再演②
「…………っ」
フィリアが。
一歩踏み出した。
その瞬間。
「――っ!」
ズキン。
腹の奥に。
鋭い痛みが走った。
「ぐっ……」
思わず。
身体が僅かに折れる。
手が。
腹へ伸びそうになる。
「…………」
でも。
触れなかった。
すぐに。
《遠音》を構え直す。
「…………」
大丈夫。
まだ。
動ける。
これは。
キールにつけられた傷じゃない。
もっと前。
カイルとの戦いで受けた傷。
治りきっていない腹の傷が。
ここまでの激しい動きで。
また痛み始めている。
「…………っ」
フィリアは。
何事もなかったように。
キールを睨んだ。
「…………」
だが。
キールは動かなかった。
「……なに?」
「いえいえ」
ニヤリ。
金歯が覗く。
「なるほど」
「…………?」
「先ほどから少々、妙だと思っていたのですよ」
キールの視線が。
ゆっくりと下がる。
顔。
肩。
そして――
腹。
「……!」
フィリアの表情が。
僅かに強張った。
「《天翔け》で飛び回る割には、着地の際に身体を捻らない」
「…………」
「攻撃を避ける際も」
仕込み杖の切っ先が。
フィリアの腹へ向けられる。
「無意識に腹部を庇っている」
「……何が言いたいの?」
「ハッハハ」
キールが笑う。
「強がらなくても結構」
仕込み杖を。
くるりと回した。
「そこ――」
切っ先が。
真っ直ぐ腹を指す。
「すでに怪我をしているのでしょう?」
「…………」
フィリアは答えない。
「しかも」
キールが目を細める。
「私がつけた傷ではない」
「…………っ」
「随分と無茶をなさいますねぇ」
ゆっくり。
キールが歩き出す。
「治りきってもいない身体で、空を飛び回るとは」
「……だから何?」
「いえ?」
キールが笑う。
「ただ――」
風が。
キールの足元へ集まる。
「弱点を教えていただけて」
ブワッ!
「感謝しているだけですよ」
「……!」
消えた。
フィリアが咄嗟に《遠音》を構える。
「《天翔け》――!」
飛ぼうとした。
ズキン!
「っ……!」
一瞬。
身体が止まる。
その一瞬で。
「遅い」
「……!」
キールが。
懐へ潜り込んでいた。
仕込み杖の柄が。
真っ直ぐ。
腹へ。
「しまっ――」
ドゴッ!
「――っ!?」
カイルから受けた傷。
その真上へ。
容赦なく。
一撃が叩き込まれた。
「か……っ……!」
息が。
消えた。
身体から力が抜ける。
「ハッハハ!」
キールが笑う。
「戦いとはね、お嬢さん」
崩れ落ちるフィリアの耳元で。
囁く。
「弱いところを隠した者が勝つのではありません」
金歯が。
目の前で光る。
「見つけた者が――勝つのですよ」
ドンッ!
「がっ!」
蹴り。
フィリアの身体が。
地面を転がった。
何度も。
何度も。
そして。
「…………っ」
ようやく止まる。
腹が。
熱い。
痛い。
息をするだけで。
傷の奥が脈打つ。
「く……そ……」
それでも。
フィリアの手は。
《遠音》を離さなかった。




