お疲れ!
「……あ?」
ゼンの表情が。
初めて歪んだ。
「見えてるけど、見えてねぇ?」
「そ」
ライが楽しそうに笑う。
「俺がどこにいるかは分かってんだろ?」
「…………」
「でも、身体が追いついてねぇ」
「……チッ」
ゼンが拳を握り締めた。
「舐めやがって……!」
地面を蹴る。
「おらぁ!」
《クラッシャー》を纏った拳が。
ライの顔面へ迫った。
「…………」
ライは避けない。
ドゴンッ!
拳が。
真正面から頬へ叩き込まれる。
「……!」
確かな手応え。
だが。
「…………」
ライは。
立っていた。
一歩も動かず。
殴られたままの姿勢で。
ゆっくりとゼンへ顔を戻す。
「お?」
「…………は?」
ライが頬を撫でる。
首を左右に傾け。
「うーん」
「……なんだよ」
「全力でこいよ?」
「…………!」
「今の全力だった?」
ゼンの額に。
青筋が浮かんだ。
「てめぇ……!」
「せっかく俺が止まってやってんだからさ」
ライが手招きする。
「ほら」
「……ぶっ殺す!」
ゼンの霊素が。
一気に膨れ上がった。
「お?」
ライが目を細める。
「後悔すんなよ……!」
ゼンが右腕を下げる。
服の下。
腕を覆う《クラッシャー》へ。
霊素が集中していく。
ゴゴゴゴ……。
地面が震えた。
「…………」
ライが足元を見る。
小石が。
カタカタと跳ねている。
次の瞬間。
土が。
石が。
砕けた岩の欠片が。
一斉に浮かび上がった。
「へぇ」
それらが。
ゼンの右腕へ集まっていく。
ガキッ。
ガキガキッ!
《クラッシャー》を覆うように。
土と石が幾重にも重なり。
霊素によって。
強引に圧縮されていく。
やがて。
ゼンの右腕は。
巨大な岩塊のような拳へと姿を変えていた。
「…………」
ライがそれを眺める。
先ほどまでより。
明らかに。
強い。
「今度はちょっと期待できそうじゃん」
「その余裕……!」
ゼンが腰を落とす。
ミシッ。
踏み込んだ足元が。
重みに耐えきれずひび割れた。
「ぶっ潰してやる!」
ドンッ!
地面が爆ぜる。
ゼンが一直線に駆ける。
「うおおおおお!」
巨大な岩石の拳を。
振りかぶった。
狙いは。
ライの腹。
「――《グランドインパクト》!」
ドゴォォォンッ!
「……っ!」
凄まじい衝撃が。
森の中へ響き渡った。
ゼンの拳を覆っていた岩石が。
衝撃に耐えきれず。
一斉に砕け散る。
ライの身体が。
初めて。
地面を滑った。
「はぁ……!」
数メートル。
後方へ押し込まれ。
ようやく止まる。
「はぁ……はぁ……!」
ゼンが荒く息を吐く。
「どうだ……!」
「…………」
ライは俯いていた。
「…………」
腹へ手を当てる。
服が破れている。
その下には。
僅かに。
傷がついていた。
「……おー」
ライが顔を上げる。
「今のは効いたわ」
「へっ……!」
ゼンが口元を吊り上げる。
「ざまぁみろ……!」
「うんうん」
ライが頷く。
「まぁ――」
ニッ。
「伸び代はあるわ!」
「……あ?」
「でも」
ライの両手が。
腰へ回った。
「…………!」
シャキンッ!
二振りの刃が抜かれる。
両手に握られたのは。
拳を覆うように刃が伸びた。
二本のカタール。
「いらねぇ!」
「…………」
ゼンの笑みが消えた。
ライは。
カタールを軽く構える。
それまでの。
遊ぶような雰囲気のまま。
「じゃ!」
バチッ!
青白い雷が。
ライの全身を包み込む。
「お疲れ!」
「……っ!」
ゼンが地面を踏み締めた。
振動。
来る。
分かる。
どこから来るのかも。
分かる。
だが――。
「クソ……!」
身体が。
追いつかない。
バチンッ!
青白い閃光が。
ゼンの視界を横切った。
同時に。
二本の刃が。
ゼンへ迫った。




