躾が必要な様ですね
フィリアは。
すぐさま次の矢を番えた。
「なるほど」
キールが足元へ視線を落とす。
「私ではなく、足場を狙うと」
「そういうこと!」
放つ。
ヒュン!
矢が一本目とほぼ同じ場所へ突き刺さった。
ピシッ。
太い枝に亀裂が走る。
「おっと」
キールが隣の枝へ飛び移った。
「悪くない発想です」
「まだ!」
三本目。
今度は。
キールが着地しようとした枝へ。
「ふむ」
キールが杖を振るう。
フッ――!
「あっ」
矢が弾かれた。
フィリアの眉が寄る。
「足場を狙えばよい。確かにその通り」
キールは悠々と着地する。
「しかし――」
金歯を覗かせ。
笑う。
「私がそれを見過ごす理由もないでしょう?」
「……ほんっとムカつく!」
「おやおや」
フィリアが矢を連射する。
一本。
二本。
三本。
キール本人。
足元。
頭上の枝。
狙いを散らす。
だが。
キールは杖を振るい。
次々と矢を逸らしていく。
「素晴らしい!」
フッ!
「ですが!」
フッ!
「まだ足りない!」
最後の一本まで弾かれる。
「くっ……!」
「では、お返しです」
杖がフィリアへ向いた。
ヒュッ!
「っ!」
フィリアが急上昇。
避ける。
さらに。
ヒュッ!
「わっ!」
横へ。
ヒュッ!
「しつこい!」
急降下。
キールの攻撃をかわしながら。
フィリアは考える。
あの風。
自分に飛んでくるものを弾く。
でも。
「…………」
全部じゃない。
さっきから。
キールは杖を使っている。
矢が飛ぶたびに。
僅かに。
杖を動かしている。
「……もしかして」
「おや?」
フィリアが。
再び矢を番えた。
「それ、自動じゃないでしょ」
「…………」
キールの笑みが。
ほんの僅かに止まった。
「へぇ」
フィリアがニヤッとする。
「当たり?」
「さて、何のことでしょう」
「分かりやす」
放つ。
キールが杖を動かす。
矢が逸れる。
「やっぱり!」
「……これはこれは」
キールが肩を竦める。
「意外と頭が回る」
「意外は余計!」
フィリアが《天翔け》を強める。
一気に上空へ。
「だったら!」
一本。
矢を番える。
「弾ききれないくらい――」
風が。
《遠音》へ集まっていく。
「撃てばいい!」
放つ。
ヒュン!
一本。
だが。
その一本を追うように。
フィリアが次の矢を放つ。
二本。
三本。
四本。
五本。
「……!」
キールが杖を振るう。
一射目が逸れる。
すぐに二射目。
弾く。
三射目。
「ふっ!」
弾く。
四射目。
「…………!」
キールの表情から。
余裕が少しずつ消えていく。
五射目。
「チッ!」
杖を大きく振るった。
矢が頬の横へ逸れる。
その瞬間。
「今!」
フィリアが急降下した。
「なっ……!」
矢を囮に。
自分自身が距離を詰める。
「もらった!」
《遠音》を横薙ぎに振るう。
ガンッ!
キールが杖で受け止めた。
「ぐっ……!」
「どう!」
「いやはや……!」
鍔迫り合う。
キールの顔が。
すぐ目の前。
「随分とお転婆なお嬢さんだ!」
「お嬢さんって呼ぶな!」
フィリアが蹴りを放つ。
「おっと!」
キールが飛び退いた。
フィリアも追う。
だが。
「――《弾風》」
「っ!?」
至近距離。
風が炸裂した。
ドンッ!
「きゃっ!」
フィリアが吹き飛ばされる。
《天翔け》でなんとか止まる。
「……痛ったぁ」
「危ない危ない」
キールが服についた埃を払う。
だが。
先ほどまでとは違う。
髭の端が。
僅かに切れていた。
「…………」
キールがそれに触れる。
指先を見る。
「…………」
「あ」
フィリアも気づいた。
ニヤッ。
「切れてる」
「…………」
「自慢の髭?」
「…………」
「ごめんね?」
全く悪びれずに笑う。
キールの頬が引きつった。
「……どうやら」
杖を握る手に。
力が籠もる。
「少々、躾が必要なようですね」
「やってみれば?」
フィリアも《遠音》を構える。
「おっさん」
再び。
二人の間を。
風が吹き抜けた。




