったように顔を上げる。
「……え」
アルトの表情が固まった。
リヒトの右手が。
腹へ。
「――っ!」
ドゴッ!
「がっ!」
重い一撃。
アルトの身体が。
くの字に折れる。
「アルト君!」
シオンが叫ぶ。
「…………」
リヒトは。
そのまま。
アルトの顔を掴んだ。
「ぐっ……!」
指先から。
冷気。
パキッ。
アルトの髪に。
霜がつく。
「……っ」
冷たい。
頭の奥まで。
凍らされるような。
痛み。
「離してください!」
シオンが。
氷壁を砕き。
駆ける。
リヒトは。
反応しない。
ただ。
アルトの顔を。
じっと見ていた。
「…………」
朦朧とした瞳。
嫌悪。
気味の悪いものを見るような。
そんな目。
「……死ね」
指に。
力が入る。
パキパキ――。
氷が。
アルトの首元へ。
広がり始めた。
「ぐっ……!」
「アルト君!」
その時。
「…………?」
リヒトの動きが。
止まった。
「……?」
アルトも。
苦しげに目を開く。
「…………」
リヒトは。
アルトを見ていない。
視線が。
ゆっくりと。
横へずれていく。
アルトの。
すぐ傍ら。
何もないはずの場所。
「…………」
朦朧としていた瞳が。
僅かに。
開いた。
「……あ?」
リヒトが。
アルトから手を離す。
「っ……!」
アルトが地面へ落ちる。
「アルト君!」
シオンが。
すぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
アルトは。
首元を押さえながら。
リヒトを見る。
「…………」
様子が。
変わった。
さっきまで。
ほとんど感情なんて。
見えなかったのに。
今は。
何かを見つけたように。
目が。
はっきりと開いている。
「…………」
リヒトは。
アルトの傍らを。
じっと見つめていた。
「……いた」
「……?」
アルトが眉を寄せる。
そして。
次の瞬間。
「…………!」
リヒトの口元が。
ゆっくりと。
吊り上がった。
笑った。
けれど。
それは。
嬉しそうな笑顔なんかじゃない。
どこか。
壊れたような。
狂気じみた笑み。
「…………」
シオンが。
反射的に《穿雫》を構える。
リヒトは。
それすら見ていない。
ただ。
アルトと。
その隣にいる何かを。
交互に見て。
笑う。
「……お前」
「…………」
「何を――」
笑みが。
さらに深くなる。
「連れてきた?」




