見えてねぇな?
◇
「ったく……」
ゼンは倒れたムウを見下ろした。
「手間かけさせやがって」
腹を押さえたまま。
ムウはぴくりとも動かない。
さっきまで辺りを覆っていた霧も。
少しずつ薄くなり始めていた。
「……終わりだな」
ゼンは右腕を軽く振る。
服の下。
腕に装着したままの《クラッシャー》が。
鈍い音を立てた。
「さて……」
シオン達のところへ戻る。
そう思った。
その時。
「……あ?」
ゼンの足が止まる。
地面へ。
僅かな振動。
「…………」
目を細める。
何かいる。
いや。
来る。
「なんだ……?」
ゼンがしゃがみ込み。
地面へ指先を触れた。
振動が。
近づいてくる。
木の根を伝い。
土を駆け抜け。
一直線に。
こちらへ。
「……速ぇ」
思わず呟く。
いや。
速いなんてもんじゃない。
次の瞬間。
バチンッ!
「……!」
青白い光が。
ゼンの目の前を駆け抜けた。
強い風が。
遅れて吹きつける。
「っ!」
ゼンが腕で顔を覆う。
「なんだ今の……!」
「あれ?」
声。
「……!」
ゼンが振り返る。
少し離れた木の根元。
一人の青年が立っていた。
短い金髪。
見るからにガラの悪い風貌。
「なんだよ」
青年――ライが。
つまらなそうに倒れているムウを見る。
「もう終わってんじゃん」
「…………」
「さっきまで結構うるさかったから来たのによ」
頭を掻く。
「ハズレかぁ」
「誰だ、てめぇ」
「あ?」
ライがゼンを見る。
「俺?」
ニッと笑う。
「ライ」
「……ライ?」
「そう」
ゼンの目が細くなる。
「てめぇもこいつの仲間か?」
ムウへ視線を向ける。
「知らねぇ」
「は?」
「そいつ誰?」
「…………」
ゼンの眉間に皺が寄る。
「じゃあ何しに来た」
「言ったじゃん」
ライが笑う。
「面白そうだったから」
「……チッ」
ゼンが腰を落とす。
「だったら帰れ」
「えー」
「今なら見逃してやる」
「なんで?」
「あ?」
「せっかく来たのに」
バチッ。
ライの身体から。
青白い雷が弾ける。
「遊ぼうぜ」
「…………」
ゼンも。
ゆっくり拳を握り締める。
「後悔すんなよ」
「ハハッ!」
ライの顔が輝く。
「いいじゃん!」
次の瞬間。
「――《伝雷》」
バチンッ!
消えた。
「……!」
だが。
ゼンの視線は。
別の方向へ動いていた。
右。
地面から。
振動が来る。
「そこ!」
ゼンが振り返る。
《クラッシャー》を振るう。
ブォン!
「お?」
拳が。
僅かにライの頬を掠めた。
「…………」
ライが数歩離れた場所へ着地する。
頬へ手を当てる。
「……へぇ」
「…………」
ゼンは地面を踏み締めたまま。
ライへ顔を向ける。
「見えてんぞ」
「…………」
ライの口元が。
ゆっくり吊り上がる。
「お前」
嬉しそうに笑った。
「おもろいな」
再び。
雷が弾ける。
「――《伝雷》」
左。
「!」
ゼンが反応する。
拳を振るう。
だが。
空を切った。
「……っ!」
後ろ。
振動。
「遅ぇよ」
「!」
振り返る。
もういない。
右。
左。
前。
背後。
「チッ……!」
全部。
分かる。
地面を伝う振動で。
どこにいるか。
どこへ向かったか。
それなのに。
身体が。
追いつかない。
「そこだ!」
拳。
空振り。
「こっち」
「……!」
蹴り。
かわされる。
「あー」
ライの声が。
ゼンの背後から聞こえた。
「なるほどね」
「…………!」
振り返る。
目の前。
ライが立っている。
近い。
「お前さ」
ニッ。
「見えてるけど――」
バチッ。
「見えてねぇな?」
「……あ?」
ゼンの表情が。
初めて歪んだ。




