死んどくか?
◇
「ぐっ……!」
ラグナの身体が地面を転がった。
何度か地面を跳ね。
木の根元へぶつかって、ようやく止まる。
「がっ……はぁ……!」
腹を押さえながら。
荒い呼吸を繰り返す。
服は破れ。
身体の至るところに傷が刻まれていた。
「クソ……!」
ラグナが地面を殴る。
「あのガキ……次会ったら殺す……!」
「あーぁ」
「……!」
頭上から。
気の抜けた声が降ってきた。
ラグナが顔を上げる。
太い枝の上。
一人の青年が座っていた。
歳は十八ほど。
短く切った金髪。
見るからにガラの悪い風貌。
ライ。
片膝を立て。
呆れたようにラグナを見下ろしている。
「お前、ダメじゃん」
「……あ?」
「あんな怪我人に負けて」
「…………」
ラグナのこめかみが引きつる。
「……うるせぇ」
「んだよ」
ライが枝から飛び降りた。
スタッ。
「せっかく助けてやったのによ」
「頼んでねぇ……!」
「じゃあ、あのまま捕まってりゃよかったじゃん」
「……!」
ラグナが歯を食いしばる。
ライはそんな様子を気にも留めず。
傷だらけのラグナを上から下まで眺めた。
「…………」
「なんだよ」
「いやぁ」
ライが頭を掻く。
「どーすっかなぁって」
「何がだ」
「兄貴がお前の力、必要だって言うからさ」
「…………」
「わざわざ助けたけど」
ライが首を傾げる。
「こんなに弱いなら……」
ニッ。
「お前、いらねぇよ」
「……あ?」
バチッ。
青白い雷が。
ライの身体を走った。
「死んどくか?」
「……!?」
ラグナの顔色が変わる。
「ふざけんな!」
腕を振るう。
ジャラッ!
鎖が鳴り。
巨大な鉄杭が宙を舞った。
「舐めやがって!」
ブォン!
鉄杭が。
凄まじい勢いでライへ迫る。
「…………」
だが。
ライは動かない。
避ける素振りすら見せず。
ただ飛んでくる鉄杭を眺めていた。
「死ねぇ!」
ドゴンッ!
鉄杭が。
ライの腹へ直撃した。
「…………」
鈍い音が森へ響く。
「……は?」
ラグナの表情が固まった。
ライの身体は。
僅かに揺れただけ。
吹き飛ばない。
倒れもしない。
鉄杭が直撃した腹にも。
傷一つない。
「…………」
ライが自分の腹を見る。
次に。
鉄杭へ視線を落とす。
「お?」
「……なんなんだ、てめぇ」
「ん?」
「なんで……効いてねぇんだよ……!」
「さぁ?」
ライ自身も。
大して興味がなさそうだった。
「クソが……!」
ラグナが鎖を強く握り締める。
「だったら――!」
霊素が。
一気に膨れ上がった。
「《重圧》!」
ズンッ――!
「お?」
ライの身体が沈んだ。
足元の地面がひび割れ。
草が押し潰される。
「…………」
ライが腕を持ち上げようとする。
「おお?」
重い。
肩。
腕。
脚。
全身へ。
強烈な圧力がのしかかっている。
「はぁ……はぁ……!」
ラグナがさらに霊素を注ぎ込む。
「どうだ……!」
ズズッ。
ライの両脚が地面へ沈んでいく。
「これが俺の力だ!」
「…………」
ライが手を握る。
開く。
もう一度。
ゆっくりと握る。
「お?」
「……っ!」
ラグナの顔が引きつった。
鉄杭をぶつけた時より。
今の方が。
明らかに効いている。
「動きづらいな」
「……!」
ライが楽しそうに笑った。
「やっぱ便利じゃん、それ」
「……あ?」
腹に当たったままの鉄杭を。
片手で押し退ける。
ガランッ。
「兄貴が欲しがるわけだ」
「欲しがる……?」
ラグナが眉を寄せる。
「俺の力が必要なんだろ?」
「んー」
ライは《重圧》を受けながら。
ラグナを眺める。
「まぁな」
「だったら!」
「でも――」
ライが首を傾げた。
「今のお前じゃ、足りねぇけど」
「……何?」
ラグナの眉間に。
深い皺が寄った。
「どういう意味だ」
「さぁ?」
「ふざけやがって……!」
ラグナの霊素が。
さらに膨れ上がった。
「だったら……もっと喰らえ!」
ズズズズッ――!
《重圧》が。
さらに強くなる。
地面が沈み。
ライの足が。
深くめり込んでいった。




