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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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236/498

私の舞台では、主役になれない

          ◇


「――幕を上げるといたしましょう」


 キールが杖を掲げる。


 同時に。


 フィリアが指を離した。


 ヒュン!


 矢が一直線に飛ぶ。


 狙いは胸。


「ふむ」


 キールは避けない。


 フィリアの矢が届く。


 その直前。


 フッ――。


「……やっぱり!」


 矢が横へ弾かれた。


 キールの頬を掠めることすらなく。


 背後の木へ突き刺さる。


「何度繰り返しても同じこと」


 キールが大袈裟に両手を広げる。


「あなたの矢は、私には届きませんよ」


「だったら――」


 フィリアが二本の矢を同時に番える。


「届くまで撃つ!」


 二射。


 続けて三射。


 角度を変え。


 次々と放つ。


「おお、怖い怖い」


 キールが杖を振るった。


 フィリアの矢が。


 一斉に軌道を変える。


「……っ」


 一本も届かない。


「では」


 キールが杖の先を向けた。


「こちらの番です」


 ヒュッ!


「!」


 フィリアが《天翔け》で横へ飛ぶ。


 見えない何かが。


 さっきまでいた場所を通過した。


 背後の枝が。


 バキン!


 へし折れる。


「危なっ!」


「おや。お見事」


「白々しい!」


 フィリアが上昇する。


 だが。


「そこです」


「っ!」


 今度は正面。


 身体を捻る。


 頬の横を風が抜ける。


 さらに。


 右。


 左。


 下。


「くっ……!」


 フィリアは《天翔け》を駆使して飛び回る。


 見えない。


 速い。


 それでも。


「…………」


 避けられる。


 フィリアはキールを睨む。


 そして。


 僅かに笑った。


「なに?」


「いや」


 《遠音》へ矢を番える。


「思ったより大したことないなって」


「…………」


 キールの眉が動く。


「その程度なら――」


 フィリアが飛び出した。


「当たらない!」


 急降下。


 直後に急上昇。


 木々の間を縫うように飛び。


 キールとの距離を一気に縮める。


「ほう!」


 キールが杖を振るう。


 ヒュッ!


 フィリアは止まらない。


 首を傾けるだけでかわす。


 二発目。


 身体を捻る。


 三発目。


「っ!」


 翼のように広がる風を強く噴き出し。


 軌道を直角に変えた。


「……!」


 キールの目が僅かに見開かれる。


「もらった!」


 至近距離。


 矢を放つ。


 だが。


 フッ――!


「また!」


 目の前でも。


 矢が弾かれた。


 その瞬間。


「残念でした」


 キールの杖が。


 フィリアへ向く。


「っ!」


 風が炸裂した。


 ドンッ!


「きゃっ!」


 フィリアの身体が吹き飛ぶ。


 それでも空中で体勢を立て直し。


 《天翔け》で浮かび直す。


「痛ったぁ……!」


 脇腹を押さえる。


 キールは枝の上から動いていない。


「さて」


 杖をくるりと回す。


「そろそろご理解いただけましたか?」


「…………」


「あなたの矢が私へ届くことはない」


 ニィッ。


 金歯が覗く。


「これが私の固有術――」


 杖の先へ。


 風が集まる。


「《弾風》」


「……弾風」


「ええ」


 キールは芝居がかった仕草で一礼する。


「私へ迫るものを、風によって弾く」


「…………」


 フィリアが目を細める。


 だから。


 何度撃っても矢が逸れた。


「実に相性が悪い」


 キールが笑う。


「あなたにとっては、ですが」


「…………」


「空を舞い、遠方より矢を射る。いやはや、美しい戦い方です」


 杖をフィリアへ向ける。


「ですが――」


 笑みが深くなる。


「私の舞台では、主役にはなれない」


「……ムカつく」


「お褒めにあずかり光栄です」


「褒めてない!」


 フィリアが矢を番える。


 だが。


 今度は。


 すぐには撃たなかった。


「…………」


 考える。


 矢は弾かれる。


 近づいても同じ。


 だったら。


「……ん?」


 フィリアの視線が。


 キールではなく。


 その足元へ向いた。


 太い枝。


 さらに。


 周囲に生える木々。


「…………」


 そして。


 小さく笑う。


「そっか」


「おや?」


「別に――」


 《遠音》の向きを変えた。


「おっさんを狙わなくてもいいんだ」


 放つ。


 ヒュン!


 矢が。


 キールではなく。


 その足元の枝へ突き刺さった。


「……ほう?」


 フィリアは。


 すぐさま次の矢を番えた。

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