圧倒的に強い
ルールーは。
男の持つメイスを見つめた。
「…………」
メイスが触れた場所。
そこへ刻まれる術式。
直後に起こる爆発。
「《焼印》……」
「あ?」
男の眉が動いた。
ルールーの頭の中で。
何かが繋がった。
「……あ」
見たことがある。
ガイストを出る前。
今回の任務で渡された指名手配書。
その中に。
放火と殺人を繰り返している男がいた。
「ドグラス……」
ルールーが顔を上げる。
「ドグラス・ラドリゴ」
「…………」
男が。
ニヤリと笑った。
「やっと気づいたか」
「やっぱり……」
「俺も有名になったもんだなぁ!」
ドグラスが笑いながらメイスを肩へ担ぐ。
「だったら分かるだろ?」
ズン。
一歩。
「俺が何人殺してきたか」
ズン。
また一歩。
「何軒燃やしてきたか」
「…………」
「怖ぇだろ?」
ルールーの手が。
僅かに震える。
「……はい」
「あ?」
「怖いです」
ドグラスが笑った。
「ハハッ! だろうな!」
「あなたは強いです」
「…………」
ルールーは。
素直にそう思った。
強い。
戦いにも慣れている。
こちらが何をしようとしているのか。
すぐに見抜いてくる。
そして。
何より。
人を傷つけることに。
何の躊躇いもない。
むしろ。
殺すことを楽しんでいる。
自分とは。
全然違う。
「だったら――」
「でも」
「あ?」
ルールーが。
顔を上げた。
「一つだけ……分かりました」
ドグラスを見る。
「確かに、あなたは強いです」
そして。
自分の手を見る。
「戦いにも慣れてるし……」
ぎゅっと。
拳を握る。
「何より……殺しを楽しんでる」
「…………」
「でも」
ルールーは。
もう一度。
ドグラスを見た。
「力は――」
水が。
足元へ集まり始める。
「私の方が、圧倒的に強いです」
「…………あ?」
ドグラスの笑みが消えた。
「てめぇ……」
ルールーは答えない。
代わりに。
後ろを見る。
「…………」
助けた魔獣。
もう随分と離れた。
《澪標》を通して。
その位置を確かめる。
一歩。
二歩。
さらに。
森の奥へ。
「…………」
「何キョロキョロしてやがる」
ルールーは。
魔獣との距離を測り。
小さく頷いた。
「……このくらいなら」
両手を前へ出す。
「大丈夫そうですね……」
「あ?」
ドグラスが眉を寄せる。
次の瞬間。
ルールーの周囲から。
大量の水が噴き上がった。
「なっ……!」
ドグラスが思わず一歩下がる。
水が渦を巻く。
集まり。
圧縮され。
一本の巨大な形を作り上げていく。
柄。
刃。
そして。
ルールーの身体など。
遥かに上回る大きさへ。
「――《水標》」
水が弾ける。
ルールーの手に現れたのは。
身の丈以上の。
巨大な大斧。
「…………」
ドグラスが。
初めて。
言葉を失った。
小柄なルールーが。
自分より遥かに大きな斧を。
両手で握っている。
「……なんだよ、それ」
「…………」
ルールーは。
巨大な《水標》をゆっくりと持ち上げた。
先ほどまで震えていた腕で。
まるで。
その重量など存在しないかのように。
「いきます」
ドグラスの頬が。
僅かに引きつった。




