邪魔しないください!
シオンは。
ルールーの顔を見つめた。
声は震えている。
それでも。
逃げようとしている顔ではなかった。
「……分かりました」
「シオンさん?」
「ただし、無理はしないでください」
「……!」
ルールーが目を見開く。
「火を消すことを最優先に。敵を倒そうとは考えないこと」
「はい!」
「危険だと判断したら、すぐに戻ってください」
「分かりました!」
ルールーは大きく頷いた。
「アルト君」
「はい」
「ルールーが離れるまで、援護します」
「任せてください!」
アルトが《砕》を構える。
その様子を見て。
男が不機嫌そうに眉を寄せた。
「おいおい」
メイスを肩へ担ぐ。
「勝手に話進めてんじゃねぇよ」
男が地面を蹴った。
「誰が行かせるって――」
「行かせます」
シオンが踏み込む。
《穿雫》とメイスがぶつかった。
ガァン!
「っ!」
「……!」
重い。
シオンの足元が僅かに沈む。
「ハハッ! 細っこいくせにやるじゃねぇか!」
「アルト君!」
「はい!」
横から。
アルトが飛び込む。
「《砕衝》!」
「!」
《砕》を振り抜く。
衝撃が男へ迫る。
「チッ!」
男がシオンから離れ。
メイスを盾にした。
ドンッ!
「ぐっ……!」
大柄な身体が僅かに後ろへ押される。
「今です!」
「はい!」
ルールーが走り出した。
「待ちやがれ!」
男が追おうとする。
だが。
その前へ。
シオンが立つ。
「行かせません」
「邪魔だ!」
メイスを振るう。
シオンが《穿雫》で受け流す。
ギィン!
「アルト君!」
「分かってます!」
アルトも男の横へ回り込んだ。
ルールーが二人の横を駆け抜ける。
「シ、シオンさん!」
走りながら振り返る。
「アルト君!」
「大丈夫!」
アルトが《砕》を構えたまま答える。
「こっちは任せて!」
「……はい!」
ルールーが前を向く。
燃え広がる炎を追い。
森の奥へ走っていった。
「クソが!」
男が舌打ちする。
「逃がしやがって!」
「逃げたんじゃありません」
シオンが《穿雫》を向ける。
「あ?」
「あの子は、自分のやるべきことをしに行ったんです」
「知るかよ!」
男がメイスを振り上げる。
その時。
「シオンさん!」
「はい!」
アルトが《砕》を構える。
二人で迎え撃とうとした。
だが。
男は。
振り上げたメイスを――
地面へ叩きつけた。
ドゴォン!
「っ!?」
爆発。
炎と土煙が一気に巻き上がる。
「アルト君!」
「大丈夫です!」
アルトが腕で顔を覆う。
視界が塞がれる。
「どこに……!」
土煙の向こう。
男の姿が動いた。
アルト達へ。
ではない。
「……!」
シオンが気づく。
「ルールー!」
◇
「はぁっ……はぁっ……!」
ルールーは走っていた。
《澪標》で感じ取った炎を目指して。
「早く……!」
この先にも火がある。
そのさらに先にも。
森の中を。
点々と。
まるで誰かが意図的に火を放ったように。
「なんで……こんなこと……!」
木々の間を抜ける。
やがて。
「……!」
開けた場所へ出た。
炎。
何本もの木が燃えている。
草にも火が移り。
その近くには。
「……魔獣」
小さな魔獣がいた。
倒れた木に行く手を塞がれ。
炎から逃げられずにいる。
「待ってて!」
ルールーが駆け寄る。
両手を前へ。
「すぐ消しますから!」
水が集まる。
炎へ向けようとした。
その時。
ズンッ。
「……?」
後ろから。
重い足音。
ルールーの表情が固まった。
「まったくよぉ」
「…………」
ゆっくり。
振り返る。
炎の向こうから。
巨大なメイスを肩へ担いだ男が歩いてくる。
「手間かけさせんなよ」
「……どうして」
ルールーが後ずさる。
「シオンさん達は……」
「あいつらか?」
男が笑った。
「ちょっと派手にやったら見失ってくれたぜ」
「…………」
「それに」
男はメイスを肩から下ろした。
「俺は最初から――」
その視線が。
ルールーへ向く。
「弱そうなお前の悲鳴が聞きたかったんだよ」
「……!」
ルールーは一歩下がる。
背後には。
逃げられない魔獣。
周囲には。
燃え広がる炎。
「…………」
怖い。
足が震える。
それでも。
ルールーは逃げなかった。
震える手を。
ゆっくり前へ出す。
「……この子を」
「あ?」
「この子を助けるまで……」
水が。
ルールーの周囲へ集まっていく。
「邪魔しないでください!」
男が。
楽しそうに笑った。




