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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
入隊試験

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泣き叫ぶとこが見てぇんだよ

 男は一瞬だけ黙り。


 そして。


 嬉しそうに笑った。


「いいねぇ」


 巨大なメイスを持ち上げる。


「そういう奴が、泣き叫ぶところが見てぇんだよ」


「……っ」


 ルールーは息を呑んだ。


 怖い。


 逃げたい。


 足はさっきから震えている。


 それでも。


 背後から。


「ニュゥ……」


 弱々しい鳴き声が聞こえた。


「…………」


 ルールーが僅かに振り返る。


 倒木と炎に囲まれた小さな魔獣。


 怯えながら。


 じっとこちらを見ている。


「……大丈夫です」


 ルールーは小さく呟いた。


「すぐに助けますから」


「あぁ?」


 男が眉を寄せる。


「まだそいつの心配してんのか?」


「…………」


「お前、自分がどういう状況か分かってんの?」


「分かって……ます」


「だったら――」


 男が地面を蹴った。


「まず自分の心配しろよ!」


「……!」


 メイスが振り下ろされる。


 ルールーは両手を前へ。


「《水壁》!」


 水が一気に噴き上がった。


 メイスと激突する。


 ドンッ!


「きゃっ!」


 水が弾け。


 ルールーの小さな身体が後ろへ飛ばされた。


 地面を転がる。


「うっ……!」


「ハハッ!」


 男は止まらない。


「どうした!」


 再びメイスを振り上げる。


「さっきまで威勢よかったじゃねぇか!」


「っ……!」


 ルールーが慌てて起き上がる。


 横へ飛ぶ。


 直後。


 ドゴォン!


 地面が爆ぜた。


「きゃあっ!」


 熱風に押され。


 再び転がる。


「痛っ……」


 膝を擦りむいている。


 腕も熱い。


「ほら」


 ズン。


 男が近づく。


「逃げろよ」


 ズン。


「泣けよ」


 ズン。


「叫べよ!」


「…………」


 ルールーは後ずさる。


 怖い。


 勝てる気がしない。


 自分は。


 シオンみたいに強くない。


 フィリアみたいに空を飛べない。


 ゼンみたいに堂々ともしていない。


 それでも。


「ニュゥ……」


「……!」


 また。


 鳴き声。


 ルールーの足が止まった。


 これ以上下がれば。


 自分の後ろにいる魔獣へ。


 この男が届く。


「…………」


 ルールーは震える両脚へ力を込めた。


「あ?」


 男が笑う。


「どうした?」


「…………逃げません」


「聞こえねぇな」


「逃げません!」


 ルールーが両手を広げた。


 水が集まる。


「この子を助けるって……決めましたから!」


「ハッ!」


 男がメイスを振りかぶる。


「だったら一緒に燃えろ!」


 振り下ろす。


 ルールーも。


 両手を地面へ向けた。


「《水壁》!」


 再び水が噴き上がる。


 だが。


 男は笑った。


「同じのが何度も通じるかよ!」


 メイスが水壁へ触れる。


 その瞬間。


 男の腕から。


 赤い霊素が走った。


「――《焼印》」


 ドゴォォン!


「……!」


 水壁の内側で。


 爆発が起きた。


「きゃああっ!」


 水が吹き飛ぶ。


 ルールーの身体も。


 地面へ叩きつけられた。


「う……」


 耳鳴り。


 視界が揺れる。


 男の笑い声だけが。


 はっきり聞こえる。


「ハハハッ!」


 ルールーは地面へ手をついた。


「今の……」


 水壁そのものが爆発した。


 違う。


 水が爆発したわけではない。


「…………」


 ルールーが顔を上げる。


 さっき。


 男のメイスが触れた場所。


 そこから爆発した。


「……触れたところ?」


「ん?」


 男が笑う。


「何ブツブツ言ってんだ?」


「…………」


 ルールーは震えながら立ち上がる。


 男はそれを見て。


 少しだけ嬉しそうに目を細めた。


「まだ立つのか」


「…………」


「いいねぇ」


 メイスを肩へ担ぐ。


「もうちょい遊べそうだな」


 ルールーは答えない。


 ただ。


 男の持つメイスを。


 じっと見つめていた。

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